狐の迅の話【迅嵐】

おわり
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@tige_xxaj

毎晩金縛りに遭う嵐山が夢の中で狐に出会う。というか、寝ていると腹の上に狐が乗っていて身動きが取れない。声をかけようとしても体が動かずじっと目線を合わせて見つめ合うしかできない。そうしているとだんだん狐の体が大きくなってすっかり押さえつけられて犯される。

2017-01-23 04:14:30
@tige_xxaj

冬の間毎晩のように金縛りに遭って腹の中に子種を植えつけられる。妊娠なんてしないだろうにと目がさめるたびに気怠るい腰を労わりながら起き上がる。一週間が過ぎたあたりから自分が夢精しているようになってため息をつきながら処理をする。夢の中の狐のせいで夢精するなら、美人の女性が良かった。

2017-01-23 04:17:24
@tige_xxaj

せめて獣のままの姿じゃなくて、女に化けて出てくれたならまだ健全だったのにと思いながらも、とりたてて塩や札を調べるわけでもなく金縛りの日々を過ごす。

2017-01-23 04:21:58
@tige_xxaj

そうこうしているといつのまにか年が明けて一日に実家に近い稲荷神社に初詣に出かける。ふと祀られた狐を見て、夢の狐がちゃんと番を見つけられるようにと祈る嵐山。俺は男だから間違いですよと教えてあげる。

2017-01-23 04:22:03
@tige_xxaj

帰りに鳥居をくぐろうとすると、突風が参道の真ん中を抜けていく。思わず目を閉じてやり過ごすと、空は晴れているのにチラホラと雪が降ってくる。雨も寒さで凍ったなと手のひらに触れたそばから雪は溶けて消えていく。初夢はその日の夜、早速狐が現れる。弓なりの目を細く笑ったようにしならせる。

2017-01-23 04:25:20
@tige_xxaj

いつものようにむくむくと体を膨らませた狐は、その日に限って結婚衣装に身を包んだ男の形に変化した。嵐山、と初めて聞くのに懐かしい声で呼ばれる。返事をせねばと声を発すると、いつもは動かないはずの体が自由に動く。今日は金縛りではないようだ。

2017-01-23 04:27:32
@tige_xxaj

嵐山は俺のお嫁さんだから、今日は迎えに来たんだよ。狐の面影を残した男の顔が、青い瞳を揺らめかせながら言う。何を言ってるんだ、俺は男だと張る声に違和感を感じて自分の体に目を落とすと、一回りほど華奢になった体が白無垢を纏っているのが目に入った。

2017-01-23 04:29:57
@tige_xxaj

お前は俺のお嫁さんだから、人間の男にケチつけられないように男に産んだ。今年でハタチになるだろう?だから迎えに来たんだって手を取る男。安心してよ、おれたちは概念でしかない存在だから姿形はどうとでもなる。浮世に影響するとき、気にいる形を作ればいいだけだからと頬に触れる。

2017-01-23 04:33:48
@tige_xxaj

男が瞬きをすると、辺りは昼間に行った神社だった。夜の暗さに狐火が暖かな明かりを灯して不思議な感覚。鳥居の朱がぼんやり浮き上がって綺麗だった。一対の盃に並々と酒が湧いて、男に飲めと促される。これを受け入れたらどうなる、と聞く前に男は答える。おれとお前が番いになる儀式だよ、と。

2017-01-23 04:37:16
@tige_xxaj

顎に手を当てうーんと唸る嵐山。 お前と番になるのは思ったよりも嫌ではないよ。むしろ不思議と気持ちは受け入れてる。だけど現実問題それは無理だ。俺にはやらなきゃいけないことが多すぎる。それを考えたら人間の男で居ないとことが進まない。お前は狐で俺は人間だから、文化が違うのは仕方ない。

2017-01-23 04:45:20
@tige_xxaj

国際結婚だってそうだけど、お互い婚後に後悔しないようにある程度話しておくべきなんじゃないのか?納得しなけりゃ俺はこの酒を飲めないぞ。 と宣う。狐顔の男はぱちくりと目を瞬かせ、一拍おいてくつくつと喉で笑い出す。 ああそうだな、お前はそういう奴だった。面白いよ、やっぱり好きだ。

2017-01-23 04:47:54
@tige_xxaj

分かった、ならばこうしよう、お前は今まで通りに暮らして居ていいよ。おれが人間の世界に馴染もう。なに、急いで神になる必要はない。おれの時間と人の時間は全く違うし、お前が人間として事を成す時間なんてせいぜいゆっくり欠伸をしている間の出来事だ。幸い人に化けるのは得意なんだ。

2017-01-23 04:50:46
@tige_xxaj

突然お前の世界に現れるのも妙な気がするし少し時間を戻そうか。ついでにお前が間違わぬようにおれが力を貸してやろう。暇つぶしの道楽には丁度いい。 そう言って自分の盃を飲み干した男は続けて言う。 お前の願はちゃんと叶えたよ。おれは番の相手をちゃんと間違えなかった。お前が好きだよ、嵐山。

2017-01-23 04:54:03
@tige_xxaj

変な夢を見たと目を覚ます。その日はボーダーの入隊式で、目覚ましの鳴る丁度10秒前に目が覚めた。朝支度をしている間に夢の内容はすっかり忘れてしまうのだけれど、なんだかとても大事な事だったような気がする。家を出ると、空は晴れているのに雨が降っていて、朝日に虹がかかって見えた。

2017-01-23 04:58:00
@tige_xxaj

どことなく懐かしい男が視界に入る。狐みたいな顔をした赤茶の髪の青い目の男。ひらひらと振られた手になんとなく応えると、くしゃりと笑ってそのままどこかへ消えてしまった。後で聞いたらその男は迅と言って、同い年の隊員らしかった。

2017-01-23 05:08:15
@tige_xxaj

どんなに迅と仲良くなっても、盆と正月に会うことはなかった。趣味の暗躍が忙しいとかなんとかで姿をくらませる。むしろそっちが本業なんだと冗談めかして話す。

2017-01-23 05:13:20
@tige_xxaj

嵐山が数えでハタチの正月に、三が日中に初めて迅と会うことができた。初詣の神社で。家族と分かれて迅と少し話をして帰る。甘酒をご馳走になって腰を落ち着ける。少し不貞腐れた顔の迅は、人生なかなか上手くはいかないなと口を尖らせて話す。だから神様にお願いするんだろ、と笑いながら応える。

2017-01-23 05:17:49
@tige_xxaj

神様ねぇ、嵐山はお願い叶ったことあるの?と聞けば、毎年ちゃんと叶えてもらってるよ。家族は健在だし、俺も健康だ。なんて言う。ここの神様はちゃんと守ってくれてるよ。そりゃどうも、とは言わない迅。 なあ嵐山、お前がハタチになったら一緒に酒を飲もうな、なんて、その場で約束を取り付ける。

2017-01-23 05:20:36
@tige_xxaj

勿論、と答える嵐山にくしゃりと笑って返す迅。はやく誕生日が来るといいね、と笑っていた。

2017-01-23 05:26:29