空想の街・氷涼祭'16 最終日 #赤風車

#空想の街 氷涼祭の三日目(16/07/03) #赤風車 纏め。 二日目夜更けの物語→http://privatter.net/p/1718405 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 続きを読む
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十浦 圭 @ueto_rika

「うん、またね」またねという言葉が嬉しかった。薄れてもよいという言葉も、悲しいけれど、嬉しかった。絶対に忘れないから、という返事は胸の中だけでして。悟は扉をくぐる友達の背を見送った。 @nowhere_7 #空想の街 #赤風車 #孔雀荘へようこそ

2016-07-03 15:33:32
不可村 @nowhere_7

絶対に謝らない、 昨日からずっと決めていたことを貫き通せた安堵で千草の足が揺れる。 たったひとりのともだちが、小さな指で丁寧に折ってくれた折り紙の風車は、あちらへ持っていけるだろうか。釣るばかりで不器用な自分とは違う、よく気の付く、帽子の似合うともだち。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 15:37:56

あだばなの遺したもの

不可村 @nowhere_7

姉を捜そうと道を進んでいたが、千草はそこでふっと止まった。 掲示板がある。見慣れた姉の文字を見つけ、その形のいい眉が顰められた。――句のほうはいい。もうひとつ、下の記名が。 トウカ、と下の名を片仮名で記した姉を思う。姉は下の名を嫌っているのに。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 15:41:58
不可村 @nowhere_7

――そうまでして知らせたい相手……、いや、どうだろう、すべて片仮名で書かれているのだし、知らせたくはないのかもしれなかった。 それでも姉は、仮名ならば名を書けるのだ。そしてこれは恐らく、こちら宛てではない。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 15:43:34
不可村 @nowhere_7

穏やかな三日目だ。千草にとっては、出て二日目。 季節外れに響くのんきな鶯の声を遠くに聞き、項垂れていた千草の背が、ゆっくりと上がっていく。袴の裾と不揃いな髪が揺れた。掲示板に何か書きこむかと思われたが、 ――やがてその黒い姿は、街へと消えていった。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 15:47:24

青だけが在る世界

不可村 @nowhere_7

@tos はなのえ文庫を離れた一文字は、からっと晴れた日の中を進み、廃屋へと戻ってきていた。 やむを得ず、である。商品を補充しておきたかっただけだ。初日は頑なに持っていなかった風船は、昨日のうちにもらって今は弁慶につけて遊ばせている。 ――そういえば、借りものが増えた。 #赤風車

2016-07-08 01:22:56
不可村 @nowhere_7

先ほど図書館で借りたもの、俳句集と仮名の本は期限があるのだし、他に借りたい者が待っている恐れもあったため、急ぎのほうがいいだろう。銭湯で飲んだ牛乳瓶は明日でいい。よく濯いで返そう。 ……徒華の弁当箱は、使い捨て用の破子だ、このまま捨ててもいいだろうか。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:10:03
不可村 @nowhere_7

一応は洗ってある弁当箱を見て、一文字は考える。七宝柄の包み。 次会えるとしてもいつかは分からないのだ、捨てていいか、と手元へ視線を落とした。ひとつずつ、和紙や千代紙を分けていく。筒を同じように鋏で切りそろえ、穴を開け、針金を巻き、かざぐるまを作る。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:14:25
不可村 @nowhere_7

羽根を四枚重ねて留め、先端の針金で客がけがをしないようにと処理をする際、たつん、と音が廃屋に響いた。針金を切る瞬間だけはひやりとするよ、とひとりごち、肩を回して座り直す。卓袱台で待つ次の紙へ手を伸ばした瞬間、 ――背後の戸に、軽く何かが凭れかかる音がした。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:17:29
不可村 @nowhere_7

今日は蛙も蝉も鳴かない。静けさの漂う東区南の廃屋で、一文字は赤い紙をさわりかけた手をとめる。 かざぐるまなんて商売にして、僕を呼びつけたつもりか。 戸越しに懐かしい、もうすっかり失われた筈の声が甦った。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:21:41

何でもない、ひとりとひとり

不可村 @nowhere_7

戸に背を向けて畳に座り込んだまま、やがて一文字はそろそろと指を動かし、風車作りを再開した。こちらが何も返さないのを、戸を開けるどころかそちらを向いてすらいないのを、相手はわかっているだろうか。 「僕が来ないと思ったんだろ。だからここに戻ったりして、馬鹿だな」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:24:18
不可村 @nowhere_7

相手はこちらの返事を待つつもりはないらしい。 「僕のが鳴らなくなったって聞いて、それなのに代わりみたいに音がして、街中には風車を持ってる人がいてさ――わからないわけ、ないだろ」 そこでふと、古い戸が風に鳴った。返事したくなったらしろよ、という言葉を載せて。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:26:56
不可村 @nowhere_7

何考えてるんだか全然わからないまんまだな、と続けられる。 こちらは相手の言葉に何も反応せず、視線も動かさずに筒を切り、針金を巻き、紙を折っては風車を作っていく。ひそやかに、相手の声を聴き洩らさぬように、ゆっくりと。 「呼んだのはやっぱり、姉さんだよな、」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:28:59
不可村 @nowhere_7

――徒華に会ったのか。一文字はそこで、一日目に再会した、やけに強気だった徒華を思い返す。きょうだいが二年三年超えてまた会えたならよかった、とそこは純粋に思った。徒華は脇目もふらずに弟を捜し続けていたのだからさぞ安心できただろう。 そして風船をちらりと見やる。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:32:08
不可村 @nowhere_7

呼んだのは自分ではなく姉のほうだ、とは思ったが、言わない。諦念のような何かがまざった相手の声はもう、こちらの返事を知っている気がした。また声が届く。 「じゃあ、むりだよな、」そうだよな、そんなはずはないし、そうだとしても、いえない。……そんな声が続いた。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:34:43
不可村 @nowhere_7

なんなのだろう、と問わずに思うが、絡繰り人形のように緩慢な手つきで風車を作り続ける。相手は声音を変えてきた。 「……悟君のこと、知ってるだろ。困らせるなよ、僕の、たったひとりの、死んでからできた、生まれてはじめての、本当のともだちなんだから」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:36:53
不可村 @nowhere_7

――そうだろうな、とも、思ってもまた言わない一文字の髪を、隙間風がぬるく煽っていく。――そうだろうよ、俺ではお前の友にも何にもなれなかったのだから。 一文字の心を知らず、千草の声は続く。 「姉さんのこともだ。未だに親交があるのかは、はっきり聞かなかったけど」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:40:44
不可村 @nowhere_7

でも、と千草はふわふわと話している。こちらを責めるのでも何でもない、親しさも特にない、至極普通の口調で。 「でも、一度関わったんだろ。姉さん、世話好きだから、優しいから。きっと構ったろう。それを仇で返すなよ。僕の姉さんなんだ、雑に扱ったらゆるさない」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:43:14
不可村 @nowhere_7

――じゃあもう僕いくよ。 すとん、と落とされた言葉に、それでも返事はしなかった。取り憑かれたように風車を作る一文字を置いて、さいごの言葉がやってくる。 「――ずっと幽霊みたいになってこの街を見てたけど、その髪のかざぐるま、鳴らないからやっぱり僕のだな、」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:46:45
不可村 @nowhere_7

つけていてくれ。ずっと一生、その身に。 ――その言葉を最後に戸から圧のようなものがふうっと消える。残されたのはひとり、今度こそ手の止まった一文字だけだった。蝋燭の火も煙も掻き消えたように、戸の向こうが軽くなったのが、背を向けていても分かった。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:49:36

呪い

不可村 @nowhere_7

狐につままれたようなとはこのことだ。 ――呼んだのはやっぱり、姉さんだよな、 ――じゃあ、むりだよな、 ――そうだとしても、いえない。 風も止まった廃屋で腰をおろして固まっている一文字の耳の奥、泡沫がはじけるように言葉が乱反射してゆく。……まさか。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 17:52:59