_部屋の入り口から現れたのは猫少女だった。板金鎧の姿は電影機に映る航空虚兵と同じ。ただ、あどけない表情だけが他の人造胚たちとは違っていた。 「もうお腹ペコペコだニャー」 忌々しげに猫少女を見下ろすチーフ。 「不良品が」 椅子の操作パネルを弄る。 41
2016-10-05 18:36:14_次の瞬間、猫少女はふらふらと頭を振って床に伏す。チーフの得意げな声。 「航空虚兵は完璧にコントロールできている。こうやって規格外品を処分することもな。素晴らしいだろう」 ルアニトルとセンセイは何が起こったのか分からず呆然としていた。 (まさか……まさか) 42
2016-10-05 18:43:29_恐る恐る歩み寄るルアニトル。猫少女の反応はない。 「無駄だよ。死んだ」 チーフの宣告。脈を確かめると、確かにこと切れていた。 「そんな」 「二人とも今までご苦労だったよ」 チーフは得意げに、椅子の操作パネルを叩く。 「役立たずをまとめて処分するいい機会だ」 43
2016-10-05 18:47:49_チーフの恵比須顔は変わらない。 「完璧に統率された兵士だ。不良品の一体を除いて確実に動作する。これも君の教育のたまものだよ、センセイ。いい目くらましだった。政府の役人どもは全員騙された。感想はどうだ?」 「……楽しかったよ」 センセイの声は震えていた。 44
2016-10-05 18:53:33「誰の分け隔てもなく、皆が皆、皆のために役立てるように……貢献できるように教えてきた。素晴らしい毎日だったよ」 ルアニトルはセンセイの背中が、酷く小さく見えた。枯れる寸前の鉢植えのような。チーフはニヤニヤと笑っている。 「そうか、それはよかったな」 45
2016-10-05 18:58:25_廊下からガチャガチャと金属音。人造胚に包囲されようとしているのだ。何人いるのだろうか、それすらもルアニトルの頭の中に無かった。センセイは弱弱しく呟くように言う。 「楽しかったよ。自分の思想が、理想が……純真無垢で綺麗な生き物の口から繰り返されることが……はは……」 46
2016-10-05 19:02:54「結局は一人芝居だったんだな……お前の野望のための前座だったんだな」 「センセイ、君の語る綺麗ごとは嫌いだったよ。もう君は必要ない。安心したまえ、生徒の前では殺さんよ。流石に人造胚が動揺するからね」 チーフが魔法陣を展開する。センセイは魔法杖を取り出し抵抗する! 47
2016-10-05 19:08:02_魔法戦闘の勝敗は一瞬で決着した。チーフの魔法陣の影響力に抵抗できなかったセンセイは、一瞬で灰になって消滅した。 ルアニトルは遠くの出来事のように感じていた。猫少女の言葉はいつまでも心に残っているのに。もう彼女はいない。 (生まれ変わったら、一緒に猫になろうニャー) 48
2016-10-05 19:12:59_彼女にかけたかった別れの言葉。それすら届ける間もなく、猫少女は死んだ。震える手で彼女に触れるが、板金鎧ごと灰になって消える。 「ルアニトル君、どうしたのだね?」 まるで調子の悪さを聞くように、恵比須顔で言うチーフ。 「君には本当にイライラさせられたよ」 49
2016-10-05 19:17:39_椅子から立ち上がって後ろに手を組み、歩み寄るチーフ。人造胚の群れが部屋の前に到着しルアニトルを取り囲む。どれも蝋人形のような顔をしていた。 「作業は遅い、すぐ休憩する。まったく迷惑だったよ」 ルアニトルは目の前の灰をすくい上げる。それは灰以外の何物でもなかった。 50
2016-10-05 19:21:59【用語解説】 【航空虚兵】 ブレードドライブ実用化の報は灰土地域を震撼させた。航空ブレードによる独力飛行。まさに、空戦の常識を揺るがす大事件だった。帝都はさっそく虚兵計画にこのシステムを割り込ませロールアウトする予定だっが、その計画より先に情報が洩れ、量産されるという事件が起こる
2016-10-05 19:32:05