暗がりの女神「異世界から来た人間の男を匿って5年経つんだが一向に手を出してこない」

異世界人の男と暗がりの女神のおはなし。
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乃井 @no_el_ty

「暗がりの女神、衣をお持ちしました」 「……ちょっとさあ、5年も匿ってあげてるんだからさあ、わがまま言っていい?」 「なんでしょうか」 「人間の男に下着を衣の上に載せて持って来られる女神の気持ちになってみてくれない?」 「はあ」

2017-01-06 10:44:31
乃井 @no_el_ty

「私、女神よ?『暗がりの』なんて不人気だけど、女神よ?異世界から来たあんたを殺そうとする他の神々から匿って5年も経つのよ」 「大変感謝しています」 「どういたしまして。そうじゃなくて!なんの感慨もなさそうに下着を人間に持って来られると女神としてのプライドがね!!?」

2017-01-06 10:47:59
乃井 @no_el_ty

「……お言葉ですが女神様。こう……巻く、タイプの下着は、俺から見たらただの布です」 「布!?ただの布ですって!?あんたの世界の下着と形が違うから興奮しないっていうの!?」 「興奮を覚えて欲しいんですか」 「あっいやそうじゃないわ!そうじゃない!!」

2017-01-06 10:49:41
乃井 @no_el_ty

「大体よ!?神の造形って美しいんだから、私も、端くれの末端の末席の私も、き、きれい、でしょ!?そりゃあ、あのクソ小憎たらしい『明るみの』女神に比べたら、くすんでるかもしれないけど……」 「はあ。きれいだとは思いますが」 「そうでしょう!?なのに……その、なのに……」

2017-01-06 10:52:42
乃井 @no_el_ty

「女神様が「だって」とか「それなのに」といった言葉を二度続けると先がつっかえて会話の要領を得ないのはこの5年で分かりましたので、言いたいことははっきり簡単におっしゃってください」 「うぐっ。じゃ、じゃあ、言うけど!あなた、私に対して劣情を抱いたりしないの!?」

2017-01-06 10:54:20
乃井 @no_el_ty

「劣情」 「……あ、あの、劣情っていうのは」 「いやしい情欲。特に性欲のことですね」 「……はい……」 「抱かないといえば嘘にはなりますね」 「……………。えっ!?」

2017-01-06 10:57:15
乃井 @no_el_ty

「こちらの世界へ飛ばされ、20歳から5年の間、ずっとお傍にいるのです。外ならばいざ知らず、ここは人が恐れ忌み嫌う暗がりの中ですから、他に出会いもありませんから、否応なしにも女神様を女性として見てしまいます。それに加え、女神様は脇が甘くいらっしゃるので」

2017-01-06 10:59:21
乃井 @no_el_ty

「脇が甘い」 「……俺が横にいるのを気にも留めず色々なことをなさっているので、きわどい場面も沢山目にしました」 「えっ!?な、ど、どういう場面!?」 「新婚夫婦の家からやってきた『記憶の』神の子に刻ませた粘土板を見てにやついているところなど」 「はあっ!!!???」

2017-01-06 11:03:25
乃井 @no_el_ty

「詳しくお話してもいいですが、女神様の性格上おそらく聞いていられなくなりうやむやになってしまうのでやめておきます。とにかく、俺が女神様に劣情、つまりムラっとすること自体はあるのです」 「じゃ、じゃあなんで手を出してこないの」

2017-01-06 11:05:44
乃井 @no_el_ty

「それは」 「それは?」 「人間が女神に手を出すと酷い目に合うのを知っているからです」 「ど、どういうことよ」 「神話とはえてしてそういうものですので」 「確かに『明るみの』女神とかは人間の男と戯れて次の朝には女神と同衾した不敬から何かしら処すことがあるけど、私はそんなこと……」

2017-01-06 11:09:21
乃井 @no_el_ty

「暗がりの女神様は、男と同衾したこともないのに、不敬と処したりしないと言い切れますか?」 「し、したことないなんてどうして言い切れるのよ!」 「だって夫いないし……男で遊ぶタイプの女神じゃないでしょう、暗がりの女神様は」 「そ、そうだけど!そこは正しく伝わってて嬉しいけど!」

2017-01-06 11:12:29
乃井 @no_el_ty

「俺は『神様はそういうもの』だと思っています。女神様は好きですし、気持ちよくはなりたいですが、つらい思いはしたくありません。人と神の間を超えた恋愛をする根性もありません。なので、劣情を抱いても女神様に手を出したりはしません」 「……そう……」

2017-01-06 11:15:22
乃井 @no_el_ty

「ご期待に沿えず、申し訳ないですが」 「べべべべべ別に期待なんかしてないわよぉ!!ていうかいつまで下着持ってるつもりよ、寄越しなさい!」 「女神様がいつまでも受け取らなかったのではないですか……」

2017-01-06 11:16:00
乃井 @no_el_ty

「…………ってことがあったのよ」 「だから人間はやめときなさいって言ったじゃないのォ。賢明なアンタらしくないわよ」 「……やめるとかやめないとか、そういう問題じゃないもの。好きになっちゃったんだから……」 「ま、恋する乙女神にナニ言っても無駄なのは分かったことだけどォ」

2017-01-06 11:20:31
乃井 @no_el_ty

「……しッかし、あのボウヤの考え方も、あながち間違ってないわよ。『明るみの』だって、好きで人間の男を誑かして処してるわけじゃないの」 「……?そうなの?」 「あれは『そういう女神』なのよ。アンタが『暗がりの』知性と死者の女神であると決められてるのと同じこと」

2017-01-06 11:25:35
乃井 @no_el_ty

「アタシたち神様っていうのは、人間と違うのよ。決められたことを超常の力でこなす存在だから、決められたこと以外の自由はとっても少ないの。……異世界語ではこれを、『設定されたことをこなす機械』とか、言ったわね」 「……『服飾の』神?」 「……アラやッだごめんなさい!黄昏ちゃったわ!」

2017-01-06 11:28:50
乃井 @no_el_ty

「神様の因果はね。とっても少なくても、決められたこと以外の自由があること。だから、自由に人間を好きになるし、やりたいことは自由にやってしまう。でも、やったあと、やったことが、神様の決まりごとに反していたら?」 「……人が、いえ、神が違ったようになって、決められた事柄をこなす?」

2017-01-06 11:30:50
乃井 @no_el_ty

「そう。やっぱり賢いわ、アンタ。だから―ーあのボウヤとそういう仲になったとしても、幸せになれないのは、想像できるデショ」 「……」 「アタシはアンタよりも後発の神だけど、人間に近いところにいる神だから、そういう経験はアンタよりもしてきてる。……つらい想いは、して欲しくないわ」

2017-01-06 11:33:47
乃井 @no_el_ty

「……でも、でも……」 「整理がつかないのは分かるわ。落ち着きたいなら、ボウヤと離れてみるのもいいでしょうね。アンタが暗がりを離れるわけにはいかないから、そうねえ……ボウヤをうちに預けてみる?」 「…………。わかった。お願いするわ……」

2017-01-06 11:36:30
乃井 @no_el_ty

服飾の神は女神じゃないのでオネエです。

2017-01-06 11:36:42
乃井 @no_el_ty

オネエ口調(オネエとは言ってない)

2017-01-06 11:37:01