- tasobussharima1
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瀬戸内海と淡路島、そして徳島沿岸部にかけての巨大徳エネルギーフィールドは、消失した。徳島を覆う赤い結晶からも光は失せ、フィールド内に充満した徳エネルギーは閉鎖空間から解き放たれ、周囲へと散っていく。 徳エネルギーそのものは、人体と環境に対し殆ど無害である。
2016-05-22 21:34:03しかし一定の臨界量を超えた徳エネルギーの奔流は、人を解脱させる救いへと姿を変える。 フィールドが消失したからといって、徳エネルギーの総量が減じた訳ではない。『効率』は遥かに悪化するとはいえ、その総量は、フィールド外縁に存在する集落や船団を飲み込むだろう。
2016-05-22 21:38:05フィールド境界の外側に居た『マロ』達にとって、それは今迄よりも寧ろ危険な状況とすら言える。制御を消失した、荒ぶる膨大な量の徳エネルギーは何を引き起こすか知れたものではない。 「おじゃっ!おじゃっ!」 「『マロ』さん落ち着いて!」 彼らの頼みは、崩壊寸前のフィールド中和器のみ。
2016-05-22 21:42:06……いや、今やそれはフィールド発生機として働き、元々の徳ジェネレータ本来に近い機能を果たそうとしている。つまりは、フィールドから解放された飽和量の徳エネルギーを吸い込み……逆流によって、連鎖的に『電源用』の徳ジェネレータが吹き飛んだ。 「……ブレーカーを付け忘れたでおじゃる」
2016-05-22 21:46:05急造品は、所詮急造品だ。得度兵器のような技術や工業力も無く、船団程のリソースを割くこともままならなかった『マロ』達の、これが限界だ。 桃色に光る空が、溢れ出そうとしていた。それは迫り来る夕闇の如く、『マロ』とヤオ達の足元を輪廻の外の異界へと呑み込もうとしている。
2016-05-22 21:50:06終わりが迫っていた。集落の人々にも、二人にも、もう手立ては残されてはいなかった。 「……今度こそ本当にここまで、でおじゃるか」 『マロ』は、生と死とを求めていた。それを彼は、今この瞬間まで忘れていた。 生は、過程に過ぎない。何処まで辿り着けたのかは、結果でしかない。
2016-05-22 21:54:08ならば。彼は、ここで終わっても構わない。そう思っていた。 ……そう、思っていた筈だ。 「麿は、もう随分と長いこと生きてきたでおじゃる」 だが、彼には悔いが残った。それは己の『正体』を、目の前の少女に明かせず仕舞いであったことだ。
2016-05-22 21:58:02少女はきょとんとしている。きょとんとした後、 「まだ諦めちゃ駄目だよ!」 そう励ましてくる。まだ、足掻こうと。そう主張する。 「『マロ』さんが幾つかは知らないけど、あと数十年くらいは生きられるんでしょう?」 彼は、望めばこの先幾らでも生きられるのだろう。数百年でも、千年でも。
2016-05-22 22:03:24「……麿はもう、千年以上は生きたでおじゃるよ」 そうして、彼は記憶が摩耗する程昔から生き続けてきたのだから。……こんなことを今言っても、信じて貰える保証など無い。だから、これはただの自己満足だ。ただ、己の今生の悔いを精算するだけの徳の低い行為だ。 それでも、
2016-05-22 22:06:56「そんなの、関係ないよ」 少女は、そう口にする。 「『マロ』さんが何年生きてても、諦めていい筈なんてない」 それはなんと希望に溢れた。そして、なんと残酷な言葉なのか。 生者の足掻く姿。定命を持つ者だけに許された輝き。嘗て彼が、侮っていたもの。
2016-05-22 22:11:26