スルー・ザ・ゴールデン・レーン #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エシオは胸元から社員手帳を取り出し、複雑な暗号樹形図めいた見開きページに、バツ印をいくつも書き足した。ページには「黄金の小径」と書かれていた。傷の手当てが終わると、エシオは手をかざして何事かチャントを呟き、旧型オイランドロイドを眠らせた。そして自分は無傷のUNIXの前に座った。

2016-05-09 23:00:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エシオは、次なる近隣ポイントへと即座に飛ばねばならなかった。この場所のIPをアルゴスに抜かれたからだ。IPを抜かれ物理座標を抑えられれば、地球上のどこも安全とは言えない。彼はチャントを呟きながらタイプし、IRCにアクセスした。次の瞬間、彼の物理肉体は消え、コトダマ空間へと飛んだ。

2016-05-09 23:00:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

11101011……IRCコトダマ空間内に、エシオの論理肉体が構築されてゆく。彼は物理肉体と同じスーツ姿で無限地平の世界を飛翔し、七つのトリイゲートウェイをくぐり抜けた。スリケンによる傷と痛みは残ったまま。コトダマの海では己を正確かつ強固に定義し続けねば変質し消滅してしまうのだ。

2016-05-09 23:06:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

遥か上空、黄金立方体から流れる黄金のエーテルの風のひとつに乗り、エシオは速度を増した。IRC痕跡を巧みに隠しながら、接続ポイントから接続ポイント、プロキシからプロキシを飛び渡る。敵の目を可能な限り欺くためだ。当然、ニューロンへの負荷は激しいが、もはやかつてのようには振る舞えない。

2016-05-09 23:11:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かつては違った。アルゴスが敵として立ち塞がるまで、コトダマ空間はエシオにとって最も安全な避難所であり潜伏所であり移動手段であった。たとえ敵意ある者に追われても、ピグマリオン社の論理秘匿領域であったトリイの島に逃げ込めば、数週間をコトダマ空間内部で過ごす事すらも不可能ではなかった。

2016-05-09 23:17:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

こうして追っ手をまき、再び黄金の小径の続く結節点へと物理肉体を跳躍させるのだ。これこそが、今日まで秘匿され続けてきた、ピグマリオン社が営業エージェントをエシオしか持たず護衛もつけぬ理由であった。そして社が異常なまでのAIシェアを持ちつつも、その実態が謎に包まれてきた理由であった。

2016-05-09 23:22:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが事態は変わった。「またひとつ小径が閉じた」エシオは電子的予兆を感じ取り、whisperする。上空に無数の目が浮かんだ。アルゴスの気配だ。エシオは黄金ストリームの先にある次なるポイントに狙いを定め、急加速した。アマクダリは彼を物理的、論理的に包囲し、追い詰めようとしているのだ。

2016-05-09 23:28:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エシオは捕獲される前にニンジャスレイヤーと接触し、アルゴス打倒のための鍵を渡さねばならなかった。だが接触のための試みは、全て失敗に終わっている。もはや後が無い。高速飛翔するエシオ。前方にオイランドロイドめいた少女が01ノイズとともに出現し、彼の行く手を塞いだ。「発見したドスエ」

2016-05-09 23:32:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは彼がナンシーと共に月面サーバに攻撃したあの日、アルゴスに吸収され、デーモンにされてしまったネコチャンAIであった。オイランマインドの秘密を隠し通すべく、エシオは彼女を切り離さざるをえなかったのだ。彼女は魂の抜けたような無表情で、エシオをSCANし、高速KICKを繰り出した。

2016-05-09 23:38:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エシオは辛うじてそれを空中飛翔回避し、反撃を繰り出さず、逃げた。デーモンは後方から追いすがる。前方には「網」の漢字がいくつも浮かび、アルゴスの仕掛けた電子的トラップを告げる。いまやアルゴスの作戦は、捕獲から排除へと切り替わっている。システムは、エシオの脅威度を明確に上方修正した。

2016-05-09 23:44:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネコチャンの殺人KICKがイナズマめいて繰り出される。その一撃に肩口を切り裂かれてながら、エシオは黄金の小径の結節点へとジャンプした。そして、消えた。アルゴスは再び彼を見失った。だが敵は、これまでのログから、エシオのUNIX物理ジャンプには物理的な距離制限があると見抜いていた。

2016-05-09 23:50:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よう同僚さん達、最近何か楽しいことはあったかい?」ニンジャ装束の内側から蛍光紫色の毒液を滲ませながら、カンニバルは和やかに呼びかけた。「まったく、アクシスってのは最高だね。オレも、昔は下賤な殺し屋をやってたんだがね。今じゃアンタがたと同じ、アクシス。ニンジャの秘密警察の一員さ」

2016-05-09 23:57:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オレはさ、昨日はハイデッカーをブッ殺してイキがってたギャング共を消してやったよ。ついでに、それを見て震え上がってた女とガキも、インガオホー。秩序に従わねえゴミを溶かすのは、最高だぜ。なにせ跡形もなく消えちまうんだからな」カンニバルは笑う。「オレはさ、こう見えて綺麗好きなんだよ」

2016-05-10 00:04:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無駄口を叩くな、カンニバル=サン」隣を歩く大柄なアクシスニンジャが無表情に言った。「我らは国家権力だ。相応しく振るまえ」このニンジャの名はネプチューンビートル。逞しい人間の体に、強大な2本の大角を備えたネプチューンカブトムシの頭部を持つ、異形のニンジャである。

2016-05-10 00:14:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その横には、ダウジングロッドを構える電子索敵ニンジャのマインスイーパ。彼の頭部はフルメンポで覆われ、電子音声を発する。カンニバルの横で荒々しいエンジン音を唸らせるのは、ヘルフィーンド。右腕には大型チェーンソーブレードが備わっている。

2016-05-10 00:21:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

停車したハイデッカー装甲車両群の放つ蒼白い光に照らされながら、この残忍なる四人のニンジャを従え先頭を歩くのは、ブラッドチェイサー。執念深きイヌ・ニンジャクランのグレーターソウル憑依者である。この者らは皆、アクシス制式ニンジャ装束とプロテクターを着用し、生体LAN端子を備えていた。

2016-05-10 00:31:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ねえ、ブラッドチェイサー=サン、何か楽しいことありましたかね、最近は」カンニバルは呼びかけた。「ニンジャスレイヤーと遭遇接敵した」彼は冷徹な声で返した。途端に、部隊内のアトモスフィアは、牛追い鞭を打たれたかのように張り詰めた。恐怖によってではない。残忍な闘争心によってである。

2016-05-10 00:42:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エシオを追うべく、アルゴスは複数のハイデッカー・アクシス混成部隊を編成し、複数の候補地点へ送りこんでいた。ブラッドチェイサー隊はその一つだ。何故この編成なのか、そして何故この四人と己のIRC情報アクセス権が異なるのか、彼は短い思案を行った。冷たい重金属酸性雨がまばらに降り始めた。

2016-05-10 00:53:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重い隔壁シャッターが下りた無人廃墟ビルの前に彼らは到達した。「「「捜査に協力せよ、市民!」」」ハイデッカーが酔漢ホームレスを包囲していた。「何が秩序だコラー!ここは半年前から開いたことなんてねえしずっと俺の家だコラー!」シャッター前の即席住居の中から薄汚い浮浪者が捨て鉢に叫んだ。

2016-05-10 01:02:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オッ、ゴミ掃除かい?オレの出番だ」カンニバルは待ってましたとばかりに駆け寄り、彼を即席住居の中から重金属酸性雨の下に引きずり出した。そしてバイオ毒液分泌腺から、強酸性の液をぶちまけた。「オゴーッ!」「アイエエエ!?アイエーエエエエエ!」酔漢は蛍光紫の吐瀉物を浴び、溶けて消えた。

2016-05-10 01:07:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ハイデッカーたちが無表情にそれを見つめ、クローンならではの統一感で、感謝を示す敬礼を行った。「ヘッ、ヘヘッ、ハハハハハ!」カンニバルは肩をすくめながら、ブラッドチェイサーを見て笑った。アルゴスはそれを見てよしとした。間も無くしてシャッターが破られ、ハイデッカーたちが雪崩れ込んだ。

2016-05-10 01:13:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この建物のデータは登録されていない。中に何があるのかは不明。屋内に漢字サーチライト灯火が行われ、重い隔壁シャッターの中に隠されていた施設をあらわにする。アクシスは踏み込んだ。銃撃の出迎えがあってもおかしくはないと身構えながら。だが「何だこりゃあ……」「ヘヘッ、楽しそうじゃねえか」

2016-05-10 01:22:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らの前に姿を現したのは、驚くほど高い天井。そして色褪せ埃を被ったローラーコースターのレールや、ヤブサメ・ゴーラウンドや、稚気じみたアトラクションの数々。中央には、錆びて傾いたトリイのモニュメント。ここは旧世紀に築かれ、建造途中で放棄された、メガトリイ社系列の屋内遊園地であった。

2016-05-10 01:27:27