_ロームゥは光源を左手で握りしめ、這って歩く狭い隙間を急いでいた。服は地下水でずぶぬれになっていたが、それすら構わず血走った目で先を急ぐ。 「急げ、急げ……」 言い聞かせるように呟く。 31
2016-07-25 20:25:58_再びロームゥは戻ってきた。50年待ち続けていた場所へ。50年の間水没し、人の行く手を阻んだ遺跡は当時のままだった。神像の罠も同じだ。 ただ一つ違うのは、ロームゥの隣に彼がいないこと。彼はロームゥと同じ夢を見た仲間だった。 32
2016-07-25 20:31:15_二人はいつも一緒だった。そして同じ夢を語り合った。 「永遠に生きて、世界の終わりの夜明けを見ようぜ!」 世界の終わりの夜明け。遥か未来に訪れるという、とこしえの暗き夜が終わりを告げる時。二人は途方もない夢を馬鹿にせず、笑顔で追い求めた。 33
2016-07-25 20:37:26_そんな折、願いが叶うという泉の伝説を聞いた二人。 「願いを先に叶えるのはロームゥだ。俺は50年後、生きてたら願いを叶えに行くよ。先に不老不死になって待っててくれ」 彼はそう言ってくれた。そのはずだった。しかし彼は裏切った。先程のロームゥのように。 34
2016-07-25 20:41:46_直前になって騙されたことに気付いた。巨像の氷弾で左腕に深い傷を負い、逃げることしかできなかった。彼は泉で願いを叶えたはずだった。どういうわけか吸血鬼となり、泉に近寄る者を妨害し続けている。 (今回ばかりは成功ですぜ……) レジルとミレウェの強さは目の当たりにした。 35
2016-07-25 20:53:59_吸血鬼も巨像も二人の前に倒れるだろう。 狭い隧道が終わり、広い空間が現れた。そこは少しだけ水が深くなっており、水面に満月のような光が浮かんでいる。 「や、やった……とうとう……」 その振り乱した髪も服もずぶぬれだったが、頬はりんごの様に赤い。 36
2016-07-25 21:00:42_まるで恋をしたような、青春が帰ってきたような感じがして、ロームゥは目を潤ませた。 「願いを叶えてくだせぇ! わしに、永遠の命を!」 『永遠の……命……』 子供のような高い声がこだました。ロームゥは全身の感覚を喪失する。 37
2016-07-25 21:08:08「どういうことですさ、何があったんですさ!」 視界と音を失ってうろたえるロームゥ。子供の声はガンガン頭の中に響いている。 『大地と同一化させているんだよ。永遠の命を叶える方法だよ。大地は死なない。大地は老いない。だから、君も同じように不老不死だよ』 38
2016-07-25 21:14:43「そんな! 何も見えない、何も聞こえないですさ……」 『大地には目も耳もないからね』 「うう……騙された……なんでわしだけこんな……いや、騙したのはわしも同じだったか……」 脳裏に浮かんだのは、50年前の彼。 39
2016-07-25 21:22:43「すまん……すまん……」 「謝ることはない」 「もう、わしは世界の終わりの夜明けを見ることはできない……夢だったのに、約束したのに……」 そこまで言いかけて、ふと疑問に思う。聴覚が失われたのに聞こえた声は? その瞬間、視界が開けた。 40
2016-07-25 21:27:09【用語解説】 【大地】 円盤形の世界であり、天動説の世界である。世界の端に行くほど寒くなり、世界の中心がいちばん暑い。中心部の地下にはコアがあり、生命金属の塊だと言われている。パンケーキが積み重ねられているように、古い地層の上に新しい地層の円盤が重ねられている
2016-07-25 21:33:56