- tasobussharima1
- 737
- 3
- 0
- 0
平安貴族の朝は早い。その生活様式を現代に再現する男……『マロ』の朝も、当然ながら早い。まだ空も暗い、午前三時頃。そこから彼の一日は始まる。起床後、まずは鏡で顔を見、楊枝を使って歯を磨く。そういった習慣も、『マロ』は忠実に再現する。歯の手入れをする楊枝は、枇杷の木で作られた逸品だ。
2016-04-17 21:04:05暦の確認、神仏への祈念といった習慣も欠かさない。とはいえ、徳カリプス以来、嘗ての暦は微妙な誤差を蓄積し始めているのだが。 「……今日は、中々良い日のようでおじゃるな」 その辺りは、個人の感性の問題である。ついでに、機械を使った簡単な健康診断も行う。
2016-04-17 21:08:03そして、平安貴族と同様……彼は起きて身繕いをした後すぐに、『日記』をつける。だが彼の場合は、映像や文章は用いない。彼の『日記』とは、記憶のバックアップ措置のことだ。 「……暇でおじゃる」 屋敷の中心に備え付けられた、専用の徳ジェネレータ。その中で『マロ』は座禅を組む。
2016-04-17 21:12:06彼の考案したシステムは、前日に積まれた功徳を徳エネルギーとして取り出すことで情報を読み出し、徳エネルギー流体演算器の応用技術によって『解読』し、保存する。そして次に転生した際に、保存した情報を徳エネルギーに乗せて新たな肉体へ注入することで……欠落した記憶の補完が可能となるのだ。
2016-04-17 21:16:02このシステムは、功徳情報理論の数少ない成果物である。難点は、稼働のために膨大な徳エネルギーと演算リソースを消費することと、今のところ彼の記憶以外では成功していないことなのだが。 つまるところ、厳密な作動原理は彼本人にすらよくわかっていない代物である。
2016-04-17 21:20:04その後、ようやく朝食。大抵は平安貴族に習い、適当に米を調理した粥である。但し『マロ』は「米を調理したものなら良い」という独自解釈によって、雑炊や炒飯を食すこともある。 髪を梳き、沐浴を済ませるのが午前七時頃。官僚でもある平安貴族達ならば朝廷へ向かう時刻だが、『マロ』は自由の身だ。
2016-04-17 21:24:01この時間を、彼は『スローライフ』の拡充に当てている。屋敷の点検や、日常生活を支える機械達の補修。資源の確保。そういった仕事を一人で済ませるうちに、時間はすぐに経ってしまうのだ。ごく稀に、地元の集落から頼まれた徳ジェネレータの調整や、ヤオの相談事に駆り出されることもある。
2016-04-17 21:28:02可能な限り昼過ぎには、彼は仕事を切り上げることにしている。とはいえ、実際には様々な雑事が食い込むことも珍しくはないのだが。その後は、趣味の時間だ。『マロ』の趣味は多岐に渡るが、その中でも大きなウェイトを占めるのは裁縫と料理である。衣食の充実は生活の質を高める効果もある。
2016-04-17 21:32:08「みかんゼリーの時のみかんが、まだ残っておじゃるなぁ……」 アフター徳カリプス世界での料理は、材料の調達を含んだ過酷な趣味である。時に一つの食材を手に入れるため、年単位の時間を投じることすらあるのだ。 「みかんソースを作るでおじゃる」 繰り返しになるが、過酷な趣味である。
2016-04-17 21:36:02午後四時。夕食。調理は機械任せにも出来るが、趣味の時間に作った物をそのまま食べることも珍しくはない。海の幸を中心とした豪華なメニューが多い。 ヤオが遊びに訪れるのが、夕飯の後始末を終えた午後五時~六時頃。夕食後の腹ごなしついでにロボ牛車を出し、屋敷の門で待つ。特に約束はしない。
2016-04-17 21:40:03ヤオ来ない時には、広大な枯山水庭園の調整を行う。手入れはロボット任せだが、その指示をするのは『マロ』自身だ。この仕事は、昼間には大抵終わらない。 少女と別れた後は、基本的にはそのまま屋敷へ戻り就寝。但し時折夜中に目が覚め、海を見るために牛車で出かけることがある。
2016-04-17 21:44:02#徳パンク なんか、あんまり関係ないのですけれど、隠岐に流された後鳥羽上皇や後醍醐帝あたりをふっと思い出してしまいました。マロさんも流刑の身の上みたいなものなのかなぁ…
2016-04-17 21:47:42これが、転生を繰り返す不死者、『マロ』の一日だ。 死の可能性を試すことは、いつでも出来る。不死者の彼が、今の、夢にまで見た平安貴族に限りなく近い生活を捨て去ってまでそれを決断することは……少なくとも当分は無いだろう。だから彼は、この場所でこのまま朽ちていく筈であった。
2016-04-17 21:48:03