【Re:AfterLife/MyImmortal】3/4

鬱葵提督、覚醒す!
0
葛葵中将 @katsuragi_rivea

夕暮れ時の横須賀。 追悼式を終え、弔事用の礼装のままの葛葵。そして天津風。それを囲うかのように浜風と磯風の姿… それを隻眼の艦娘、木曾は遠巻きに見つめている 黄昏、夕日が既に水平線へとその下部をつけようとしていた

2015-08-06 22:03:11
葛葵中将 @katsuragi_rivea

追悼式が行われていた崖の上のスペースからは少し下腹部にあたるテラスに一行は屯う 式が終わった後も、その場に残った葛葵は 後から合流した自らの麾下に当たる艦娘達の数名とようやくそこで再会を果たした 多大なる功を労い、彼女達が"仲間の旅立ち"を見送る時間を共にした

2015-08-06 22:05:05
葛葵中将 @katsuragi_rivea

昼間はけたたましく騒いでいた蝉の鳴き声も鳴りを潜め、辺りには潮の香りを乗せ海から温い風が吹き付けていた 木曾「…傷はもう大丈夫なのか?」 背後にある気配に木曾は振り返らずに声をかける 大柄で黒い長髪を靡かせる戦艦、長門がそこに佇んでいた 長門「このぐらい、なんともないさ」

2015-08-06 22:06:42
葛葵中将 @katsuragi_rivea

天蓋(眼帯)が付けられた反対側で見やる木曾の左目には… 痛々しく包帯を巻く帝国海軍の誇りとまで称された聯合艦隊旗艦の姿が映る 不敵に笑みを浮かべるが…いつものような風格からは程遠い。 木曾「…無理はするな」 長門「意地を張っても意味がない、か…それはお前も一緒だろう」

2015-08-06 22:08:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

木曾「………」 木曾は自身の体に残る鈍い痛みから、返す言葉も見つからない。 姉妹達の下を離れた時から…他人に弱みを見せることを極端に恐れるようになった。 相手が相手だけに隠し通せはしないことは明らかだったが…それでも少しばかり心疚しい気分へとさせられ目を伏せた

2015-08-06 22:09:55
葛葵中将 @katsuragi_rivea

長門「…すまない。そんなつもりではなかった」 木曾の虚ろう目を見てか申し訳なさそうに長門もまた目を伏せる 少しばかり沈黙が流れた… その気まずくなった空気を転換させようと木曾は泣き喚く駆逐艦とその司令官へと目を向け、口を開く 木曾「それにしても…」

2015-08-06 22:12:37
葛葵中将 @katsuragi_rivea

木曾「…天津風があそこまで泣き虫とはな、意外なものだ」 目線を向ける濃茶色の制服を纏う駆逐艦、天津風は葛葵に撫でられながらその目から大粒の涙を流している バツが悪そうに微笑む浜風と、少し不機嫌そうな磯風がそんな彼女を宥めている様子が木曾から見ても意外に思えた

2015-08-06 22:13:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

いつもならば天津風の頭を撫でる"司令官"には辛辣な態度をとる彼女が泣き喚いているのを見るのはこれが初めて "かつて"は数多もの海戦をくぐり抜け名を馳せてきた彼女も人の姿をとれば歳相応ということを改めて思い知らされる …そんな姿が少しばかり疎ましくも感じた

2015-08-06 22:15:10
葛葵中将 @katsuragi_rivea

長門「…誰かのために、涙を流す。これもまた"強さ"だ。 それを教えてくれたのは他でもない。お前達の司令官だろう」 木曾の言葉に返してくる長門は葛葵に目をやる。 長門「…あれが…楓の師か…」 当人はいつもの穏やかな表情を浮かべ、すがりつく駆逐艦娘の姿に困惑しているようだ

2015-08-06 22:17:48
葛葵中将 @katsuragi_rivea

長門や木曾、彼女達が血を流し…死闘を繰り広げた本土強襲部隊邀撃作戦…DoolittleRaidあるいは硫黄島の戦い 大本営にとっては…本土近海にまで敵の大部隊の侵攻を許した事実は都合のよいものではなく その記録からもみ消され"謳われぬ戦い"としてその歴史上の記録から姿を消した

2015-08-06 22:20:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それでも尚ーーー… 長門「挨拶でもしようかと思ったが…取り込み中のようだ。邪魔は…出来ないな お前達の"司令官"によろしく伝えてくれ」 木曾「…あぁ。また、な」 "名も無き士官"と"一隻の駆逐艦"が紡いだ想いが生んだ物語は… 彼女達の心にもそれは確かに伝わった。

2015-08-06 22:21:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

刻まれた想いを胸に秘め、長門は歩みを進めた。 背丈は駆逐艦くらいの背をした二人組とすれ違いその場を後にした。 彼女達は何やら賑やかそうに駆け抜ける その時、一陣の心地よい風が吹く 振り返る長門の目には、海面に反射し照りつける夕日が作り出す彼女達の伸びる二つの影絵が映った…

2015-08-06 22:22:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

-Beginning of the end- 見届ける者

2015-08-06 22:23:42
葛葵中将 @katsuragi_rivea

灯火管制が敷かれ、暗闇に包まれる司令部室。計器やモニターの明かりのみが人々の顔を照らし出していた 敵の夜間空襲に警戒するように指令が下り、夕刻が近づいていることをそれは示していた 同時にそれは…敵の魔の手が眼前にまで迫っていることをそこに残る人々に現実を突きつける

2015-08-06 22:26:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

一部の士官、将官には避難勧告指示が出され…二日前と比べるとそこに詰め寄る人間はそう多くはなくなった 大将の地位にある序列から最高責任者となった野次と… 自らの意思で残る将官が複数、そしてそれらを補佐する艦娘が残るのみとなった

2015-08-06 22:27:40
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そんな中…管制室に篭もる大淀は何度も目を凝らし、モニターを見つめていた。 野次の目を盗み、状況を見守っていた画面の向こうで… 彼女自身にも信じられないような出来事が起きていたからだ 葛葵と…あの夜、死の縁にあった少女が確かに言葉を交わしている

2015-08-06 22:28:43
葛葵中将 @katsuragi_rivea

あの時から…大淀は罪悪感と自身への嫌悪感から、葛葵と少女の様子を気にかけていた どうしても彼等のことが気になって仕方ない。なんとも言えない不思議な感覚にとらわれた その結末が…いや、何かの始まりなのかもしれない…そんな予感がする出来事が目の前で起こっている

2015-08-06 22:30:05
葛葵中将 @katsuragi_rivea

大淀はその一部始終の"目撃者" 見届けなくてはならない…彼女は思った。 何かの運命か、または因果に導かれてか…大淀は辺りを一度見回した ざわつく様子はあるものの誰一人として彼女のことを気にする様子はない 耳にあてがうヘッドセットの音量を上げ…葛葵と少女の会話に耳を傾けた

2015-08-06 22:32:22
葛葵中将 @katsuragi_rivea

ピピッ! デジタル時計のアラームが再び鳴る室内。その音は"静寂"の中に鳴り響いた。 まるで時が止まったかのように沈黙する心電図の画面が暗転している。 集中治療室の入り口付近に背をもたれかける霧雨と… 少女の手を握る葛葵の"二人"の息の音が僅かに聞こえるのみになっていた

2015-08-06 22:36:28
葛葵中将 @katsuragi_rivea

少女と葛葵は目が合う 濃灰色の澄んだ瞳は穏やかな光でこちらを真っ直ぐに見つめている 握りしめた小さな手は、しっかりと力強く手を握り返してくる。その手には未だに温もりが残る 葛葵「私が…無力じゃない…?」 葛葵は聞き返した。己の無力さに嘆いた現状、それに対する少女の否定

2015-08-06 22:38:16
葛葵中将 @katsuragi_rivea

少女はゆっくりと頷く。優しい笑みが向けられる 葛葵「…いや、私に何が出来ようか…結局、君のことも…"助けられなかった"」 葛葵は否定に対し…否定で答えた ーーー目の前の少女だけではないだろう 力及ばず、助けられなかった者は…"あの子"を含めもっといる

2015-08-06 22:41:04
葛葵中将 @katsuragi_rivea

少女に対し、助けられなかったと発言すること自体…申し訳ない気持ちでいたたまれなくなる 自身の傷を抉り塩を塗り込むような行為にさえ思える 目を細め、葛葵は続けた 葛葵「ただ君達を利用しているだけの…自分で戦おうとはしない…いや、出来ない。…弱い人間だ」

2015-08-06 22:42:43
葛葵中将 @katsuragi_rivea

贖罪か何かのように言葉を発せずにはいられなかった。 何も出来なかった無力な自分をそれで許してもらえるとも思いはしていない ーーー卑怯者。臆病者。無力。無力。無力… 脳裏であの"影"が囁く。歪んだ笑みを浮かべこちらの顔色を伺うかのように…

2015-08-06 22:43:39