【ミリマスSS】音の雪 #3【真壁瑞希】

これ(http://togetter.com/li/1041957)の続き。 つぎ(http://togetter.com/li/1049710)でおわり。 途中に出てくる『能力《タレント》』っていうのは、いつだったか説明した《アイドルに発現する超自然的能力》の一般的な総称です。 ただ、語弊がないように言っておくと、『アイドルだから能力《タレント》が発現する』というより『能力《タレント》がある者はアイドルになることが多い(非能力者でもアイドルにはなれる)』って感じです。 まあぶっちゃけそんなアホみたいなオリ設定わかんなくても読める。
0
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「そうですね……ロコたちがマジックをして、ミズキをあっと言わせられたら、ミズキはシアターにトゥギャザーする。あっと言わせられなかったらマジックカフェに行っていいです」また無茶な賭けに出たな、ロコ。それでこそロコだ。「それは……興味がありますね」「今日もまっしろですね〜」 24

2016-10-31 22:58:48
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「でも疑問ですね。どうして伴田さんはそこまで私を劇場に連れていきたがるんですか?」「ロコです。理由はさっき言ったじゃないですか。ワンイヤーにワンタイムあるかないかのイベントです。一緒に行きたいんです、ミズキ」「そうですか。そこまで言われるとご一緒したくなってきましたが……」 25

2016-10-31 23:02:36
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「ホントですか!」「……でも……マジックカフェの魅力が、いかんせん、強すぎます。……抗えません」瑞希の声から強い葛藤を感じる。珍しいことだ。「ああ、今、私の中で、マジックカフェと劇場が拮抗しはじめました」「そのストロングなコンフリクト、ロコがブレークアウトしてあげます」 26

2016-10-31 23:06:51
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「じゃじゃん!」ロコは擬態語を叫んだ。どうやら、ドラえもんのように、何かを取り出したらしいが、見えないので、何が出てきたのかわからない。「未知ノ筆《ロコナイズ・アート》ですか」「あっと言わせてみせますよ」ロコがロコアートを作り始めたんだろう、衣擦れに似た音が聞こえ始める。 27

2016-10-31 23:12:53
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

未知ノ筆《ロコナイズ・アート》というのは、ロコの持つ能力《タレント》の名だ。自分が『ロコアート』だと思ったものを実体化させたり、動かしたりすることができる。つまり、ゴミを自由自在に操れる能力だ。俺はそう解釈している。とってもエコロジーな能力であり、感心の至りだ。 28

2016-10-31 23:15:13
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「何してるんですか〜?」美也がそう言って顔を上げた。けっこう長い間会話の流れから離れていたので、状況が掴めないんだろう。「私をあっと言わせてくれるらしいです」と瑞希。「トイレットペーパーで、ですか?」「そうみたいですね」ロコはトイレットペーパーでロコアートを作っているのか。 29

2016-10-31 23:18:29
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

さすがロコ、といった風情だ。さすロコ。「じゃあ私も瑞希さんをあっと言わせてみせますね〜、もぐもぐ……」美也はサンドイッチを食べ終えてから軽く手を叩いた。ハトが一羽、羽をぱたぱた鳴らしながら、美也の足元に駆け寄る。「ハクくん、行きますよ〜」ロコはまだロコアートを作っている。 30

2016-10-31 23:23:36
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

未知ノ筆《ロコナイズ・アート》発動中は、作成中の作品が完成するまでは外部からの大きな干渉がない限り、手を止めることができないのだ。手を止めれば未知ノ筆《ロコナイズ・アート》は効力を失ってしまう。瑞希は何も言わずに二人の動向を見守っている。 31

2016-10-31 23:28:06
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「竜王宮尾美也のもとに真の姿を現せ〜!」途端、風が巻き起こった。瑞希は咄嗟に腕で風を防ぐ。足を踏ん張らないと倒れそうなほどだ。「ああっ、ロコアートが!」ロコの悲痛な叫びがこだまする。トイレットペーパーが耐えられる風圧ではなかった。飛ばされたか崩れたか、ロコナイズは失敗だ。 32

2016-10-31 23:34:01
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「うおう」「じゃじゃ〜ん♪」瑞希が驚く。美也は誇らしげだ。「どうですか、驚いてくれましたか?」「ええと、そうですね……どちらかといえば困惑していますが……」「じゃあ私たちの勝ちですね、うれしいです〜」ばさばさばさ、と風が嬉しそうに吹き抜けた。何が起こったのか、推察する。 33

2016-10-31 23:38:21
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

宮尾美也、彼女は、七匹の竜を従える『竜王』である。将棋の駒の名前とかではなく、文字面そのままの『竜王』だ。ドラゴンクエストをイメージしてもらえばわかりやすい。彼女の配下の竜たちは普段別の生物に擬態し世界に紛れ生活していて、その中の一匹にハトがいる、という話を俺は知っていた。 34

2016-10-31 23:45:46
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

この場所にそのハトの竜がいて、そして今瑞希の目の前で竜の姿に変身した、とまあ、そんなところだろう。「わっ、ミヤ、またハクくんメタモルフォーゼさせちゃったんですか。シティの中だと目立っちゃいますよ」ロコは以前にも竜を見たことがあるのか、あまり驚いた様子はない。 35

2016-10-31 23:52:14
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

音が聞こえるだけの俺には竜のスケール感が掴めないが、竜というくらいだ、さすがに神話に出てくるような大きさではないだろうが、それでもそこそこ巨大な体躯であることは間違いない。当然、目立つ。「じゃあロコちゃん、瑞希さん、行きましょう〜!」俺は突き上げられた美也の握り拳を幻視する 36

2016-10-31 23:55:47
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「……まさか」風がばさばさと蠢いて近寄ってくる。見えない俺は恐怖だけが募るが、声色からして、瑞希も俺と似たような気持ちらしい。「ハクくんに乗るのは久しぶりですね!」「ふわふわですよ〜」ロコと美也の声が遠くなった。便宜的に鳩竜と呼ぶことにしよう、二人は鳩竜に乗ったのだ。 37

2016-10-31 23:59:49
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

二人の声は相当な高さ、三メートルくらい上から聞こえてくる。やはり鳩竜はかなり大きいようだ。「そんな無茶な、うわおっ」風が足の下を駆け抜けた。体が宙に浮き、背が毛布で支えられている。……恐らく鳩竜に、その毛布のような翼によって体を持ち上げられたのだ。 38

2016-11-01 00:02:58
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

もちろん、毛布の感触というのは俺には分からない。しかし音からそう察することはできる。大きな毛布にダイブしたときの、ボフッという、憧れを膨らませて撫でるような音だ。足元の浮遊感が消え、瑞希はさらに巨大な毛布へ頭から墜落した。この感じは羽毛布団だ。額をこすりながら顔を上げる。 39

2016-11-01 00:11:42
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

巨大な羽毛、たぶん、鳩竜の背中だろう。羽が風に揺れてさざめいている。ロコが慣れた調子で瑞希に声をかけた。「ホールドオンですよ、ミズキ」「ホールドオン……?」次の瞬間、上から下へと、頭を押し込むように風が吹いた。頭頂が風を裂く。鳩竜が飛び上がったのだ。瑞希はバランスを崩す。 40

2016-11-01 00:18:53
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

瑞希は勢いよく鳩竜の背中を転がり落ちていく。どんどん高く飛び上がっていく鳩竜の背中から落ちたら、どう考えても無事では済まない。俺は心臓が吹っ飛ぶような感覚に陥る。「くっ」瑞希が何かに掴まり、ひとまず停止する。しかし、足元が涼しい……足は空に投げ出されている。「助かりました」 41

2016-11-01 00:27:38
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「瑞希さん、ホールドオンっていうのはですね〜」美也の呑気な声が響く。転がり落ちかけた瑞希の手を取ったのは美也だったのだ。瑞希は美也に引っ張りあげてもらい、安定する場所へうつ伏せになる。上昇の風、押し付ける風はまだ止まず、鳩竜はどんどん高度を上げていく。街の喧騒は遥か遠くだ。 42

2016-11-01 00:31:51
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

今更だが、竜に翼なんて付いてたっけ。もっとこう、竜の飛び方ってスマートじゃなかったか。『まんが日本昔ばなし』のOPみたいな。「『つかまっててください』って意味なんですよ〜」「もう少し早く聞きたかったです……瑞希、危機一髪」「それじゃ行きますよハクくん、765プロ劇場へ〜!」 43

2016-11-01 00:36:32
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「レッツゴーです!」風の向きが変わる。忙しなく羽ばたいていた翼の音が消えた。鳩竜が翼を広げ、上層気流に乗ったのだ。気流は安定しているので、気流に乗っていれば方向調整さえできていれば楽に飛べる。瑞希は少し落ち着いたのか、うつぶせの状態から上半身を起こす。 44

2016-11-01 00:39:12
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「……劇場はこの方向で合ってますか。街が全然見えないですけど」「はい、合ってます〜♪」「ミズキ、シアターへの空路で迷うなんてことはナッシングですよ!このハクくんはシアターへのハイウェイをちゃんとリメンバーしてくれてますし、それに……」ロコは勿体つけるように溜めを作り、言う。 45

2016-11-01 00:46:02
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「765プロシアターには、いつだって、ストロングでワールドワイドなウインドが吹き込み続けているんですから!」なんだか名言みたいにロコが叫んでいるが、いまいち意味が分からない。瑞希は「それなら安心です」と優しく呟いた。 46

2016-11-01 00:49:31