空想の街・氷涼祭'16 一日日 #赤風車

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

あめにのぼりし白きたま　 つちにしづむる青きほね　 みなそこを這ふ　みくさらの　 数をかぞへて　千日目　 やれいとほしやと小石を積めど　 なみだあめには勝てはせぬ #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

@tos pic.twitter.com/r4aTNWk5jI

拡大

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

――頬をなぞり上げてゆくものは泡沫だ。 瞼を上げた途端に隙間を求める水に眼球を刺激され、その痛みに柳眉を顰める。 借りてはいるが、あまり頻繁に戻っているわけではない長屋の一室、風呂に水を張って頭だけ突っ込んだ格好で一文字は静止していた。ひたすらに無音だ。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

苦しい、と言うよりも目が気になった。息はとめていても、少し顔を傾ければ耳や鼻から空気が漏れ出ておかしなことになるし、水は心地好くとも面白くはない。――一年ほどもこうしていると想像すれば尚のことだろう、と、味わう頃にはこの世のものではいない筈のことを考える。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

とうとう酸素が恋しくなり、鈍い朝の光の中へ一文字は頭を戻した。裸の上半身に色素の薄い長い髪が幾筋も張り付き、骨や筋に沿って川ができていく。 目を守るための伊達眼鏡をかける。夏がくるこの時季だからこそ、爽快な気分になるかと思ったが、期待は裏切られてしまった。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

今日からこの街は氷涼祭、死者の帰る祭りが行われる。無論千草のことも忘れてはいないが、歩き売りをしている己にとっては書き入れ時であることには違いなかった。 一文字は手拭いで雑に髪を拭うと、完全には乾かさず、外で編もうと決めて単衣の着流しと夏の羽織を身に付ける。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

この長屋の一室を借りたのは荷物を分けておきたかったからだ。大家は何を考えているのか、時折用事を言いつけてきたりもしたが、関わりと言えばそれほどしかない。そんな己が今、この部屋にいる理由は、氷涼祭が近くなるにつれ廃屋でひとりいるのが落ち着かないためだった。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

二年前、この街で釣りをしていたらしい、知人の弟である青年。いつの間にか死んでいたあれがもう一度戻るかもしれない、今年の祭りに。思うと一文字は整えた筈の背をつと指でなぞられたような気に陥る。不本意でも、祭りの間はこの下宿で夜を越す羽目になるやもしれなかった。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

――仕事前だ。余計なことは考えないほうがいい。 思考に見切りをつけると小さめの行李に着替えを仕舞い込み、片付いた部屋を見渡し、それから一文字の膝があがる。一応は早朝であるため、音をなるべく立てずに古い襖を閉めて板張りの廊下へと移動した。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

弁慶は玄関のあたりにおいていたので、それを回収してそのまま外へ行く算段だった。階段を下り、裸足でひんやりとした廊下を進むが、ついとその足が止まった。――壁に花が咲いている。そこには半年世話になっている、ここ #曳舟荘 の大家の姿があった。 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

珍しい姿に一文字は寝起きの頭のままぼうっと相手を見遣った。しかし無視をして玄関に出るわけにもいかず、濡れた髪をよけつつ声をかける。 「随分と早いね、大家殿。お主がはっきりと起きている時間帯はもう少々遅いものだと俺は認識していたが」 @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

こみや@空想の街 @Ne2_co

「なァに、節句働きというわけサ」 @nowhere_7 帰ったり帰らなかったり気ままな、それでも良い店子へと小さく手を上げて応える。「そういうあんたこそ、随分と早いお出ましじゃないか……精が出るこったネ、え？　一文字よ」 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

「祭だからな。俺とて遊びほうけるわけにはいかないのだよ、知っての通り俺は風車を売るのが仕事だ」玄関先の弁慶を眺めて呟いたが、そこで思い至る。一応は大家なのだから、相手には言っておくべきだ。「この祭りの間の夜はここに戻るよ。宜しいか」 @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

こみや@空想の街 @Ne2_co

「そりゃそうだ、しっかり稼いでしっかりうちに納めとくんな……なんて、あんたが不真面目な店子なら言えるんだがネ」 @nowhere_7 折り目正しい言葉に、苦笑の色で返す。「それなんだが……この三日ばかし、ちょっとここを明けようかと思ってねえ」 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

思いもよらぬ返答に、ふっと眼鏡の奥で目を瞠る。――まあ、内容は内容だが祭りであることには変わらないのだ。相手も大家という職を捨てて果たしたい目的があるのかもしれない。「分かったよ。お主が何処へ赴こうが俺は口出しはしないがね、」と、→ @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

濡れた毛束もそのままに、一文字は朝の髪を輝かせる艶然とした大家の横へと腕をついた。 しじまの中、ふたりの視線が交差する。「――互いの髪を混ぜるならお主はいつを選ぶ。俺は夜でも夕でもなく朝を選ぶが――今日も明日も無理とはまた残念だね」 @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

こみや@空想の街 @Ne2_co

「おやおや」肩を竦めて相手を見やる。ずぶ濡れの髪はろくに水気も切れていないらしく、生え際から雫がす、と伝うのが見えた。 @nowhere_7 「それは随分申し訳ないことをしちまったねえ…三千世界の鴉でも殺してみるかい？」と冗談めかして指を伸ばす。→ #空想の街 #赤風車 #曳舟荘

こみや@空想の街 @Ne2_co

落ちる雫を受け止め――さらに襟元を掴んで素早く、でも静かに相手と体の位置を入れ替える。 @nowhere_7 「ま、あたしは日の傾く頃が一番サ。お天道様の具合によっちゃ、一つ髪の色になるかもしれないしね」笑って、今回はお生憎様と付け加えた。 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

相手のほうがうわてであるくらいは分かっていても仕掛けてしまった己がおかしく、古い香りの立つ廊下の壁に右頬をつけ、目だけで笑い返してやる。「まさか本気にしたのか大家殿。ただの暑気中りのようなものだぞ」そうしてやんわり腕を外し、→ @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

一文字の素足は玄関へ進んだ。「日の傾く頃――魅力的だがな、お主とまざれば食中りになりそうだ」言いつつ弁慶から小さめの風車を引き抜き、くるりと回した後に大家へと突き放る。金粉のまぶされた風車がしゃっと音を立て、たおやかな手に収まった。 @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

こみや@空想の街 @Ne2_co

「なぁに、ご挨拶だよご挨拶」肩を竦めて手を離す。 @nowhere_7 はいはいまぜるな危険。玄関へ向かう一文字から放られたそれを目の高さまで持ち上げる。ふっ、と息を吹きかけると軽やかな音が響いた。「まあ、上の子どもらにも目ェかけてやっとくんな」 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘

不可村天晴／ネプリ配信中 @nowhere_7

最後の言葉はこちらの台詞だ。一文字は些か憮然として大家へ告げる。「お主こそ童どものことを忘れるような下手はうつなよ。それは餞――迷子札だ。街の外でも鳴る。つけることを強いはしないが受け取り給え。料金は家賃から天引きしておいてくれ」 @Ne2_co #曳舟荘 #赤風車 #空想の街

こみや@空想の街 @Ne2_co

「迷子札ぁ？全くあたしは絹の首輪以外付けたことないってえのに」とは言いつつ、くるりと指で弄んだそれを帯へと差し込む。 @nowhere_7 「大丈夫さ。この時期あたしがいないのはあの子らも承知だし、親代わりも来るし――ま、ありがたく受け取っとくよ」 #空想の街 #赤風車 #曳舟荘