憲法公布７０年

谷津憲郎 @yatsu_n

【日本国憲法】１１月３日　「本日、日本国憲法を公布せしめた」。貴族院本会議場で、天皇の勅語がくだった。「朕は国民とともに全力をあげ、相携えててこの憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化国家を建設するように努めたいと思ふ」。日本国憲法の誕生である。

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【日本国憲法】１１月２日　「朕はタラフク～」のプラカード事件の判決が東京地裁であった。起訴罪名の不敬罪ではなく、名誉毀損罪で懲役８カ月に。ポツダム宣言を受諾した以上「天皇の特殊的地位は完全に変革し」たと結論づけた。そして年末、ＧＨＱは不敬罪・大逆罪を刑法から削除するよう指示する。

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【日本国憲法】１１月１日　吉田茂首相ら１１人のために、天皇は、新憲法に自らが署名している写真にサインをした。翌々日の公布日では、貴族院での記念式典で勅語を読み上げることになっていた。「勅語の御練習を遊ばそうというのだが、なかなかお暇がない」。侍従だった入江相政氏は日記に残す。

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【日本国憲法】１０月３１日　ソ連代表のモロトフ外相が、米への牽制含みで「原子力を戦争目的に使うことを禁止する」「国連加盟国は軍縮準備に着手する」などの要綱を国連総会で発表し、各国の態度を問うたと、朝日新聞はこの日の１面トップに。生まれたばかりの国連への期待感が色濃くにじむ。

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【日本国憲法】１０月３０日　闇市、そして「米よこせ」デモ。世はいまだ食糧難だった。のちに作家となる山田風太郎氏はこの日「午前、学生用缶詰配給、パインアップルジースとスピナチ（ホウレン草）」と日記に記す。そして午後、さらに配給が。「新憲法発布祝賀酒、六合（一人二合）配給」

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【日本国憲法】１０月２９日　枢密院が天皇臨席のもと開かれた。６０年の歴史で初めて写真も撮られた。特に発言のないまま憲法案は可決に。しかし、この時の清水澄議長は翌年、投身自殺。「幽界ヨリ我国体ヲ護持シ今上陛下ノ御在位ヲ祈願セント欲ス」。１１月３日の公布が閣議決定された。

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【日本国憲法】１０月２８日　「朕はタラフク食ってるぞ」のプラカード事件の論告求刑があった。吉河検事は「憲法が成立したからといって、不敬罪がただちに廃止されたわけではない。形式的にも実質的にも存在する」と述べ、天皇の名誉を著しく毀損しているとして懲役１０カ月を求刑した。

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【日本国憲法】１０月２７日　大阪駅前にあった引揚者援護施設には、定員３００人のところに５１７人が収容されていた。狭いうえに貧しい食事。芋を食べる同宿者を見て「ぼくも欲しい」と泣き出したわが子のために、満州からの引き揚げ未亡人は闇煙草を売って曽根崎署に連行された、と記事がある。

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【日本国憲法】１０月２６日　新憲法公布にともなう法令改正について、臨時法制調査会が１９本の法律案要綱を答申した。皇室典範、内閣法、参議院議員選挙法……。刑法では、姦通罪の削除が盛り込まれたが、不敬罪は「意義を明確ならしめること」と存続の方向だった。

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【日本国憲法】１０月２５日　対日理事会の中華民国代表がアチソン議長に手紙を送った。憲法公布が明治節の１１月３日となりそうだという報道に懸念を表明する。「明治は、彼らが帝国拡大を成し遂げた時代として記憶されている」。よりふさわしい日を選ぶように日本政府を説得すべきであると主張した。

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【日本国憲法】１０月２４日　発足まもない国連の総会にあたり、米陸海軍の長官が声明を発表したとの記事が載る。「われわれが第二の真珠湾の危険を侵さないように準備していることを、全世界に知らしめることがより賢明である」。この１週間前、作家の高見順は日記にこう書く。「米ソ戦争の噂しきり」

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【日本国憲法】１０月２３日　敗戦前後の東京で、若い女性たちを震撼させた事件があった。「米を安く売ってくれる農家がある」「一緒に買い出しに行こうか」。そうした言葉で女性を誘い出し、強姦・殺害を繰り返した「小平義雄事件」。警察はこの日、計１０件の立件で捜査の打ち切りを決めた。

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【日本国憲法】１０月２２日　新憲法の公布日におこなわれる式典や祝賀会などの内容が、閣議で決まった。貴族院本会議場に約千人が集まり、天皇の勅語を受け、首相らが奉答文を読むことに。日時は１１月３日午前１１時から。公布日が３日と正式に決まるのは、さらに１週間後だが、既成事実化が進む。

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【日本国憲法】１０月２１日　枢密院で２回目の審議。芦田修正で９条は実質的に変更されたのではという見解を、金森担当大臣は明確に否定する。「『前項の目的を達するため』とあるのは、第１項の『国際平和を誠実に希求し』を意味するもので、自衛戦争は第２項で事実上できないということになる」

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【日本国憲法】１０月２０日　「朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民 飢えて死ね」。いわゆるプラカード事件の裁判が続いていた。新憲法下で不敬罪は成立するのか。司法省の方針が新聞に載った。「不敬罪の運用にあたっては、一般国民に対する名誉の保護以上に及ぶべきではない」。しかし……。

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【日本国憲法】１０月１９日　天皇の諮問機関である枢密院に憲法がかけられた。高松宮も出席する前で、金森徳次郎担当相が国会審議の経緯を説明した。９条の修正については「戦争放棄の動機と目的を明らかにし、条文に一層自主性と積極性をもたせようとする趣旨だ」と従来どおりに繰り返した。

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【日本国憲法】１０月１８日　靖国神社に参拝した高松宮は、その日の午後の行動について、日記にこう書く。「情報会（鈴木安蔵、民主主義の話）」。憲法研究会の鈴木安蔵だ。「日本国の統治権は日本国民より発す」と天皇主権を否定する憲法改正案要綱をまとめた在野の憲法研究家と会ったのだろうか?

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【日本国憲法】１０月１７日　憲法の内容は施行後「１年より早くなく、また２年より遅くない」時期に、国会によって再検討されるべきだと、極東委員会は豪州、ニュージーランドの提案に基づき、決めた。憲法改正の機会は、上から与えられていた。しかし、国内で機運が盛り上がることはなかった。

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【日本国憲法】１０月１６日　天皇はマッカーサーとの３回目の会見に臨んだ。「今回憲法が成立し、民主的新日本建設の基礎が確立せられた事は、喜びに堪えないところであります。この憲法成立に際し、貴将軍においてひとかたならぬご指導を与えられた事に感謝いたします」

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【日本国憲法】１０月１５日　雨の横浜。一人の女性が船から降り立った。米国人のヴァイニング夫人。天皇の依頼で明仁皇太子の家庭教師になるためだった。「日本が新憲法で戦争を放棄したことは意義深いことに思われた。自由と正義と善意の意味を皇太子殿下に示す絶好の機会がいま眼の前にあるのだ」

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【日本国憲法】１０月１４日　GHQ民政局は、憲法公布の候補日が日本側でいくつかあがっているとした上で、明治天皇の誕生日であった１１月３日の可能性が大きいと内部で指摘した。「そうなれば、国体は変わっていないという保守的な見方に勢いをつけさせてしまう。ふさわしくない」。

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【日本国憲法】１０月１３日　巣鴨プリズンの木戸幸一・元内大臣は、切支丹迫害史の読書にふける。殉教者に戦犯のわが身を重ねただろうか。国体護持のために終戦へ動いた木戸の日記に憲法の文字はほぼない。翌月３日「新憲法の発布せらるる日だが、ここ巣鴨には何の交渉も影響もない」とだけ記した。

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【日本国憲法】１０月１２日　帝国議会の閉院式がとりおこなわれた。「本日をもつて、帝国議会の閉会を命じ、併せて、帝国憲法の改正案その他緊要なる議案について、各員励精よく協賛の任をつくしたことを喜ぶ」との勅語を吉田茂首相が読み上げた。改正案は、天皇の諮問機関である枢密院に諮詢された。

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【日本国憲法】１０月１１日　憲法議会とも言われた第９０回帝国議会がおわった。計１１４日間。「今より更に進んで、改正憲法に対する国民の自覚と認識を深め、その心髄を普及徹底せしむることこそ、われわれ議員の重大なる責務であると信ずるものであります」。山崎猛議長のあいさつで幕を閉じた。

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【日本国憲法】１０月１０日　不敬罪によるアカハタ編集者らの起訴を検察が見送った。これを「新憲法に体現されている基本的概念」の適用だと支持するマッカーサーの見解が新聞に載った。「政治的、社会的、経済的の一切の問題を自由に討議し得る権利を保証する」。その裏でＧＨＱは検閲を進める。