私は絵を買わなかった。 だから今でも、60万円の絵にふさわしい人生を送ることができずにいる。

rmsi_isng @rmsi_isng

90年代、クリスチャン・ラッセン系の絵画のキャッチセールスが流行っていた頃、ここはあえて一度、勧誘をうけてみようと思った。 店内に案内され、綺麗な女性スタッフが色々と絵について解説してくれた。その合間に私の服装などを褒めてきた（どう見ても褒められるような服装はしていなかった）。

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絵はどれも高い。 「60万円の絵なんて自分には高すぎる、って初めはどなたもおっしゃるんですよね。でも、そうじゃないんです。60万円の絵を買えば、それにふさわしい自分になろうって思って、人生が変わるんですよ、みなさん。」 なるほど、そういうものか。

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いつまで経っても私が首を縦に振らないので、奥の部屋に通された。ガタイのいい男性スタッフが控えていた。 そこで同じように勧誘を受けた。緊張感のレベルが一段増していた。

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私が結局「買わないのだ」ということが明らかになると、先ほどの女性スタッフの表情が、一瞬にして般若のようになった。この、よく聞きはするが自分では使いどころの無かった言い回しは、ここでこそ使うべきだと思った。

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私は絵を買わなかった。 だから今でも、60万円の絵にふさわしい人生を送ることができずにいる。