ヨグヤカルタ・ナイトレイド #5
◆四人のニンジャは直立し、アイサツに備える。室内の空気が重苦しく渦巻いた。「……ドーモ。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーがアイサツした。睨み据える瞳に赤黒の炎が走った。応えるように、次にアイサツしたのは、黒橙のニンジャだった。「……ドーモ。サツバツナイトです」◆
2016-11-17 21:51:17「ドーモ。ロングゲイトです」「ドーモ。グレイウィルムです」襲撃を受けた二人が彼らのアイサツに応えた。全員のニューロンが極限高速で回転した。個室の時間の流れはほとんど停止しているに等しかった。事態を完全に把握している者はこの場に誰もいなかった。 1
2016-11-17 21:53:46「サツバツナイト!」グレイウィルムが唸った。ロングゲイトはグレイウィルムの切迫した声音から、これがシャン・ロア側の刺客ではない事を確認した。彼はテーブルを蹴り倒し、グレイウィルムと背中合わせに立ってカラテを構えた。(もう一匹は如何に)(恐らくサツバツナイトの手の者!)2
2016-11-17 21:59:29一方、ニンジャスレイヤーは不可解な感覚をおぼえた。つい先ほどに感じたのと同様の違和感だ。黒橙のニンジャの正体は、水路越しに見たあの者だ。侵入?何が目的だ。手掛かりはグレイウィルムの敵意である。グレイウィルムと……即ち、シャン・ロアとコトを構えているニンジャか。 3
2016-11-17 22:03:26天井裏でナラク・ニンジャが示唆した敵の情報がフィードバックする。グレイウィルムはムカデ・ニンジャ・クランのニンジャソウル憑依者。そしてロングゲイトはカゼ・ニンジャ・クランのソウル憑依者だ。尤も、ロングゲイトはサツガイから力を得ている。セオリー通りには行くまい。 4
2016-11-17 22:06:31「ニンジャ……スレイヤー……!」黒橙のニンジャが目を見開き、呻いた。(ナラク!)マスラダはニューロンの同居者と同調した。この者は不可解だ。少なくともニンジャソウル憑依者ではない。(((生きておったか)))ナラクの声が響き渡る。マスラダは問う。(何者だ)5
2016-11-17 22:10:01(((あれはサツバツナイト。太古の暗殺術、チャドーの使い手よ。厄介なリアルニンジャだ)))リアルニンジャ。すなわち、キンカクのソウルを憑依させて変異した者ではなく、自ら修行によってニンジャとなった者を指す。(((マスラダよ、だがまずはサツガイのニンジャからだ。殺せ!))) 6
2016-11-17 22:13:15「イヤーッ!」しかし、最も早く動いたのはグレイウィルムであった。これには幾つかの要因が複合している。とにかく彼はサツバツナイトを既に知っており、動じる事がなかった。かざした両手の袖から、のたうつ影がそれぞれ飛び出し、サツバツナイトとニンジャスレイヤーを同時に襲った。 7
2016-11-17 22:17:50おお、それは実際ひとの腕ほどに大きい生きた百足であった。ムカデ・カナシバリ・ジツ!自律した意志を持つ怪物はサツバツナイトとニンジャスレイヤーの滞納能力を超えた速度で襲い掛かり、荒縄めいて巻きついた。「イヤーッ!」二人のニンジャはそれぞれに襲い来た百足の頭をチョップで砕いた。8
2016-11-17 22:23:47だがそれで終わりではなかった。「オゴーッ!」グレイウィルムのヴェールがまくれ上がり、その口から第三のムカデ・カナシバリが吐き出された。この奇襲がニンジャスレイヤーを捉えた!「ヌウーッ!」「まずはサツバツナイトだ、ロングゲイト=サン。こ奴は大王のジツで弱っておるゆえに!」 9
2016-11-17 22:25:58ロングゲイトはサツバツナイトに襲い掛かった。素早いショートフックは謎めいた衝撃波を伴い、身構えるサツバツナイトを切り裂く。さらにグレイウィルムが眼球を狙う突きを繰り出す。サツバツナイトは円を描くように手を動かし、顔を傾け、同時攻撃にかろうじて耐えた。 10
2016-11-17 22:30:55(((あれはロウ・ワンの呪い!)))ナラクが唸り、サツバツナイトの身体に刻み込まれたムカデ型の呪いを視界に炙り出した。(((奴めムカデ・ニンジャに後れを取ったか。マスラダ!ともあれ好機ぞ。拘束を脱し……)))「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアイソメトリック力を込める。 11
2016-11-17 22:34:48百足がミキミキと嫌な軋み音を立て、外殻の隙間から紫色の汁が溢れ出た。この不快な拘束が引きちぎれて爆ぜ飛ぶまで、二秒。あるいは三秒。泥めいて鈍化した時間の中、マスラダは……ニンジャスレイヤーは、サツバツナイトを凝視した。その身体を冒す呪いと、呪いに抗う謎めいた力の流れを見た。 12
2016-11-17 22:37:21「スウーッ……ハアーッ……!」全身を巡る力はサツバツナイトが呼吸によって生み出す神秘的なカラテだった。黒橙のニンジャは深く吸い、深く吐きながら戦っている。それが呪いの力を抑制している。そして、それゆえに、ニンジャ二人の連続攻撃に反撃の糸口を見い出せずにいるのだ。 13
2016-11-17 22:41:41だが、それでもよく耐えている。グレイウィルムの奇怪なチョップ突き攻撃と、ロングゲイトの衝撃波を伴うカラテに晒されながら、かろうじて致命傷を回避している。腕の動き。脚の動き。カラテのカタ。マスラダは、ある種、新鮮な驚きをもってその動きを見た。「イヤーッ!」百足が爆散した! 14
2016-11-17 22:48:29ニンジャスレイヤーは一瞬たりとも躊躇せず、全力のカラテでロングゲイトの背後を襲った。「イヤーッ!」ロングゲイトが消えた。次の瞬間、背に強烈な衝撃を受けたのはニンジャスレイヤーの方だった。「グワーッ!?」割れ窓方向へ弾かれながら、彼は己の身に起こった出来事を反芻しようとした。 15
2016-11-17 22:52:27肩甲骨ごと背中を削ぎ、抉り取るはずの鉤爪攻撃を受ける寸前、ロングゲイトは確かに消えた。そしてニンジャスレイヤーの背後に出現した。そしてニンジャスレイヤーを逆に後ろから攻撃した。状況判断がこの信じがたく冷徹な答えを弾き出していた……「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは屋外へ射出!16
2016-11-17 22:55:05(((これはマバタキ・ジツ!)))ナラクが呻き、超自然の熱が背骨の亀裂を繋いだ。ニンジャスレイヤーは気絶をこらえ、空中で回転してバランスを取ると、右腕のフックロープを放った。瞬間的に投擲されたロープの鉤爪はロングゲイトが咄嗟に掲げた左手甲に巻き付いた。ロングゲイトが笑った。17
2016-11-17 22:59:06「二対一とはいかぬ様子……」「うん、充分だ」グレイウィルムが弓弦めいて目を細め、笑った。「イヤーッ!」ロングゲイトは己を引っ張るフックロープの力に敢えて逆らわず、ニンジャスレイヤーを追うように飛んだ。飛びながら彼は連続で回し蹴りを放った。衝撃波がニンジャスレイヤーを襲う。 18
2016-11-17 23:02:44バオン!バオン!耳をつんざく破裂音。かざした腕が空気の衝突で弾かれる。空中は無防備の極み。ニンジャスレイヤーは立木の枝を見る。フックロープをロングゲイトの腕から戻し、あの枝へ……「イヤーッ!」鉤爪から解放された瞬間、ロングゲイトは消えた。 19
2016-11-17 23:07:51(((ヌウーッ、これは!)))ナラクの狼狽がニューロンを波立たせる。空中にあって、ニンジャスレイヤーはロングゲイトに羽交い絞めにされていた。ゴウウウ……風が耳元で唸る。(((これは暗黒カラテ奥義、アラバマオトシ!コシャク……!)))天地が逆転し、ナラクの叫びが振り払われた。 20
2016-11-17 23:14:30