#完全ノープラン艦これ与太話 【イン・ザ・ファイナル・デイ・オブ・オミナント】１２２５０６００【リヴァーサル・オブ・コンパス・オブ・フォーチュン】#9～#10

春魔解丼 @vespiking

駆逐艦深雪はその船体を飛行場に横たえ、朝もやのなかで、幻想的な世界をつくり出していた。その影、爆撃で生じたクレーターに腰掛け、長波らは暫しの休息をとる。1週間後に控える帝国首脳会談。この惨状で、およそまともな会議は開かれまい。ゴブンコは戦場になるだろう。 #KZNPLN

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「羽黒＝サンはどうなった」「わからん。だが、私らのどうこうできん事を為しているのは確かだよ。死んでも生きても、勝っても負けても、私らにゃ讃える資格も悔やむ権利も無いだろう」「そうか……そうだよな」長波は俯いた。短い期間だったが、羽黒はマイヅルの同胞だった。 #KZNPLN

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「ところで深雪＝サン。あんたは一体」「フフッ」ランダマイザが微笑んだ。「なんだよ」「つくづく同じだと思ってな」長波はばつが悪そうに頭を掻いた。駆逐艦、深雪は徐々に01分解を始めている。こちらに長くは留まれないのだろう。その艦橋で、少女も快活に笑んだ。 #KZNPLN

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「キョム、あるいはコク」深雪は黒いかたまりを掌で転がし、弄んだ。「ネガティヴの力。何んでもないモノ。あるはずのない何か。艦のたましいは、概ねこれで出来ている。ふつう、これを捏ねて丸めて艦娘はつくられるんだね」深雪はキョムを掌に吸い込んだ。 #KZNPLN

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「でもたまに、そうでないものがあるんだ。他人が捏ねてつくられたのじゃあない。自分から、キョムが集まって、ひとつになる」深雪の掌が、01に霞んだ。「自ずから凝り固まる。自凝（おのごろ）。私たちはそう呼ばれているね」 #KZNPLN

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「ふーん、よくわかんねえ」「わからなくてもいいんだ。わからなくてはいけない事なら、わからなければならない時には、キットわかっているものだよ」駆逐艦深雪の船体はもうほとんど分解し、艦橋まわりを残すだけになった。「さて……そろそろか。ありがとな！最高に楽しかった！」 #KZNPLN

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「アー、達者でいろよ」「ああ！ランダマイザ＝サン、縁があったらまた会おう！オタッシャデー！……」駆逐艦深雪はどこかへ消えた。「神器とやらも瓦礫の下、か。あっけないものだなあ」「そんなものだ、あたしら兵器なんてものは」「そうだねェ、それが一番だ」 #KZNPLN

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「タナカ・アドミラ……イヤ、ゴンベモン＝サン」長波は慌てて言い直した。生命維持装置越しに妖精が笑った。「……ハハ、無理をしなくてもいいさ。その名は私には過ぎた名だったが、こうして、そう私を呼んでくれる者がいるのは光栄の限りだ」「そうか、ありがとう」 #KZNPLN

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「ありがとう？」タナカは訝しんだ。長波は顔を赤らめた。「イヤ、こっちの話だ。うれしいんだ。あたしは、あんたがこうして生きてくれていることが。あんたの名を呼びたかったんだ。生きたあんたの名を呼びたかった。ゴンベモンでもクリタでもなく、あんたのその名を呼びたかった」 #KZNPLN

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「……戻る気は、ないのか？」ランダマイザがぽつりと呟いた。「戻る？」「大淀政権はもう死んだ。あきつ丸政権も、首脳会談がヤマだろう。次がどうなるかはわからんが、少なくとも、あんたを地下に閉じ込めた、あの日の世間はもう無い」「……どうだろう、な」タナカは言葉を濁した。 #KZNPLN

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「私はもう戻れんよ。あまりにも、そうだな。私は軍人になり過ぎた。……君にこう言うのもはばかられるが、軍人はものをつくるべきじゃあない。強過ぎるんだ。軍人がではない。作品というものは、軍が、国が、政が、あつかってはいけない。私はもう、そちら側なんだ」 #KZNPLN

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「……」長波は俯いた。タナカは申し訳なさげに付け足した。「……イヤ、少し違う。それは理想だ。本当は……私は恐怖しているのだろう。再び、ものをつくるということに恐怖を抱いているのだろう」 #KZNPLN

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「作品というのはおそろしいものだ。それそのものの力が強過ぎる。それは人の命も、意志も、何もかもを変え得る強大な自立暴力だ。……作品はいちど手を離れると、もう誰にも、制御することはできないんだ。私の曲は多くの人に聴かれた。それは私の命より大きな存在になった」 #KZNPLN

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「私が曲に込めた思いはいくらでもあった。それを伝えるすべだと思っていた。……だが、私の曲は人びとのあいだで解き放たれた。私自身すらもを喰らい始めたのだ。私は私でいられなくなった。……恥ずべき話だが、あの日。私が死んだ日、私はある種の安堵すらしていた」 #KZNPLN

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「傲慢な悩みであることも自覚がある。ここに至れず苦心を続ける人びとがいるのも知っている。その上で、私は私の曲がおそろしいのだ……私の曲を聴く人びとがおそろしいのだ。私に変えられて終った人びとが、私はおそろしいのだ」 #KZNPLN

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「……そうか」長波は笑った。「……少し意外だ。君なら、私の弱音など聞けば、おそらく激昂するものと思っていた」「そうできていた頃が、たぶんいちばん、楽しかったんだろう」「そうか」「そうだ」 #KZNPLN

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「そろそろ身体も限界だ。死にかけたのだって今回ばかりじゃあない。潮時はずっと感じていた。あたしはもう、軍人としてはダメだ。ポンコツさ」長波は自嘲気味に笑った。ランダマイザもそれにならった。「無責任かもしれんが、次の大事にカタをつけたら、私は軍から降りる気でいる」 #KZNPLN

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「ほんとは軍人が、曲なんかつくっちゃあいけないんだ。私もそう思う。だからずっと悩んでた。これでふんぎりがついた」「ハハ、それはいよいよ死にそうだぞ」「そのとおりだ。死にそうなら大丈夫だろ。毎回そんなだ」「違いない」 #KZNPLN

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「……最近さ。やっとわかったんだ。タナカ・アドミラル。あたしはあんたの猿真似がしたかったんだ。あんたが辞めても、あんたがどうなっても。あたしは一生、あんたの猿真似がしたい。今までだいぶブレたけど、やっと定まった。あたしの羅針盤がさ」 #KZNPLN

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「だから、お願いだ。あたしがあんたの猿真似になってねえと思ったら、いつでもいい。ブッ潰してくれないか。あたしはそれまで絶対に止まらねえ」「……そんな心配はしなくていい。その様子なら、君はもう、私のミーミーは継いでくれているよ」「違うんだ。そうでないと、ダメなんだ」 #KZNPLN

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「約束してくれよ。イザって時に、あんたが潰してくれなきゃあ、あたしは気兼ねのない猿真似ができないんだ。あたしは何かを為したいんじゃあない。何かを変えたいのでもない。ただ、あんたの猿真似をさせてくれ」タナカは少し悩み、頷いた。「わかった」「ありがとう」 #KZNPLN

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そこまで話し終えると、長波はヨロリと立ち上がり、膝下を喪ったランダマイザに肩を貸した。マイヅル総司令としての、最後の大一番へ向けて。決戦は1週間後。1月1日。――対核防空壕、ゴブンコ・ライブラリ。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【イン・ザ・ファイナル・デイ・オブ・オミナント】１２２５０６００【リヴァーサル・オブ・コンパス・オブ・フォーチュン】終わり。１２２５１２００【ブレス・オブ・ペナン】に続く。 #KZNPLN

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