- shurin_bunchou
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――Trailer
――”Silent Sweeper”
「オーヴァード賭博?」 「はい、ご存知ですか鳴宮さん」 「いや全く」 「歴戦のオーヴァードを招集あるいは拉致して、互いの勝敗と生き死にを競わせるものです」 「待って今拉致って聞こえたんだけど」 「はっは。猛犬の檻に自ら飛び込みたがる者ばかりじゃないのは自明じゃないですか」
2016-09-26 17:32:00「で、既に嫌な予感しかしないんだがそれがどうしたんだ」 「鳴宮さんにはこれからデスゲームをしてもらいます」 「またそういう流れ!」 「目的は彼らが所持している医療技術の奪取あるいは破壊です」 「なんか危ないやつか」 「世界の構図を書き換えかねないとだけ」 「お、おう」
2016-09-26 17:36:08「なお現場には朽葉さんもおりますのでうまく避けてください」 「なんであいつ送り込んだの???」 「言ったじゃないですか、目的は「奪取あるいは破壊」ですよ」 「察した」 「兄上の死の手がかりがあるかもしれないと申し上げたら勇んで出て行きましたね」 「あるの?」 「さあ?」 「おう」
2016-09-26 17:38:05「一応遺書書いていかれます?」 「遺す先ないのわかって言ってるよな?」 「恋人などいらっしゃったら困るかと思いまして」 「いや特に」 「そうですか。鳴宮さんモテそうですけどね。この間の鬼形さんのときなんかも」 「やめてくれ」
2016-09-26 17:44:53――”Paranoia"
「まだつかないの?」 「もう少しですよ」 ふーん、と少年は吐息のように零すと、目元を覆うアイマスクを確かめるように手で触れた。 決して外さないように――などと言われていた気がするが、こんな化学繊維だけでできた単純な目隠しを外すなという方がオーヴァードには無理な話だ。
2016-09-29 01:12:41と少年、賽目禊は思った。だが、今向かっている目的地への案内を頼んだのは自分で、運転士の機嫌を損ねたら高度3000の空中から海底へ落とされる羽目になりかねない。海の底ならまだいいが、陸だったら目も当てられない。義理を立ててつけておいてあげるのが優しさだろう。
2016-09-29 01:12:46まあ、オーヴァードは海に落ちたくらいではさすがに死なないのだけど……つらつらと考えながら禊は手の中の銃を手持無沙汰に弄ぶ。その仕草も運転士のちょっとしたストレスになっているようだが、そこはそれ。UGNの《狂人(パラノイア)》を載せてしまった運の尽きと思っていただくほかはない。
2016-09-29 01:12:59「それにしても、UGNの職員がこういった催しに参加するのは大変珍しいですよ」 「あ、そうなの? まあ僕は不良職員だからね、今回も任務逸脱のため~とかって謹慎食らってるし」 「それで謹慎中にここに来たんですか?」
2016-09-29 01:13:15「そうだよ。死線を駆け抜けるような危険な戦いにこそ、閃きがあるんじゃないか、なーんて思ったわけさ」 明るく飄々と、調子のいい口調で話してのける禊だが、本当はそれとは真逆の目的を帯びてこの場所を訪れていたりもする。
2016-09-29 01:13:30否、趣味の範囲内で、先に言葉にした部分も楽しむかもしれないが、あくまでそれは余暇のこと。 ここを訪れたおおもとの目的は、もちろん忘れていない。それを果たすためにも、今はおとなしくおとなしく……。
2016-09-29 01:13:45――”Mortal Crimson”
目的地へと向かうヘリの中で、朽葉綺は苛立たしげに足を揺らす。 「いつ着くのよ」 「もう少しですよ」 十数分前にも同じ応酬をしたことを思い出して、朽葉は大きく舌打ちをする。それでもいつものように内腿に提げたナイフを抜くことはしなかった。
2016-09-29 01:38:59暴力を以て我を押し通すのが、朽葉の流儀だ。しかしひとかどの理性を残した人間である以上、現在の状況でそれを行うのが下策であることは判断できる。 圧倒的な武力を誇るFHセル『狂戦士』の中でも、群を抜いて危険な女。《死線の紅氷(モータル・クリムゾン)》朽葉綺の風評はそんなところだ。
2016-09-29 01:40:06なにしろ彼女の暴力にはまるで見境がない。かろうじてチームメンバーを殺さないだけの判別能力は有しているが、それ以外はすべて十把一絡げだ。目の前にいるのが一般人だろうと、オーヴァードだろうと、UGNだろうと、FHだろうとおかまいなし。
2016-09-29 01:40:21応援として駆け付けたFHの部隊を壊滅させたことも一度や二度ではないし、無辜の一般人を「なんとなく邪魔だったから」虐殺した回数もいざ知らず。その所業から、或いは彼女はもはや化け物(ジャーム)なのではないか、などという噂も立ち上るほどだ。
2016-09-29 01:40:52さて、ではその「危険な女」がなぜ、こうして大人しくヘリに載せられているかというと――理由は非常にシンプルだ。それはずばり、大切な人のため。大切な人の痕跡を追い求める手掛かりが向かう先にあると教えられたためだ。
2016-09-29 01:41:07朽葉綺という女は戦闘以外の物事にはまるで頓着しない性質だが、大切な人に関わる一切のことだけは決して忘れることがない。日常を蹴り飛ばし、非日常に浸かりきっていながらも、一縷の絆を手放すことだけは善しとしない。
2016-09-29 01:41:14それを以て周囲は彼女をかろうじて人間(オーヴァード)と認識しているし、それがあるからこそこの獣のような戦闘狂はかろうじて「セル」というひとつの社会的な集団に身を置くことができている。
2016-09-29 01:41:23「……あとどれくらいよ」 「もう少しです」 「分単位で答えて」 「三十分程度でしょうかね」 「遅いわ」 もっと早くならないの、と口をとがらせるその様子は年ごろの少女そのものだが、言葉と共に漂ってくるのはただならぬ殺意。 「まあ、落ち着いてください。本当にすぐですか、――!」
2016-09-29 01:41:53最後まで言い切れなかったのは、背後に迫る何かの気配を感じたから。反射的に運転士が振り向――、ずぶ、ぐちょり。 「!!!???」 突然のことに悲鳴さえ出なかった。一拍おいて、男の身体がどさりと崩れ落ちる。
2016-09-29 01:42:08柄まで突き刺さったナイフの刃渡りからして、眼球を突き破り頭蓋底に達し、脳幹部を完全に断裂させてしまったのは明らかであろう。 「遅い」 それはヘリがか、あるいは運転士の反応がか――ぼそりと零した少女は運転席にくずおれた死体を蹴り出して操縦桿を握る。
2016-09-29 01:42:19