引き鉄

終戦、吹雪と司令官
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ラスカる@固定に新作 @Not_Araiguma

『作戦行動中の全部隊に告ぐ。本日明朝日本標準時マルゴーマルマルにおいて深海棲艦と講話が成立し、戦争は終結した。 繰り返す、本日明朝……』 吹雪「……終わりましたね」 司令官「……ああ」 吹雪「なんだか、実感が湧かないです」 司令官「確かに、深海共生派の罠かとも思えてしまう」 →

2016-12-26 21:27:09
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吹雪「でも、これは我が国の軍の公式回線から流れています。罠だとは、思えません」 司令官「……そうだな。そうだよな」 吹雪「……本当に、終わったんですね」 司令官「らしいな」 吹雪「……司令官、お疲れ様でした」 司令官「吹雪も、お疲れさん」 吹雪「……」 司令官「どうした?」 →

2016-12-26 21:30:13
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吹雪「……司令官に、お別れを言わなければなりません」 司令官「ん、吹雪は軍を抜けるのか?まぁ、少し前から今後の身の振り方を考えておけと言ったから驚きはしないが」 吹雪「いえ、軍は抜けません」 司令官「……おいおい、まさか戦後処理に付き合う気か。悪いが薦めはしないぞ」 →

2016-12-26 21:33:11
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吹雪「それも考えましたが、私はこれから先、司令官には、いえ、誰にも付いては行きません。……行けません」 司令官「吹雪、いったいどうしたんだ」 吹雪「……司令官、頼みがあります」 司令官「あ、ああ。なんだ?」 吹雪「私を……私を、"解体"してください」 →

2016-12-26 21:37:02
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司令官「解体って……武装解除ならこれから順次行われ」 吹雪「そういう意味ではありません」 司令官「……それなら、なんだって言うんだ」 吹雪「文字通りの意味の"解体"です。……戦争が終わった今、私のような兵器はもう必要ありません。鉄屑に還してください。スクラップにしてください」 →

2016-12-26 21:41:41
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司令官「……知っているとは思うが、艦娘の素体は人体のそれそのものでだな」 吹雪「知っています。ですので機械と同じようにというわけにはいきません。……これを」 司令官「……なんだ、これは」 吹雪「拳銃です。弾丸は一発しか入っていないので外さないようにしてください」 →

2016-12-26 21:46:15
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司令官「……馬鹿野郎!できるかそんなことっ!」 吹雪「お願いします。貴方にしか頼めないんです、司令官」 司令官「っ……ひとつ聞かせろ。何故そんなことを望む」 吹雪「これからの時代に私のような者は不要だと考えたからです」 司令官「否定してやる。戦後処理には貴様ら艦娘が必要だ」 →

2016-12-26 21:51:53
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吹雪「それは違います。私は戦後を生きることが出来ません。許されません。生きていては、駄目なんです」 司令官「何故だ」 吹雪「……彼女たちの手を取ることが出来ないからです。これからの世界を生きるには、私はあまりにも沢山の深海棲艦を殺めてしまいました。殺しすぎてしまいました」 →

2016-12-26 21:57:26
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吹雪「彼女たち同胞の血に塗れたこの手で、どうして彼女たちの手を取ることが出来るというのですか」 司令官「……作戦や任務の指示を出したのは俺だ。責任なら俺にもある」 吹雪「いいえ。いいえ違います。最終的に、その場で、その瞬間、彼女たちを殺そうと考え実行したのは私です、司令官」 →

2016-12-26 22:00:42
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吹雪「……ですので駄目なんです。多くの命を手に掛けた兵器の末路に相応しいのは、この一発の銃弾なんです」 司令官「……吹雪、貴様は今自分のことを"兵器"と言ったな」 吹雪「はい、言いました。艦娘は兵器。その筈です」 司令官「……なら何故、その兵器である貴様は今泣いているんだっ」 →

2016-12-26 22:05:38
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吹雪「……そんな訳ありません。兵器がどうして泣けるんですか」 司令官「誤魔化すな。肩の震えを我慢し、いくら下に顔を伏せようが、その涙は間違いなく本物だ」 吹雪「そんな、そんなはず……」 司令官「……吹雪、貴様が兵器ではないことの、機械ではないことの証明をしてやる。よく聞け」 →

2016-12-26 22:10:23
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司令官「本来機械というのは、ただ一つの目的を遂行するだけの為に作られるんだ。例えば、ミシンなら服を織るようにな。原始的な道具なども機械に含むのなら、スプーンなんざ何かを掬い取る為だけの物だ。一見複雑そうに見えるコンピューターだって、元を辿ればただのでかい計算機だ」 →

2016-12-26 22:18:04
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吹雪「……間違ってますよ司令官。十徳ナイフなんてどうなるんですか」 司令官「あれは一つのことしか出来ない道具を複数集めてさも私は色々できますよと上手く見せてるだけだ」 吹雪「……」 司令官「続きを話す。……兵器は、人を殺す為だけに作られた機械だ。単純だが、最高の機械だと思う」 →

2016-12-26 22:22:52
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司令官「互いに持てば攻撃出来ない抑止力にはなるが、やはり兵器は殺す為だけの道具だ。それは疑いようの無い事実だ」 吹雪「それじゃあ、やっぱり私は」 司令官「話は最後まで聞け。だがな吹雪。今の吹雪は本当に自分が兵器であると自信を持って言えるのか?」 吹雪「……どういうことですか」 →

2016-12-26 22:25:24
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司令官「……なぁ吹雪。吹雪は今まで生きてきて感じたことはなかったか」 吹雪「……?」 司令官「喜び、悲しみ、怒り、楽しみ……今まで過ごしてきた日々の中で、これらを感じたことを」 吹雪「……それは、それは」 司令官「あるはずだ。俺は覚えている。君と初めて会ったあの日のことを」 →

2016-12-26 22:29:17
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司令官「君はあの日"笑って"こう言ったんだ。『よろしくお願いします!』ってな。俺は、あの日見たあの笑顔を、嘘のものだとは到底思えない」 吹雪「私、私は……」 司令官「なぁ吹雪。俺はこうも思うんだよ。一つのことしか出来ない筈の兵器が、もし別の何かを出来るようになった時のことを」 →

2016-12-26 22:33:35
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司令官「昨日見た夕陽が綺麗だったとか、あの日食べたものが美味しかったとか、それらを感じるようになった兵器はもはや兵器とは呼べないんだ」 吹雪「……じゃあ、なんだって言うんですか」 司令官「"人間"って呼ぶんだよ。少なくとも俺はな」 吹雪「そんな……私は、人間じゃありません」 →

2016-12-26 22:36:58
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司令官「いいや、君はまごう事なく"人間"だ。何も人間であることを幸福だと思えとは言っていない。だけどな、君はそもそも最初から立派な感情ってやつを持っていたじゃないか」 吹雪「違います、違います……」 司令官「君が兵器なら、初めてあったその日に最期は解体してくれと言ったはずだ」 →

2016-12-26 22:40:46
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吹雪「早く、早く撃ってください……」 司令官「撃たない。撃って楽になりたいというのも立派な感情だ。……ここ数日、君はずっと思い詰めた表情をしていたね」 吹雪「それが、どうしたって言うんですか」 司令官「吹雪。人間が持つ感情には様々なバリエーションがある」 →

2016-12-26 22:44:05
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司令官「この数日間、君は悩んでいたはずだ。果たして本当にこれでいいのか、やるなら自らの手で幕を引いた方がいいのではないか」 吹雪「やめて……」 司令官「"まだ、自分は生きていてもいいんじゃないのか"。……こうも思ったはずだ」 吹雪「そんなの、司令官の推測じゃないですか……!」 →

2016-12-26 22:47:42
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司令官「そうだとも、これは人間である俺の勝手な推測で自分勝手な妄想だ」 吹雪「なら貴方に、貴方に私の何がわかるって言うんですか!」 司令官「この五年間君のそばに一番長く居たのは俺だっ!」 吹雪「……!」 司令官「……すまない。これも、都合の良い言い分にすぎないな」 →

2016-12-26 22:51:08
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吹雪「……」 司令官「……吹雪。人間は機械でも道具でもないから、一つの事に縛られず色々な事が、生き方ができる」 吹雪「……?」 司令官「仕事に集中してもいい、趣味に没頭してもいい、真面目に生きても、少し手を抜いて生きたっていい。なんなら何もせずぼーっと生きてたっていいんだ」 →

2016-12-26 22:55:04
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司令官「俺みたいにわざわざ軍人を志して拷問じゃないかってぐらい過酷な訓練に身を投じて、なれなたらなれたで今度は戦地に赴いたりしたっていいんだぜ?」 吹雪「……」 司令官「……君が彼女たちにしたことを悔いているなら、その罪滅ぼしの為に生きるというのも、一つの選択肢だ」 →

2016-12-26 22:58:04
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司令官「もし一人じゃ出来そうにないなら、俺が付いてってやる。君の傍で、君が為すことの全てを見守ってやるさ」 吹雪「……司令官」 司令官「生きよう、吹雪。これからのことを考えるなら、まず生きなきゃ駄目だ。この後の世界には、君が必要だ」 吹雪「私は……」 司令官「頼む」 →

2016-12-26 23:00:33
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吹雪「……わかりました、司令官」 司令官「そうか……ありが」 吹雪「でも、やっぱり駄目です」 司令官「なっ……」 吹雪「私は、司令官とは生きられません。貴方みたいにいい人と手が汚れた艦娘の私じゃ、釣り合いません」 司令官「そんなことはない!考え直し」 吹雪「ううん、駄目です」 →

2016-12-26 23:03:19