空想の街・氷涼祭'16 一日日 #赤風車
-
- いいね！0
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
――首輪姿を一瞬想像しかけたが、恐らく元の姿の件だろう。相手はこう見えて猫だと聞いた気がする。「…ならばいいのだがね。ま、そろそろ俺は出る。お主も道中気を付け給えよ」 一本歯下駄をつっかけ、弁慶を持ち、一文字は外へ足を踏み出した。 @Ne2_co #空想の街 #赤風車 #曳舟荘
2016-07-01 01:30:06
こみや@空想の街
@Ne2_co
「全くお互いにね」 @nowhere_7 下駄の足音が遠ざかる。まっこと持つべきは良い店子。指の先で風車をちょいと回してくすりと笑う。大家の髪のうち、夜の色を残していた最後の一房が、音もなく朝の色へと変わった。 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘
2016-07-01 01:34:46
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
昼に段々と近づく光を浴び、戸の面を見渡した一文字は一息ついてしまう。 ――まったく、ひとには顔を見せろだの喧しい癖に、あちら自身は二度と帰らぬような目を見せおって。天井裏の店子にはあの大家が必要だ。かざぐるまを吹き鳴らす一文字の髪を、ぬるい風が乾かしてゆく。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 01:41:35めぐる夏のひ
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
視線の先では透明な風船が空気と戯れている。透ける青空が痛い。 黒く長い髪を結うことはせず、白い麻の生地に灰色の縦線が細かく刻み込まれた浴衣を身に纏い、皆代徒華はぼんやりと中空を見上げていた。芥子色の兵児帯を低めの位置で巻き、足は歯のない下駄で締めている。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:49:07
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
身に纏うこれは男物だ。 家で女学生時代のものを箪笥の奥からひっぱりだしたのだが、そちらのほうは着る気にはなれなかった。今の自分にはそれらは似合わないように見えたのだ。実際、年季が入りすぎていて着られたものではなかったし、色合いも年頃に合わないものしかない。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:49:59
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
そちらはやめて、男物を新しく仕立てる自分のことを姉は呆れかえって眺めていたが、とうとう止めることはなかった。 自分でもどうして浴衣まで男物を、とは思ったのだ。思いはしたが、これが自然だ、このほうが落ち着く、としか思えなかった。今はまだ、この部分は分からない。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:51:02
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
この街の役所でいつものように換金する際、風船を貰った。氷涼祭では死人が戻る手段に風船を用いるのだという。それに併せ、生き人も風船をもつといい、と説明された。色とりどり、形も様々な中でひとつ、透きとおった風船が涼しげに映り、気が付けばそれを手に取っていた。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:51:30
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
帯にはいつもの風車を挿している。音が鳴らない上、氷涼祭のある今はただの飾りになってしまっているが―― この祭りは死者の戻る祭りだ。この街で死んだわけではないが、ここに縁を持ち、二年前はきちんと現れたという弟に会うために、弟の釣った赤い風車は要るように思えた。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:53:24
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
小さな包みを下げ、徒華は歩き出す。人々は各々祭りの準備に追われているようだ。懐かしい故人に会えるかもしれないという切ない期待も伝わってくる。様々な場合があるのだろう、自分と弟はどうだろうか、と考えたところで、……出かけに姉夫婦に引き留められたことを思いだす。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:54:04
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
――何があっても絶対に帰ってこい。それが姉の言葉だった。 直前に義兄が目元を指でかくような真似をし、それに姉が首を振り、ああこれが内緒の会話なのだ、と盗み見てしまったことを恥じていたところだったので咎められると構えてしまったのだが、そんなことは一切なかった。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:54:37
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
姉に言われずとも帰宅するつもりだ。どうも姉たちはこちらが弟の後を追うのではないかと心配しているようで――それは弟が行方知れずだった間や遺体発見直後はそんな恐れもあったかもしれないが――氷涼祭という再会のすべを得た今ではそんな心配は何もない。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:54:56
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
死者が戻るのは今夜遅くからだという。強く、心の底から強く、これまで何度もなぞってきた弟のいない空洞を覗き込むように、徒華は弟との再会を願った。きょうだいでそっくりな黒い髪、目、白皙の頬―― どうか弟に、千草に会えますように。僅かでいい、会話ができますように。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:56:24
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
そしてこれからは毎年ここで会えますように。梅雨にゆるされた晴天を仰いで徒華は瞼を下ろした。弟に会えるよう願うのは何も自分のためだけではない、姉やこの街の弟の友人のためにも、そしてこの場所に留まり死者を慰めるものを売っている、 とある男のためにも。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 11:58:31徴
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
そういえば姉夫婦の秘密の会話はどういう意味をもっていたのだろう。一度見てしまったからには忘れてしまうこともできず、徒華は時計塔を見上げて思案する。目をかいていた……、徒華は歩きながら自分でも目元で指を泳がせる。目かき、目かき、「――めかけ？」 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:13:28
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
言葉遊びのような答えについ声を上げてしまう。 これが正解だと決まったわけではないのだが、最近姉夫婦はとある家を調べているのだ。徒華の想い人である女性が嫁いで行った先、白鳥の家がどうもおかしいのだという。 まさか何か掴んだのだろうか、 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:13:44
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
と急に胸騒ぎがしたが、義兄の問いかけに姉が否定を示したことを思いだし、徒華は歩みをとめていた足をまた動かした。 違うのだから身振り手振りのみでこちらには黙っているのだ、それにしても心臓に悪いが。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:14:10
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
徒華は姉夫婦からはまだ報告を受けていない。白鳥の家からの不可解な電話を繋いだ交換手が見つからなかったとだけは知っていたが――それ以外は分からない。今年に入ったあたりに姉夫婦と意見を交わし合い、こちらはこちらにしかできない調べ方をすると徒華は決めたのだ。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:14:26
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
毎日料理を作り、家の雑務を手伝い、そんな中でも徒華は櫻子に連絡をとろうとし続けている。かりそめの恋人同士であった頃のことや、お互いが憧れている女性の安否も含め、今一度しっかりと話をしておきたいことがあるからだった。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:14:40
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
しかしそんな徒華の思いを嘲笑うように結果は空振り続きだ。電話をしても櫻子に繋がらず、手紙に返事はこない。あまりしつこくすれば櫻子の奉公先の主たちが不審に思ってしまい、それでは徒華だけでなく姉夫婦の行動にまで影響が及びかねない。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:14:50
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
引き際を見極めることが難しく不安になる部分もあったのだが、それでも諦めずに手を変え品を変え打診している。だが、徒華の呼び声が標的に繋がったことは未だない。姉夫婦から報告がないことを責めることはできなかった。かくいうこちらも収穫は皆無なのだ。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:15:01
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
ここで諦めてはいけない、と徒華は静かに心で唱える。毎晩癖になってしまったものだった。 櫻子と連絡がつかない悩みも、憧れの想い人の安否も、今日からの三日間だけはほんの少しだけ後回しだ。この氷涼祭で弟と再会することが、徒華の今一番強い願いなのだから。 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:15:27和を以て
不可村天晴／ネプリ配信中
@nowhere_7
そういえば、すっかり昼餉のことを忘れていた。ひとつのことに集中するとどうしても他を忘れてしまうのは、自分ではなかったのに、と思うも、矢張り弟のことが大きいというのは誤魔化せない。 と、視線の先に店が映る。どうやら削氷などを出しているようだ。 #なごみ茶屋 #赤風車 #空想の街
2016-07-01 12:19:21