ダンゲロス流血少女・フライングSS『飛べない鳥より飛べる鳥?』

流血少女DF自キャラのプロローグですよ。
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東和瞬 @honyakushiya

ダンゲロス流血少女・フライングSS『飛べない鳥より飛べる鳥?』

2016-07-06 18:31:19
東和瞬 @honyakushiya

少年老い易く学成り難し、光陰矢の如し――。 時は万人の前に平等に立ちはだかり、与えられ、奪い去られるものだ。 学生の内はすべてが新鮮であり、時間は無限だと、今ここで語らっている楽しみは尽きることがないのだと信じたかったのだろう。 少年少女は大人になる。やがて老いて死んでいく。

2016-07-06 18:38:22
東和瞬 @honyakushiya

だが、午睡を永遠に楽しめる者がいる。 それを「邯鄲の夢」の住人と評するのはあまりに詩的に過ぎるだろう。 神のように傲慢で己自身を冒しがたいと信じる者たち――それを端に「転校生」という。 魔の領域に達した人が手慰みに作った概念「暦」。時を定義しようとする試みは古く天の仕業であった。

2016-07-06 18:45:15
東和瞬 @honyakushiya

希望崎学園『暦』本部――。 第三層、ボールルームに本日来客アリ。 吉報を聞いた長月メルデサムは財務諸表を書きかけで中断、甲冑の外からはけして覗けぬ表情をにやりと歪ませた。珍しいものが手に入る。そこまで奥に踏み込ませるなら身ぐるみはいでも構わない、冗談めいた考えは半ば本気だった。

2016-07-06 18:57:09
東和瞬 @honyakushiya

謎の部活『暦』の<長月>を継承したこのヨロイ男「メルデサム」は部内では財務処理を担当、副部長以下部員全員が彼に提出した支出を真正直に記述すれば項目欄のすべてが使途不明金にしなければならない惨状の中で、一度たりとも学園サイドに不穏な意図を悟らせなかったというやり手である。

2016-07-06 19:05:11
東和瞬 @honyakushiya

愛用の甲冑“ゴンゴル”を手に入れて以来、脱いだ目撃例が一度たりとしてないのはご愛敬であるが。アホの霜月や胡散臭い如月などが聞いたところキャラづくりという回答が返ってきたが、単に呪われているだけでは? などと疑問をぶつけることは副部長補佐が禁じている。真相は謎のままであった。

2016-07-06 19:10:38
東和瞬 @honyakushiya

ノックを一度、二度。 「失礼します」 ガシャリと音を立てつつ、ボールルームに立ち入る。結婚式場の如く真っ白に設営された広間はいつ何時誰を迎え入れても構わない程度には万全だった。レースのテーブルクロスに染みはひとつもなく、あえて言うなら学生服姿の副部長と副部長補佐に向き合う訪問客。

2016-07-13 20:51:49
東和瞬 @honyakushiya

ぽつりと落とされた赤い雫。 それはさしずめ狼の腹の中に落とされた赤ずきんだろうか? 小柄な人影は赤いケープを目深にかぶり、ほっそりとした指先を支えに頬杖を突いていた。鈴を鳴らすような声を新たな来客者に向ける。 「品定め 鎧の中で むし愛でふ 夜長の月は 醒ますに足るか」

2016-07-13 21:03:45
東和瞬 @honyakushiya

「長月と言えば、夜も長くなってくるころだけど体を冷ますには熱過ぎるかもしれないわ。ここはひとつ、その暑苦しい鎧を脱いでみたら?」 月夜の空気を一言に落とし込んだような声だった。単に冷ややかと言いきるにはあまり色々な感情を含む。『暦』副部長補佐「皐月咲夢(さつき・さゆめ)」である。

2016-07-13 21:11:30
東和瞬 @honyakushiya

「脱ぎませんよ……、これは俺のトレードマークですから。それよりご両人、そちらのお客様は?」 「あぁ、長月君。申し訳ないが、少々予定に変更があったものですからね。悪いけど、今回の出番はナシで!」 副部長に言われてしまっては反論も難しい。一報は入れているので少々立つ瀬がないが。

2016-07-13 21:16:30
東和瞬 @honyakushiya

そこにちょっと待ってのポーズを取ったのは来客者だった。 小柄な人影は惜しみもせず、赤いケープを身から離す。紙色の髪が躍った。 几帳面に畳むと、気負いも物怖じも全く無しの自然体で赤ずきんをメルデサムへと手渡した。 「もらっておきなさい。名誉なことだから」 物憂い気に手を振られた。

2016-07-13 21:21:19
東和瞬 @honyakushiya

レアアイテムを前に元より躊躇などない。 「鑑定――。これは中世ドイツに実在した“ロートケプツェン”が使っていた本物で間違いないですね。貴重なものをありがとうございます――」 どんな目が隠れているかスリット越しに覗き込む蛮勇の持ち主はそうはいまい。 兜は彼の興奮と感情を隠している。

2016-07-13 21:30:25
東和瞬 @honyakushiya

実際のところ、彼のアイコンである甲冑を紹介したのは咲夢であった。 丁重な礼の後に退室していった彼が完全に扉を閉じたのを確認すると、咲夢はここのところ日常の仕草となってしまった、ため息をつく。 「長月君は有能なんだけど、私は正直ニガテね」 副部長はその流れを繋ぐように親戚に告げた。

2016-07-13 21:37:05
東和瞬 @honyakushiya

「言っておくがスカウトはなしだよ。で、焚書さん。何をしに来たんだい? 先日妹が世話になったとかで、お礼を言う暇もなくて心苦しいと思っていたからそちらから来てもらうのは実に都合(・・)が良かった」 これは勿論、副部長「卯月言語」一流の皮肉だった。怪談や五六八の一件を忘れてはいない。

2016-07-15 10:37:00
東和瞬 @honyakushiya

親戚「口舌院焚書」はその姓の示す通り口は開かず――代わりにあることをする。 ≪それなら丸ごと来ればいい。我が帝国に魔人はいくらでも欲しい。よって歓迎するわ。≫ 光を反射する髪の上にするすると文字が書かれる。手も指も動かしてはいない、その意思が反映される未来技術の産物である。

2016-07-15 10:39:11
東和瞬 @honyakushiya

「ふ……、SFの世界のお姫様が魔人の十人や二十人を求めるなんてね。高評価に傷み入るよ」 長時間の会話を成立させさえすれば、卯月言語は無敵と言ってよい。 話術によって深層心理に働きかけ、敵対行動を封じる魔人能力「深心活殺の聲」、それさえ彼は妄信したりしない。

2016-07-15 10:53:23
東和瞬 @honyakushiya

≪あなたたちが自分を過小評価しすぎなのよ。この世界においては魔人でなければ人にあらず。ただびとに世界を変える力など持てはしない。≫ つまり、頼みとするのは言葉によって揺るがない彼自身の心である。夢見がちなお姫様に教えてやろうじゃないか。二〇一四年の支配者が誰であるかということを。

2016-07-15 11:03:50
東和瞬 @honyakushiya

≪あら、それでこそ転校生ね。同族として誇らしいわ。流石は口舌院言語さん。」 雰囲気の変わった言語を前に卓に置かれたコーヒーカップを持ち上げ角砂糖を7個か8個放り込み、振り袖から取り出した銀のスプーンで掻き混ぜようとして、やめた。 ≪これはどういうことかしら? 口舌院咲夢さん。≫

2016-07-15 11:14:09
東和瞬 @honyakushiya

「さぁ? コーヒーが甘すぎて自然発火を起こしたんじゃないかしら?」 咲夢は焚書のほんのり赤みがさした指先を何気なしに見つけながら、横目で言語の表情を見る。案の定、にこやかな顔の配置の中で唯一眉が上がっている。 「それが『暦』のルール。従えないなら出て行ってもらうそれだけのことよ」

2016-07-15 11:25:29
東和瞬 @honyakushiya

≪わかったわ。“卯月”言語さんに“皐月”咲夢さん? わざわざ栄誉ある口舌院の姓(かばね)を捨てて出ていったと思ったらなかなか面白いことをするじゃない?≫ 「一々お線香をあげるために戻ってくるのも面倒なだけよ。それに、口舌院の姓に何の名誉があると?」  ≪私の下で働ける特典付き。≫

2016-07-20 09:48:49
東和瞬 @honyakushiya

ミルクをカップの中にだばだばと降り注がせながら焚書は言う。 そして、今度こそスプーンで掻き混ぜて一口、口をつけようとしたところで硬直する。 「にがい」 辛うじて嚥下したのは矜持だろうか。顔色が今のコーヒー? のように変化する。 「貴女、肉も魚も野菜も嫌いだったけど……」

2016-07-20 09:53:37
東和瞬 @honyakushiya

その味覚、まだ直ってなかったのね。 続く言葉には多分にあきれの感情を含んでいた。 警戒すべき口舌院で上位に入るこの縁戚は時折、こういった子ども染みた振る舞いをよく見せる。だが、それに油断をしていると悪夢めいた現実に絡め取られる。現実主義者というこのお姫様の自称は間違ってはいない。

2016-07-20 10:03:09
東和瞬 @honyakushiya

彼女にとって夢とは現実にイコールで括られるものだ。 ゆえに夢を見ない。そうと思ったときには既に叶えられた現実であるからだ。 そう信じ込んだ人間がまともな人間であるはずがない。 (で、言語。この場はどう躱す? 最悪に面倒くさいよ?) コーヒーカップに向け、今日三回目の能力発動。

2016-07-20 10:09:20
東和瞬 @honyakushiya

皐月咲夢はこういった些細な能力ならそれこそ無数と言っていいほどストックしている。我の薄いコピーとはまた違う強奪能力者の本領発揮だ。 「美味しいコーヒーを有難う。淹れた人に焚書が礼を言っていたと伝えてね」 皮肉を受け流しながら咲夢は思う。 (やっぱりこの娘……更に味覚が壊れてる。)

2016-07-20 10:15:47
東和瞬 @honyakushiya

とっとと帰れよと本音のところで思いながらそれはどうもと口の上では返すことは忘れない。 実に陰険である。口舌院の女たちは陰険な京都人である。 おっと、ここで言語の咳払いが入る。話を転換に丁度いいタイミングだった。 「話を進めよう。親戚同士ぶっちゃけトークで構わない気もしますが……」

2016-07-20 10:32:49
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