ア・グレイト・ディスカバリー・オブ・ファッキン・シリアス・ニンジャ・パワー #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スゴイだろ?褒めてよ」スゴイヘッドがバリキガムを噛みながら笑った。相当な体力を使ったようで、目の下には濃いクマができていた。だが瞳は、野心と自信に満ちていた。「これ、あれだよな?」「そう」「あの日のTVに映ったノイズまみれの」「そう」「お前マジでテンサイだぜ!」マナブが吠えた。

2016-03-11 23:09:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10月10日のあの日。禍々しくはためく謎の「忍」「殺」旗が、放送事故でNSTVに映し出された。あの夜、二人は偶然にも街頭モニタでそれを見ていた。彼らはニンジャが実在する事など知らない。「忍」「殺」の文字が誰のシグネチュアなのかも知らない。ニンジャスレイヤーという名前すら知らない。

2016-03-11 23:15:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これ見てよ、あの日スケッチしてたんだ。忘れてたけど、思い出した。で、作った」彼はスクラップブックを叩いて見せた。マナブは頭を振った。「何なんだよこのパワー…これマジでニンジャだろ。ニンジャ・パワーを感じるぜ…」「ね」「説明しろよスゴイヘッド、これ、何なんだ?」「反抗のシンボル」

2016-03-11 23:29:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「反抗のシンボル?」「そう。だから俺たちのTを買う奴に売れるよ、絶対売れる」「スゴイヘッド、お前あの旗の正体、調べたってのか?」あの日以来、TVは何も説明していない。世界は黙殺している。政府にとって不都合な他の様々な物事と同じく、なかった事になっているし、深入りすれば危険を招く。

2016-03-11 23:36:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「調べるわけないじゃんあんなヤバそうなの」「じゃあ何で解ったんだよ?」「だって俺、グラフィックアーティストだから。作ったやつの気持ちが解る」スゴイヘッドはスクラップノートを開き、ノイズを払いデザインを再現した過程を見せた。「完全にさ、ケンカ売ってるよ。絶対かなわないはずの何かに」

2016-03-11 23:46:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何かって、何だよ?勿体ぶんなよ」マナブは興奮気味に缶ビールを空けながら問う。スゴイヘッドは首をひねった。「いや、何だろ。考えとくわ。でもなんか感じるだろ?凄いパワーをさ!」「ギンギンに感じるぜ。ニンジャだ。ニンジャ・パワーだ……!」「HEHEHE、じゃあ印刷しよう、500枚?」

2016-03-11 23:56:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よし、刷るぞ!お前マジで鋭いなスゴイヘッド!まだこの街の誰も……ボンジ・ブラザーズも、テクノダ・スタジオだって、このグラフでT作ろうなんて思いついてねえよ!」「HEHEHE」「よし、この最高にヤバいTで最後の大勝負……」マナブは我に返りビールを吹いた!「ヤバすぎて売れねえ!!」

2016-03-12 00:03:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「売ろうよ。やっちゃおうぜ、ナブ」「ファーック!ダメだダメだダメだ!どの店も買い取ってくれねえんだよ!ヤバイやつは流通させられねえんだよ!」「マジで?これせっかく作ったのに?ダメなの?」スゴイヘッドは意気消沈した。「ダメかあー」無気力状態で床に転がりヘンタイプログラムを見始めた。

2016-03-12 00:10:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マナブは机で頭を抱えビールを飲み、苦悩した。失敗だ。デザイナーの火が消えればTは作れない。「どうすりゃいいんだ…」このままではチーム・イディオットは終了だ。チャンスは無くなる。イディオットでも、この先世界がどこに向かうかは、直感的に解っている。締め出され、すり潰され、終わるのだ。

2016-03-12 00:17:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ンアーッ!』スゴイヘッドのヘッドホンから甘いマイコ音声が漏れ出す。「ハッ!」その音がマナブのニューロンにデジャヴをもたらした!「おい、スゴイヘッド!」ヘッドホンを外し放り投げる!「何だよ、勘弁してくれよ」「スゴイヘッド!昨日何か専門用語で言ってたろ!?サブリミナルとか何とか!」

2016-03-12 00:21:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あ、作っていいの?旧世紀ヘンタイオイラン…」「ファック!違う!あの超クールなグラフィックを!コラージュだかリバイバルだかサブリミナルだか何でもいいから!元がわかんねえくらいにしてアートにしろよ!」マナブは『忍』『殺』Tを指差した。「ニンジャ・パワーだけ滲み出させンだよ!な!?」

2016-03-12 00:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無理だって……俺がやろうとしたのはさ」スゴイヘッドはヘッドホンを掛け直した。『ンアーッ!』「あ」そしてまたヘッドホンを取った!「あ、いいの思いついた」起き上がった!「よし!」「ありがと、ナブ、やってみる」「よし!俺が帰るまでに仕上げろ!」ビールを飲み干しマナブは仕事に向かった!

2016-03-12 00:38:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

42時間後。2人は空っぽになったリュックやスーツケースとともに、肌寒い深夜の繁華街を歩いていた。久々に街中に出たスゴイヘッドは、ピアスを全部つけて革ジャンに自作ヘンタイT、ジーザス野球帽の完全武装。怯え睨むような目つきで、雑踏や壁の落書きや、人々のイヤホンから漏れ出す音楽を観察。

2016-03-12 00:54:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その隣をヨタモノじみた態度で歩くのは、無地の安物パーカーフードを被った逞しいマナブ。「ファーック、マジかよ、ヤバいぜ…」彼は財布を開き、頭を叩いて計算する。何も知らぬ者から見れば、二人はカツアゲ・インティミデイト行為の犯人と哀れな被害者。だが実際は、デザイナーとその護衛者である。

2016-03-12 01:02:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

6個もピアスをつけたこのナードは、金をカツアゲされた上にこのまま事務所に連れ込まれ、ファック&サヨナラか?…違う。彼らは金を生み出したのだ!Tを売って!「おいヤバいぞ、マジ10万だ。今日1日で余裕で10万売れちまった。このままいったら、もしかして……オレたち年収3000万だぞ!」

2016-03-12 01:09:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マジで?滞納分返せる?」「1ヶ月ありゃ余裕だ」「そしたらもっと俺の好きなT作っていい?」「ああ、いくらでもな」…『実際安い』『監視カメラ1個買うと1個無料』『秩序』『ハイデッカー頼もしい』『安全未来』巨大ビルの谷、欺瞞に満ちたネオン看板群、チーム・イディオットは意気揚々と歩む!

2016-03-12 01:18:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時。「ヨー、マザファカ!」暗い路地裏から、厳しいスキンヘッド男が2人を呼び止めた。2人が振り向くと、その男の違法屋台の頭上で『実際安い』『Tシャツとオミヤゲ』のネオンが明滅した。スゴイヘッドは一歩後ろに下がった。「アア…?」マナブが睨む。「クソTシャツ作ったマザファカ共め!」

2016-03-12 01:27:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その違法オミヤゲ屋台には、製造元の怪しい東京タワー文鎮や、ジグラット・マグカップ、NSPDマグネットなどに並び、カナガワなどの暴力的バンドT、アクション映画スターT、ネコネコカワイイT、猥褻ジョークTなど、様々なスカム物品が吊るされ、ストリートアーティストらの新作Tも並んでいた。

2016-03-12 01:32:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「また返品じゃねえよな?」「ハハハ!見ろ、マザファカ共!」スキンヘッド店主は突如破顔し、吊るされたチーム・イディオットの最新Tと、店の前でカネを握る少しラリった感じのスケーターをそれぞれ指差した!「今まさに最後の一枚が売れた!追加注文だ!明日までに十枚持って来いマザファカ共!」

2016-03-12 01:40:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あんたら、これ、作ったの…?」客は、スカム商品群の中で圧倒的パワーを放つ、1枚のネオサイタマ夜景コラージュTを指差した。「超クールだわ」その中心には荘厳なるジグラットと監視カメラ。『秩序が好き』などの無数の抑圧的カンバン。スシ。UNIX。オイランドロイド。重金属酸性雨のノイズ。

2016-03-12 01:51:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『忍』『殺』の文字はどこにも無い。どこにも。あるのは写真と、手描きの稚拙なヘンタイと、ノイズだけ。反体制的ニュアンスは無く、無害なオミヤゲTに見えるため、店は気兼ね無く販売できる。だがスゴイヘッドはマナブの知らぬテクとデジ・トリックを施し、巧みにそのシンボルを封じ込めていたのだ。

2016-03-12 01:59:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そう、俺たちの作品」「超クール」隠しグラフィックがパワーを生み、主にラリった連中を中心に爆発的売れ行きを見せ始めていたのだ!スケーターは微妙に左右に揺れながら、このマンダラめいたTシャツを見て微笑む「なんかこう、来るわ、パワーが」「ああ、そりゃニン」マナブは言いかけ口を閉じた。

2016-03-12 02:06:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニン……?」「ファーック!何でもねえよ!ともかくだ!」マナブは笑い、スケーターとスキンヘッド店主の肩を叩き、興奮の面持ちでまくしたてた!「このTシャツはな、うちのテンサイ・デザイナーが作った最高のシリーズになるぞ!10枚?ケチくさい事言うなよ!今すぐ30枚行こうぜ!前金でさ!」

2016-03-12 02:09:52