- tasobussharima1
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『セミマルⅢ世』の艦橋。そこでは船長が唯一人、パイプから煙をくゆらせながら舵を握っていた。 「こういう終わりも、悪くはない」 あの有り難そうな機械の影響か、船は既に動力を失った。船員達には僚艦を含めて避難を命じ、居残った頑固者達も甲板の上で最後の抵抗を試みていることだろう。
2016-05-10 21:04:05「少なくとも、煙草が思い切り吸える」 そして……船を処分するのが、船長としての最後の責務だ。だが、その前に為すべきことがある。船は動力を失ったが、停止した訳ではない。あの得度兵器に船体をぶつけるだけの速度は、まだ、残っている。 せめて一太刀浴びせねば、戦いを始めた甲斐もない。
2016-05-10 21:08:03しかし今後得度兵器が本格的に徳エネルギーフィールドを使うようになったら徳エネルギー依存の機械は軒並み使い物にならなくなるなぁ。得度兵器自身が停止しないことから考えれば何らかの防護手段はあるはずなんだけど #徳パンク
2016-05-10 21:10:22彼は、無謀な行いの道連れが少なく済むことを感謝したが、何に感謝すればいいのか分からなかった。目の前にはお誂え向きに仏像のようなものがあるが、彼の祈りを聞き入れてはくれまい。 ただ無機質な救いが押し寄せる世界に、果たして神仏はあるのか。人は何に祈ればいいというのか。
2016-05-10 21:12:06答えはない。そして、彼をこれから何が待ち受けているのかもまた、未知の領域だ。 柔らかな光でできた蓮の花が浮かぶ海面を、船はゆっくりと進む。 船の情報触覚(センサ)は異常な値を弾き出しているが、まだ非常用の操舵システムも使える。自ら舵を握ることなど、最早無いと思っていたというのに。
2016-05-10 21:16:03徳カリプス以前。海運は高度に自動化され、船長という職業は形骸ばかりの代物となっていた。だから、彼はこの世界に少しだけ感謝していた。 彼もまた、徳カリプスによって多くのものを失った。それでも、再び船を操る機会を与えてくれた船団のために、己の居場所のために戦うことに異論は無かった。
2016-05-10 21:20:03「惜しむらくは……勝てなかったことか」 だが、そこまで望むのは欲張りというものだろう。解脱の時は、近付いていた。 しかし、 『……こえ、……ますか』 何処からか、声がした。声の出元は直ぐに判った。状況把握のために繋ぎ続けていた無線機である。部下達の声ではない。
2016-05-10 21:24:05既存戦力なら勝てると踏んでいたら新兵器が出てきてひっくり返されるというのは致し方ない部分もあるが……。さて、マロ氏の無人機からの接触かな #徳パンク
2016-05-10 21:26:38通信から聞こえたのは、少女の声だった。 この状況で、空気を読まずに通信を送り付けてくるような『少女』など、彼は一人しか知らない。 船団長。あの何時から生きているとも知れない、少女の声をした鵺。 「聞こえている。残念だがこの戦いは、我々の敗北だ。船を預かっておきながら、申し訳ない」
2016-05-10 21:28:02