【温故知新】第一話

だってあんな表情されたら飲むしかないじゃない!!
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

唯一駆逐艦の中で睦月以外に秘書艦経験のある朝霜も遠征に担ぎ出され、葛葵が要請した人員はことごとく他の任に就いていた 仕方なしに残りの人員から選ぶことになったのだが… その人員というのが伊国からの友軍。葛葵艦隊と相互協力関係にあるリベッチオと…

2016-06-25 00:34:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「なんだ?司令。この磯風に何か用でもあるのか?」 件の駆逐艦磯風。彼にとっては究極の二択であった。ほぼどちらも貧乏くじを引くことになるということは葛葵自身が最も承知していた。 そして苦渋の決断で選んだのが…後者であったという話。

2016-06-25 00:36:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「…そういうお前こそ、全然片付けのほうが進んでいないじゃないか」 葛葵は悪態をつく。磯風の秘書艦としての能力のほうはからっきし。何から何に至るまで余計な仕事を増やすまでになることもしばしば。 「…努力はしているんだがな」

2016-06-25 00:39:00
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そう言い口を尖らせる彼女に大きくため息をつくということがここ数日、葛葵の日課となっていた。 たられば言ったところで無いものねだりにすぎないと諦観し葛葵は懐から煙草を取り出し火をつけた。 「司令、サボるな!!」 その様子に磯風が文句を垂れるも彼は意に介すことはない。

2016-06-25 00:40:25
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「…ここらで救いの手が現れるのが、ドラマや小説の定番だな。」 書庫の入口の扉が叩かれるのは…そのメタなセリフを吐いた直後のこと。 「失礼します!本日付で戦史記録室第一部署配属となりました平王里。以下、秘書官羽黒。ただ今着任いたしました!」

2016-06-25 00:41:48
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵は咥えた煙草を思わず落としそうになりながら目を丸くしていた。複数回まばたきをした後、煙草を灰皿に押し当てて一言ぼそりとつぶやいた。 「…マジか。」 彼としては相当予想外の出来事だったらしい。

2016-06-25 00:44:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵と磯風は顔を見合わせた。 「さすが司令だな。こういう時のために助っ人を呼んでいたのか!」 予期せぬ援軍がきたと思い磯風は葛葵を讃えた。だが葛葵の反応はというと 「…いや?磯風こそ、何か連絡受けてない?」 「私の記録(ログ)には何もないな」 「…嫌な予感がする。」

2016-06-25 00:46:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「あ、あの、どうかなさいましたか?」 想定外の反応に平は首をやや傾けた。額を押えてうなる葛葵に一抹の嫌な予感を拭えなかった。 「…自身のメタな発言と、おそらく当たっているであろう予想を呪っているところだ」 「????」

2016-06-25 00:48:23
葛葵中将 @katsuragi_rivea

室内パーテーションで区切られた応接間のようなスペース。その少しばかりの空間には客人用のソファと小テーブルが置かれてあり、 そのソファに平と羽黒は並んで腰を掛けるよう促された。 「どうかしたんでしょうか…?」 耳打ちする羽黒に平は首を横に振ることで応えた。

2016-06-25 00:49:27
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「それにしても…こりゃひどいな。」 部屋の中には…書籍などが大量に詰め込まれた段ボール。書類などがまとめられたファイル。それらがすべて散然と床に広がり、 足の踏み場もないといった比喩表現がこれほどしっくりくる状況はないといった惨状。

2016-06-25 00:50:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

湿度を保つための空調機からはカビか埃のような臭いが漂ってくる。 平は向かいのデスクでしきりに内線電話でどこかに電話をかけては眉を寄せる葛葵に視線を向けた。 受話器の向こうの相手に今にも怒鳴り声をあげるのではないかという様子が見て取れたが…寸でのところで堪えているようであった。

2016-06-25 00:51:10
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「!?…なんですか、これ…」 不意に羽黒が声を上げた。目には涙がうっすらと浮かび口を押えていた。 「どうした羽黒?」 羽黒の手には先程出されたお茶が入った湯呑が握られている。

2016-06-25 00:52:03
葛葵中将 @katsuragi_rivea

不審に思う平も自分の湯呑の中を覗いたが、なんら変哲もないお茶が湯気を立てているだけだった。 恐る恐る口にしてみると… 「… … … うわっ!なんだこれ!?」 思わず平も羽黒と同様に声を上げる。そのお茶(のようなもの)は口に含んだ瞬間から舌をピリピリと突くような刺激が襲う。

2016-06-25 00:52:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「口に合わなかっただろうか?そうだとしたら…すまない」 先程まで沈黙状態のままだった割烹着姿の磯風が口を開く。そう、この茶は彼女が淹れたもの。 何か劇薬の類でも入れたのではないかとすら疑うほどに、口に合わないとかそういうレベルではなく不味いものであった。

2016-06-25 00:54:22
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「…あ~、こほん。待たせてすまない」 先程まで内線電話をかけていた葛葵が、その様子を見ていたらしくわざとらしい咳払いとともに平と羽黒に申し訳なさそうな顔を向け声をかけた。 「改めて、私は葛葵冷士。戦史記録室第一部署、"臨時"室長だ。」

2016-06-25 00:55:45
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「そこの茶の一つもまともに入れられない小娘が今回の私の相棒。磯風な」 平は納得した。どうやら先程の件は葛葵も把握しているらしく、申し訳なさそうな顔とともに悪気はないんだ。と付け加えた。 憂う磯風に対しての葛葵なりのフォローだろうか、彼は自身の茶を飲み干しおかわりを要求した。

2016-06-25 00:57:20
葛葵中将 @katsuragi_rivea

嬉々とした表情で再び給湯室へ向かう磯風。それとは対照的に驚愕する平と羽黒を余所に…葛葵は平然とした顔で話しはじめた。 葛葵の話によると、平が第一部署に来るという連絡は葛葵は受けてはいなかった。これは人事部の連絡行き不届きによるもの。

2016-06-25 00:58:35
葛葵中将 @katsuragi_rivea

先の作戦の事後処理と新部署の立ち上げが重なったため"まれによく起こること"であるらしい。 現在、葛葵が臨時室長を務め、ほかの人員が見当たらない理由としては 平がここに訪れる前に行った会食において室長含む職員が口にした食事で"食あたり"を起こしたとのこと。

2016-06-25 00:59:35
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その症状がまことに不可解なもので前後の記憶すら失うといった奇妙なものであったという。 葛葵も同じものを口にしていたらしいが運が良かったのかその例外に当たり残った自分が現在代理を務めているとのこと 平は湯呑を見つめ先程の出来事に心胆を寒からしめた。 (まさか、ね…)

2016-06-25 01:02:07
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「困ったものだ…」 そうしたトラブルの連続で心身ともに疲れ果ててでもいるのか葛葵の目の下には大きくクマが浮かぶ。 「大丈夫ですか?閣下」 「あぁ、そんなかしこまった呼び方しなくていいよ。葛葵でいい。臨時の者だし」

2016-06-25 01:05:16
葛葵中将 @katsuragi_rivea

本来の室長が戻ってくるまでにここ、第一書庫室を整理しなくてはならない。その一心で今日まで一人頑張っていたという臨時室長に平は同情し、同時になんとかしなければ、と気を引き締めた。 「葛葵さん、僕も羽黒も助力しますよ。出来ることがあればなんでも言ってください。」

2016-06-25 01:08:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

少しばかり気乗りしないままここを訪れた平であったが、この現状を目の前にしては四の五の言ってはいられない。 「本当か?助かるよ」 葛葵と平は握手を交わし、そこから戦史記録室開設へ向けての第一歩が踏み出されるのであった…

2016-06-25 01:11:27
葛葵中将 @katsuragi_rivea

【温故知新】第一話おわり 第二話へ続く

2016-06-25 01:12:09