【Re:AfterLife/MyImmortal】4/4

さぁ、ペイバックタイムだ!
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

時刻はマルハチマルマルを回ろうか回らないかというところ。 風こそ強くはないものの曇天の空から降り注ぐ粒はその空の色を映すかのように海面へと落つる。 その雨は洋上を走る二人の艦娘、"第十七駆逐隊"と腕章をつける少女達の体にも平等に降りしきる。 彼女達の名は磯風と浜風。

2015-12-06 20:49:45
葛葵中将 @katsuragi_rivea

炸薬を雨に当てないよう頭から外套を羽織りその裾を風に靡かせながら彼女達は "死ぬのがわかりきった"戦いに向かうべくその速度を原速にて敵が根城とする硫黄島へと白い航跡を描き、突き進む。 「一億総特攻の魁となれ」 彼女達含む残存兵力に軍令部が出した指令はこうだ。

2015-12-06 20:51:49
葛葵中将 @katsuragi_rivea

艦娘達、"兵器"の命と列島の人口全てを秤にかけて出された結論。 その身を犠牲にし、一億人の命を失うことを未然に防げなどという作戦とも呼べぬ作戦を最高司令官、野次は打ち出した。 その内容を聞いた際、磯風は酷く司令部に落胆と激しい嫌悪を示した。

2015-12-06 20:53:52
葛葵中将 @katsuragi_rivea

艦艇の記憶に色濃く残る"最期"の光景。 星のマークをつけた航空機が空を埋め尽くさんと自分達に敵意の牙を剥く光景が浮かぶ。 (…あの時と同じ…か) 憤り、悲しみ、恐怖、そういった負の感情が流れ込んでくる感覚すら覚えた。 艦娘ならば誰しもが少なからずは持ち合わせているもの。

2015-12-06 20:56:00
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「無為に死ぬなんざ、あたいはごめんだよ。降ろさせてもらうさ」 中にはその指令に反抗し、その後の処置はどうなったかわからぬ者もいる。 彼女達は自らの意志を示し、作戦を外れていった。 それが正しいかどうかの判断はこの状況においてはつきかねる。

2015-12-06 20:59:11
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それらの心情を磯風は無理矢理押さえ込み軍の方針に従うことを僚艦の浜風と共に了承した。 命を投げ捨てる指令だとしても事を荒立てず従うのが当然。 我々、艦娘は所詮は兵器。 磯風自身の中での結論であり持論。そうすることで己を納得させていた…はずだった。

2015-12-06 21:00:19
葛葵中将 @katsuragi_rivea

外套のフードの影から赤い眼が空を仰ぎ見た。空は依然として灰色混じりで雨粒を落とす。 その視界は…ぼやけていた。目尻から一筋、涙が雫となり頬を伝う 「…磯風。どうかしたのですか?」 並走していた僚艦の浜風が気遣って声をかけてくる。 「…わからない。」

2015-12-06 21:01:58
葛葵中将 @katsuragi_rivea

磯風の心の内は混乱していた。 あの夜の出来事が頭の中から離れずこれまでずっと走馬灯のように駆け巡っていた。 命の間際にある自分より旧式の艦娘の姿と… (自らを兵器だなどと…口にしないでくれ) あの妖怪じみた風貌の男の言葉がどうしても頭から離れず葛藤を繰り返す。

2015-12-06 21:03:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

死への行軍へと出撃した後からこれまで、今までに無い程の恐怖心というものを感じた。 「…何でも無い。すまない」 「…何がです?貴方が謝るなんて珍しいですね」 浜風は目を丸くしていた。 駆逐隊司令艦であり相棒でもある磯風の口からそのような言葉が出たのはこれが初めて

2015-12-06 21:05:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

浜風の言葉を認め磯風は言葉を続けた。 「生きて…帰ろう。"艦娘"である私がこういうことを言うのも変だが、どうしても確かめなくてはならないことがあ…る…」 磯風は最後まで言い切る前に自らの口からこのような台詞が出たことに驚きを隠せない。という表情へと変わっていく。

2015-12-06 21:09:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

兵器、と口にすることを躊躇した。その変化に浜風ですらも気づいたような顔をしていたが 本人自身がその変化に一番驚きを隠せない様子であることは一目瞭然であった。 (…やはり、確かめなければならない。あの男…この磯風にどんな妖術をかけたのだ…)

2015-12-06 21:11:51
葛葵中将 @katsuragi_rivea

浜風は驚いた表情を浮かべていたが、一呼吸おき、微笑みへと表情を変え応えた 「…もちろんです。絶対に…帰りましょう」 磯風は頷く。静かに決意を固めるかのように小さく拳を握り、再び空を見た。 相変わらずの曇天に変わりは無いが、まるで茫光でも刺すかのように先ほどよりも明るく見えた

2015-12-06 21:13:18
葛葵中将 @katsuragi_rivea

明けない夜は無い。悲しみはいつまでも続かない。いかにもな言葉回しだが… その運命の転機となる" 時を良しとして吹く追い風(時ツ風)"が吹くとすれば…今がまさにその時… 「ザ……さん…ザ……今、この時を戦ってい…る艦隊の皆さん。大…淀です。聞こえますか?」

2015-12-06 21:14:33
葛葵中将 @katsuragi_rivea

敵の妨害電波が強くノイズ混じりではあったがその声はかろうじて聞き取れた。 (音声通信…?それも全艦に向けて…?) 発信元を確認すると紛れもなく小田原通信所を中継しての無線通信。誤発信の類ではないことを確認し 磯風と浜風は顔を見合わせ、その音声通信に耳を傾けた。

2015-12-06 21:16:41
葛葵中将 @katsuragi_rivea

大淀の声は焦っているか…または何かを堪えるかのようなニュアンスを交えていた。 緊急の用ありと認められない限りは敵戦地に臨む艦隊に向けての音声通信は規制されている。 それにも関わらずその通信は全艦に向け発信された。 「これは…私、大淀独断での行動です。どうか聞いて下さい」

2015-12-06 21:22:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「読み上げます。」 大淀の口から発せられたのは…MI方面機動部隊より発信された電文。 運命の転機点、艦娘の多くに聞き覚えがあるもの 死中に活を見い出すべく、多聞天から由来するその名を轟かせたかの名将の言葉。 今の艦娘達にとってこれほど戦意を鼓舞する言葉は存在しえないだろう

2015-12-06 21:25:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

ーーー日本時間、午前七時五十八分。 MI方面機動部隊旗艦、航空母艦「飛龍」より入電。 「我レ飛龍ハ健在ナリ。コレヨリ航空戦ノ指揮ヲ執ル」

2015-12-06 21:26:13
葛葵中将 @katsuragi_rivea

大淀が全艦隊に向け発信したその一報は艦娘達だけでなく将官あるいは士官、軍に携わる関係者全てに伝わった。 飛龍の反撃…運命の転機点…不屈の翼は再び…舞い上がる 雄叫びを上げ士気を向上させる者、感極まり涙を堪えられぬ者、各々が暗闇に照らされた希望の火に歓喜の声をあげた。

2015-12-08 19:02:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

大淀がいる司令部室に残る将官達も顔をほころばせ喜びを表した。 ただ一人を除いては… 「…貴様、何をしているか大淀!!」 突然の怒号に場は静まり返った。その怒号の主は他でもない、本土防衛迎撃作戦最高責任者たる野次。 大淀の独断での行動に怒り心頭といった態度を顕にした

2015-12-08 19:03:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

大淀は彼を真っ直ぐに見つめ…息を吸い込み、覚悟を決めた。 「申し訳ありません。勝手な行動をとったことは承知…」 「当然だ馬鹿者!!わかっておるなら…」 「…ですが!!!」 野次の言葉を遮る彼女の脳裏にはモニター越しに見守った一人の士官と一人の艦娘のやり取りが浮かぶ。

2015-12-08 19:06:17
葛葵中将 @katsuragi_rivea

一人の小さな艦娘が想いを託した"最期の戦い"は大淀の心を強く打った。 彼女自身は現在、艦娘としての艤装が調整中のため戦線に出ることがかなわず… 仲間と共に海で戦えないことに非常に歯痒い思いを抱いていた。 それと同様の気持ちをその士官も抱いていた。

2015-12-08 19:07:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

だがあの少女は艤装が無くとも、もはや海を駆け抜けることが出来なくなろうとも… 士官に意思を託し最期の瞬間が訪れるまで"戦い抜いて"みせた。 大淀は彼女に心から敬意を表した。 モニターに映るその艦娘の手をずっと握り続けた士官の姿があまりに悲しげで堪える物を抑えきれなかった。

2015-12-08 19:09:34
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その光景を目に焼き付けた大淀は決心した。 あの旧式の艦娘のように…自分もまた今、出来る最大限の戦いをする、と その矢先に飛び込んできたMI機動部隊からの電文は運命の歯車を回すための追い風となる。そう直感した。 そしてその歯車を回すのは… (貴方ならば…きっと…)

2015-12-08 19:10:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「この電文、思いは…私達艦娘にとって非常に重要な内容なんです!」 必死に訴えた。ありったけの思いを乗せ、これまでの鬱憤を晴らすかのように目の前の将官にぶつけた。 「私達はこうして…人の姿を取り、あるいは人の身にその魂を宿し…在りし日の軍艦としてありながらも…心を得たんです!」

2015-12-08 19:12:39
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