極道×花魁

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原稿中につき低浮上ありーしゃ @areesha_arsha

それはそれは大層な女がいると思っていたが、そこにいるのは男。「はぁ?男?」そんなこと聞いてない。「あんたもそういう人か。そんなこというなら寝てから後悔しろ」威勢のいい花魁だと思った。だが俺は言葉の通り後悔する。なんだよ、こいつ。これまでの女より数段もいい、いや、比じゃない。

2016-05-31 08:07:52
弌葉 @cpasta0_0

【極道×花魁】「ねぇ男なんて最悪なんじゃなかったの?」どさりと布団に僕を押し倒すその人に尋ねる。「はっ、どの口が言う…」早急に着物を肌蹴させられ冷たい手が胸を這う。「んっ…だって…」「今はそんなことどうでもいいだろ」そう言って飾りを指で弾かれる。「ひゃあっ」「こっちに集中しろよ」

2016-05-31 09:38:34
原稿中につき低浮上ありーしゃ @areesha_arsha

艶かしい男に魅了される。触れれば身体をよじり、色気のある声で鳴く。服は乱れ、鮮やかなお召し物は身体を彩る花びら。なんと美しきかな。そのくせ女のような飾られたものではなく、凛と咲く姿に俺の手は止まることを知らない。薄暗い部屋の中、必死に求める。溺れているのは果たしてどちらか。

2016-05-31 10:52:58
弌葉 @cpasta0_0

嗚呼、こんなに溺れてしまってはもう他の女では満足できないな。ぽつりとそう零すと身体中に赤い花を散らしたそいつが雫を落とす。「僕だって…いや、何でもない」こいつは運命を知ってるのか、諦めた面持ちで首を振る。縒れた紅をそっと拭って口付けた。これ以上お前の口から何も聞きたくなかった。

2016-05-31 11:17:01
原稿中につき低浮上ありーしゃ @areesha_arsha

朱に染まる部屋が行灯の光で揺れ、音もなく暗闇に包まれる。もう見えまい、もう見せまい。口から紡がれかけた言葉も、零れ落ちた雫も。暗闇に全てを包ませ、ただ泡沫の夢を胸に刻む。うつせみでなければと、叶わぬ願いをこめて。時折響く甘美な鳴き声と布の擦れる音。隠すようぽつりと呟く。「好きだ」

2016-05-31 13:28:05
弌葉 @cpasta0_0

好きだと漏らした音が座敷を揺らす。しまったと思った時には遅かった。目の前の小さな瞳は揺蕩い定まる所を知らない。「それはいけない」そう呟いて俺の目を手で覆った。行灯の燈さえ届かなくなる。逸らさせはしねぇよ。「逃げんなよ」手首を掴み、視界を開いて揺れる翡翠を咎める。「好きだ」

2016-05-31 15:40:54
原稿中につき低浮上ありーしゃ @areesha_arsha

叶わぬのなら、露と消えるのなら、そう思えば今掴んだ艶やかな布から伸びる白き腕に自然と力が入る。夢の中でくらい自分の鳥籠に閉じ込めてしまおうと。か細い声で鳴くが聞こえない。覚めてしまう夢にこんなにも揺れ動くなど。うぐいす色の小さな鳥よ、夢とともに飛び立たないでおくれ。

2016-05-31 15:53:08
弌葉 @cpasta0_0

怖い、恐いと心が戦慄く。全身に享受する疑い無き愛情こそ僕が最も恐れるものだった。この手を取ってしまえたら何れ程幸せなことだろうか。しかしそんな杞憂はしてはいけない。僕は卑しい存在で貴方は強かで高貴な存在。僕は幸せになってはいけないのだ。それでも掴まれた手を解くことはできなかった。

2016-05-31 18:01:14
原稿中につき低浮上ありーしゃ @areesha_arsha

穢れない赤き瞳。その瞳に映るは己。掴まれし手は、ほのかに暖かい。これほど人のぬくもりを暖かいと思ったことはあっただろうか。卑しく見下ろす男どもの手はいつも冷たく、発する言葉も欲の塊ばかりであった。穢れし身に触れ、慈しむ目を向けられ狼狽える。「お前は穢れなどない」とは夢か真か。

2016-05-31 18:25:39