リビアにおける飛行禁止区域の設定と人道的干渉のジレンマ

カダフィ派による反体制派への空爆という事態を受けて国際社会はリビア上空に飛行禁止区域を設定しようとしているようだが、これは所謂「人道的干渉」の一つとして捉えることが出来る。しかし国連安保理でリビアに対する武力行使容認決議を得ることはおそらく困難であろう。そこから生じるジレンマについての話。
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fj197099 @fj197099

米英、飛行禁止区域設定を検討 中露独は反対(http://bit.ly/hHMuYe)…この話、日本にいては対岸の火事でしかなかろうが(邦人が退避すればば尚更)、実は世界史的重要性を持つ話なのである。つまり国際社会は再びボスニアやコソボのように人道的干渉の是非を議論している訳だ。

2011-03-01 21:04:48
fj197099 @fj197099

記事中の最後の方で湾岸戦争後の米英によるイラク南北における飛行禁止区域の設定の話が出てくるが、これが冷戦後最初に行われた人道的干渉であるという解釈が一般的である。つまり米英両軍はイラク空軍機による少数派のクルド人やシーア人への攻撃を阻止するために飛行禁止区域を設定した訳である。

2011-03-01 21:06:25
fj197099 @fj197099

この時、形式としては明確な人道的干渉の主張というよりは「安保理決議の延長としてこうした活動が可能」という「黙示的授権論」という武力行使の正当化の手法を採った訳であるが、先行する安保理決議があればそうした正当化が容易になるとはいえ、論理的には人道的干渉は決議がなくても可能である。

2011-03-01 21:07:56
fj197099 @fj197099

それが1999年のコソボ空爆である。この時、中ロはNATO軍による空爆を最後まで是認せず安保理決議が出なかったが、NATO軍は空爆を行い、それはアルバニア系住民への迫害・虐殺を阻止したと国際社会で賞賛された。国連の委員会でさえコソボ空爆は「違法だが正統」と意味深な評価をしている。

2011-03-01 21:10:36
fj197099 @fj197099

リビアで起ころうとしているのも同様である。リビア国軍、というよりカダフィ派が反体制派を空爆するのを阻止するために飛行禁止区域を設定しようとする行為は過去と同じく人道的干渉そのものである。問題はリビア制裁決議は武力行使容認決議ではなく、安保理決議による正当化ができないということだ。

2011-03-01 21:13:06
fj197099 @fj197099

もちろんこの点は中ロ等が態度を変えれば問題はないが、制裁決議には同意した中ロが武力行使容認決議にまで同意するとは考えにくい。そのような決議への同意はいよいよ「なぜ人道的干渉の論理が中ロ国内には適用できないのか」という批判を強めてしまいかねないからである。決議を得るのは困難だろう。

2011-03-01 21:15:32
fj197099 @fj197099

故にこの問題は中ロの反発を前提とすれば「安保理決議がなくとも人道上の理由をもって他国に武力干渉をすることが可能か」という問いに帰着する。コソボの時はそれを実行した。リビアではどうなのかが問題である。しかし、実際には飛行禁止区域がNATOによって設定される可能性は低いように思う。

2011-03-01 21:18:47
fj197099 @fj197099

というのはラスムセン事務総長は今のところ設定には安保理の新決議が必要と見ているようであるし、さらにはNATO加盟国であるドイツが反対しているとの話もあるからである。ドイツの反対理由の詳細は知らないがNATOは全会一致でしか動けない。ドイツ一国が反対するだけでも同盟は動けないのだ。

2011-03-01 21:20:38
fj197099 @fj197099

むろんそれはNATOという単位で軍事作戦を行う場合の話であり、イラクの時のように米英だけで話を進めるというのであればできないことではないが、それは同盟内の不和の存在を表面化するし、そもそも中ロとの関係悪化を招くという観点からも困難なことであろう。決議なき人道的干渉の可能性は低い。

2011-03-01 21:22:24
fj197099 @fj197099

安保理決議による明白な授権なき他国への武力行使が阻止されることは望ましいか。一見、それは望ましいことに見えるが必ずしもそうではない。つまりはそれは人道的被害が生じていても安保理常任理事国の間で対立があれば被害者を救済できないということだからだ。武力行使は総てが必ずしも悪ではない。

2011-03-01 21:24:22
fj197099 @fj197099

安保理決議による授権とは結局は常任理事国のいずれの利害にも深刻な悪影響を及ぼさない例外的な事例にのみ与えられるものに過ぎない。安保理は公平公正な司法の場ではなく単なる政治的なプレイフィールドに過ぎない。安保理にかけられるいかなる重大事案も云わば五大国の「政争の具にされる」のだ。

2011-03-01 21:27:31
fj197099 @fj197099

故に安保理決議のない武力行使だからといってそれが必ずしも国際的に正統=倫理的ではない、ということにはならない(国際法上の「違法」ではあるが)。むしろ安保理決議を得ないとできない武力行使の方がよほど倫理的に問題のある場合がある(虐殺を等閑視するなど)。そこが人道的干渉の難しさだ。

2011-03-01 21:29:34
fj197099 @fj197099

リビアの場合も同様の問題が生じている。このままリビアが内戦化してゆくとすれば、国際社会が内政不干渉の論理でカダフィ派による反体制派の虐殺を等閑視するのは倫理的に決して公平なこととはいえない。むしろ反体制派を支援して武力干渉すべきであろう。しかし国際社会はそう円滑には動かぬだろう。

2011-03-01 21:31:26
fj197099 @fj197099

ところでリビア上空の飛行禁止区域の設定がなぜ人道的干渉=武力行使なのかという疑問があるかもしれないが、これは上空を戦闘機が巡回して違反機がいないかどうかを確認し、いた場合には警告をした上で従わなければ撃墜するという作業までが含まれるからである。イラク、ボスニア等で実施例がある。

2011-03-01 21:33:16
fj197099 @fj197099

もう一つ、なぜ国際社会は地上軍を含む全面侵攻ではなく、飛行禁止区域設定という限定関与しかしないのかだが、これは財政難とイラク・アフガンの泥沼化に苦しむ米国及び欧州諸国が人道的干渉はしたいが本格的関与は嫌っているからである。飛行禁止区域の設定は相対的に「安上がり」な干渉なのである。

2011-03-01 21:34:50