【温故知新】第一話

だってあんな表情されたら飲むしかないじゃない!!
0
葛葵中将 @katsuragi_rivea

今のうちに注意事項 ・艦これ二次創作小説行為です ・独自の解釈があります ・実在する団体には関連性はありません ・戦史記録室開設記念SS ・原案:ひらりぃ提督 @HiraBro3 ・連投注意です。望まぬ場合ミュート推奨 ・修正しながらなので時間が少々かかります

2016-06-24 23:50:37
葛葵中将 @katsuragi_rivea

※実は防衛省には戦史研究センターという似たような施設があったりします。 古きをなぞらえ、新しきを知る。先人の知恵により後世に生きる我々が学ぶことも多いということですね。 【温故知新 第一話】

2016-06-24 23:56:10
葛葵中将 @katsuragi_rivea

季節は梅雨に入るころ。横須賀鎮守府庁舎、庁舎二階から覗く景色は雨が降りしきり日の差す気配はない。 広場を行き交う人々は雨傘を片手に移動する姿が確認できた。 重巡洋艦、羽黒と名をつけられた艦娘はそんな様子を静かに眺め、したしたと鳴る雨音に耳を傾けながら気持ちを落ち着かせていた。

2016-06-25 00:00:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「いやー、まいった。手続きにこんなに時間がかかるとは…待たせてごめんな」 羽黒は振り返った。短めに整った茶髪を掻きながら青年は苦笑いを浮かべた。 「あ…提督。は、す、すいません!よそ見をしていて…その…」 「なんで謝るかはわからないけど…お天道様の機嫌はよくないみたいだね」

2016-06-25 00:01:45
葛葵中将 @katsuragi_rivea

青年は羽黒の上官に当たる"提督”。名を平王里(たいらおざと)と言い、若くして少将の地位を持つ。 日を数日ほどさかのぼるある日、タウイタウイ泊地に籍を置く彼のもとに一通の文書が届く。 マル秘と大きく書かれた封筒の中には平への人事異動、横須賀に出向するよう意を示す指令書が一枚。

2016-06-25 00:03:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

軍令部が提示した平への指令は新部署の開設、その補助。 戦史記録室。この世界における海軍発足以来、この部署は長らく設置されることはなかった。 深海棲艦が突如現れ、始まった戦争により…人類にはこうした時間を与えられる猶予の一つも与えられることがなかったからだ。

2016-06-25 00:05:41
葛葵中将 @katsuragi_rivea

事情が変わったのは先だって行われた中部海域における友軍泊地奪還作戦。その奪還こそ収めることこそ叶わなかったものの、 日本海軍は敵中枢に大きな打撃を与えることに成功し、しばしの休息を得た。深海棲艦においても当然、戦力の態勢を整えるには時間がかかる。

2016-06-25 00:06:58
葛葵中将 @katsuragi_rivea

先の作戦における戦力を整えるまでにはいかに物量が豊かな深海群であろうとおおよそ三か月ほどの時間を要すると専門家から予測が打ち出された。 得られた時間の間に出来ることは可能な限り実行してしまいたい。 そう考えるのは軍令部は勿論、軍事関係施設に携わる関係者各位の共通認識であった。

2016-06-25 00:08:55
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そうした考えのもとに、各地における執務業、経理、事務などに長ける者がここ横須賀に集められ、新部署を開設することが海軍省において承認され決を得た。 平もまたそうした新たな動きに加わる一人として、召集に応じたのであった。 「しばらくぶりの本土はじめじめしているけどいいものだね。」

2016-06-25 00:10:33
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「ハイ。心が…すごく落ち着きますね。」 「何よりも美人が多い。…これは楽しみが増えたな」 「え…あの…」 満足げに表情をほころばせる平とは対照的に困り顔を浮かべる羽黒。こういったやり取りは半ばルーティンと化している日常の一端。

2016-06-25 00:12:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「…もちろん冗談さ。羽黒が一番に決まってるじゃないか」 たいがいはこうして平が折れ、羽黒のご機嫌をうかがいフォローを入れる。それに少し顔を赤らめてそっぽを向くというような… 周りから見れば非常に仲睦まじい二人の様子が見て取れる。

2016-06-25 00:13:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「それで提督。私たちの所属はどちらになるんですか?」 少し気恥ずかしそうな顔を残しながら羽黒は平に問いかけた。その質問に彼は手にしていた書類の束から一枚の紙を羽黒に手渡した。 「人事 第一書庫室…戦史記録室第一部署」 書面に記載されていた平少将の業務内容はというと…

2016-06-25 00:14:05
葛葵中将 @katsuragi_rivea

世界中で起こった各作戦における概要、戦闘記録、情報。細分化された情報の数々をひとまとめにし、 戦時、戦後、そして後世に残す記録として"ライブラリ"に記述していくといった旨の内容が軍特有の硬い文面と誇張表現で長々と連なっていた。

2016-06-25 00:15:33
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「僕と同じように軍関係者の中から出向してきている人たちも多いみたいだ。要訳すると専らその人たちのサポートをするのが僕に与えられた仕事だね」 羽黒はそれを聞くと笑みを浮かべた。 「すごいです。そんな仕事が任せられるということは提督が上の方から認められた証拠ですよね?」

2016-06-25 00:17:24
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「ん~…どうだろうね。すごく地味な仕事さ。」 羽黒の祝福とは裏腹に平としては少し複雑な心境を胸の内に隠し持っていた。 平はかつては志願兵。この世界における平和を守る軍の職務に憧れて兵学校そして海軍大学校にまで在籍し、その学を深めた。

2016-06-25 00:19:13
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それは、戦線に赴き自ら指揮を執る提督と呼ばれる者たちに羨望と敬意を抱き、自らもその中に身を置きたいと願ってのもの。 その培われた知識が実を結び、タウイタウイにおいて南西方面の戦線を支える任務にはやりがいも誇りも持っていた。

2016-06-25 00:22:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

真逆のような事務仕事を急遽として与えられたのは半分は左遷でもされたような不満感、軍令部に対する憤りも多少は感じた。 だが、それを断わるわけにもいかず何をすればよいのかもわからぬまま本土に出向。 羽黒に心配はかけまいと表面上は道化を演じるかのように空元気を見せていたのであった。

2016-06-25 00:23:30
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(あまり…気乗りはしないけど。) 顔色を覗き込んでくる羽黒に平は笑顔を浮かべ応えた。本心はともかく、与えられた職務はまっとうせねばなるまい、と平は決意する。 「僕らはやれるだけのことをやるだけだ。少し忙しいだろうけど…頑張ろうな」 「了解…です!」

2016-06-25 00:26:26
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「あ~…」 第一書庫、そう桐の札が入口にかけられた部屋の中央。鎮座する机にもたれかかり男はうなり声をあげた。 机の上には面も見えぬほどの尋常ではない量の書類と書籍で溢れかえり、もはや収拾もつかない状況。 そのわずかな端には「葛葵冷士」と書かれたプラカードが立てられていた。

2016-06-25 00:27:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「司令。そんなんでは日が暮れてしまうぞ?」 だらしなくあんぐりと口をあけ葛葵は横目で割烹着姿の少女をけだるそうに見た。 普段ならば書類仕事などお手の物であるはずの彼であるが、ここまで行き詰まる原因の一つがこの娘にもあった。

2016-06-25 00:29:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

緊急に横須賀からの召集が彼の元に届いた際。一名のみ、ようするに秘書艦の同行を許可された。 葛葵の当初の考えでは彼の秘書艦娘である睦月を動向させる意を鹿屋長官である美濃部に申請したのだが…答えは拒否。 抗議を申し立てた葛葵であったがその申請は受理されはしなかった。

2016-06-25 00:29:47
葛葵中将 @katsuragi_rivea

美濃部はその理由として先の作戦における報告書その他もろもろ…処理が終わらないままで鹿屋において経理関係の職務に非常に優秀な葛葵が離れるとなれば それに準ずる事務処理能力を持った者、および提督代理を務められる者は必ず残さなければならない。そう告げた。

2016-06-25 00:31:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

これにより、葛葵の代理を務められる木曾、翔鶴、経理関係の職務が板についてきた睦月は除外された。 水雷戦隊旗艦として哨戒の任も預かる軽巡洋艦、神通及び酒匂は不可。烹炊要員も兼任する大鯨も不可。 美濃部はこれらの申請をすべて退けたため葛葵との言い争いを繰り広げた。

2016-06-25 00:33:54