初恋－未完－

PoKo @Poko8_m

1 ｢こんなに遅くまで、何しとるん？｣ 夏休み最後の土曜。部活帰りにみんなでカラオケ行って、帰りが遅くなった日。 コンビニで、ジュースとスナック菓子と発売されたばっかりの好きなタレントが表紙の雑誌買ってたら、声を掛けられた。制服でこの時間。何してるって聞かれてもおかしくない状況。

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2 ｢あ、えーと｣ 今から、家に帰るし、別に悪いことしたわけでもないし…… 遅い時間だし、逆にこの人、危ない人の可能性だってあるよ……ね……？ どうしよう。怖いかも…… ｢とにかく、早う、家に帰り｣ ｢……はい｣ 急いで、会計を済ませて、コンビニを出て、自転車のサドルに跨って……

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3 自転車のペダルを踏んで、思いっきり漕いだ。夜だというのに、空気はまだ熱く、重く、じっとりとしているのに、自転車で自ら斬って進む風は、妙に涼しく感じる。 やっぱり、送ってくって言ってくれた言葉に甘えればよかったかな？でも、2人になったら、いろいろな勘違いを私はしてしまいそうで。

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4 もしたしたら、みんなが言うように、彼は私のこと好きなのかな？とかそういう……。違っていたら、バカみたいって思って、また、考えないようにしようと思って、キーキーと耳につくような虫の鳴き声が響く田舎道。確実に季節が環境が変わろうとしていたのにもこの時の私は気付く理由もなかった……

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5 引越しが一段落して、コンビニに酒とタバコと食べもん買いに行ったら、2学期から働く学校の制服着た生徒が、コンビニの窓越しに見えた雑誌売場に立って、雑誌を観てた。23時近い……。 時間も時間やし、声を掛けなあかんよな。俺、一応、教師やし。無駄な責任感が出てきて、急いで店内に入る。

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6 さっきまで、観てた雑誌片手にスナック菓子に炭酸飲料を持って、店内をウロウロしとって。よく見たら、俺が受け持つクラスの生徒やって思いながら声をかけたら、ちょっと、驚いた顔をして、急いで、会計を済ませてコンビニから出てった。 あ、せや、あいつの新しい担任やって、知らんかったよな？

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7 せやけど、夏休み明けて、俺が教壇に立ったら、あいつビックリするんかなって思ったりして。そしたら、妙に笑いが込み上げて来た。 確か、アイツは、天文部やったよな？もしかして、これから、星見たりするとかなんかやったんかな？なんて思いながら、コンビニを出た所で久しぶりに空を見上げた。

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8 街灯が少ない裏道から見える空には星が輝いていて。やっぱり、田舎やな…… この間まで、都会に居たから、余計にそう感じるんかもしれんけど。 ポケットに突っ込んであった携帯が振るえる。 〝すばる、引越しどう？一緒に行けなくてゴメンね。そっちでの生活楽しめそう？〟って彼女からメール。

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9 〝まぁ、それなりに〟って書いて送った。ホンマは、彼女に一緒に来て欲しかったんやけどな。あんなごっちゃごちゃした場所やなくて、ゆっくりできるようなココに。 せやけど、俺、臨時教師やから、期間限定。向こうは有名な会社での営業、キャリアウーマンやからな。すぐ、断られたけどな。うん。

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10 とりあえず、新学期はじまったら、あの子に最初に俺から声掛けてみるか。 子供の頃の遠足の前の日みたいに、妙にテンションが上がってきて、ドキドキし始めてきた。いよいよ、久しぶりに先生って言われるんかなって思いながら、2階の東側の角にあるアパートの階段をトントントン駆け上がった。

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11 2学期。教室に着いて、席についたら、真っ先に声を掛けられた。 ｢なぁ？この間の帰り、大丈夫やったん？帰りにコンビニで変な男に声を掛けられたって話聞いたんやけど｣ ｢あぁ……大丈夫だったよ｣ ｢だから、送ってくって言ったやん？｣ だから、そういうのが勘違いしちゃうんだってば。

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12 ｢なぁ、そう言えば、知っとる？｣ ｢何を？｣ ｢ほら、席つけー｣ 学年主任がチャイムの音と一緒に教室に入ってくる。その後から一緒に入ってくる小柄の男の人と目が合った。あの人…… ｢知っとる奴もいると思うけど、産休の先生に変わって…｣ 確か、あの日コンビニで声を掛けて来た人？

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13 ｢渋谷すばるって言います。よろしくお願いします｣ だから、あの時、私に声掛けたんだ。渋谷すばる……すばるって星の名前と一緒だ。 ｢ねぇ、結構、かっこよくない？渋谷先生｣ 始業式に向かう体育館に続く渡り廊下で、友達に声を掛けられた。 ｢そうかな？｣ ｢そうだよ。それにさ……｣

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14 ｢？｣ ｢って、言ってもアレか！あんたには、錦戸くんが居るもんね｣ ｢亮ちゃんはそんなんじゃないってば｣ ｢そう思ってなくても、少なくても向こうはそうでしょ？｣ ｢そんなことないよ｣ そう言うこと言われると勘違いするんだってば。第一、亮ちゃんが私のことなんて好きじゃない。

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15 と思う。だって、優しくしてくれたと思ったら、めっちゃ意地悪してきて、単純にアレは私の反応見て楽しんでるだけだと思うし。昔からそういうとこあったし。 ｢おい、お前ら、しゃべっとらんと早う体育館行け｣ ｢はーい｣ 声を掛けてきた渋谷先生の方を見る。私の方を見て、どした？って顔。

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16 ｢お前、天文部やったよな？そしたら、放課後、職員室な？俺、天文部の顧問らしいから｣ ようやく、ちゃんとした顧問できるんだ…… ｢は、い、｣ ｢愛想無いな、お前。そんなんじゃ、男寄りつかんやろ｣ って言ってくくって、私を見て笑った。 不意に見せたその笑顔がなんだか、可愛くて、

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17 何故かドキってした。大人の普通の男の人ってそういう風に笑うなんて思いもしなかったから。 ｢そんなことないです｣ ｢強がり言って。ホンマに愛想無いな｣ また、笑った渋谷先生にドキってして。多分、あの時の私は愛想がないって言うより、どうやって、返したらいいかわからなかっただけ。

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18 放課後の職員室。ドアを開けると冷気が当たる。冷房が効いているみたいで、心地いい。先生達ばっかりずるいよねって思いながら、一瞥して｢失礼します｣と中に入った。 ｢お、来た。来た｣ ｢先生に呼ばれたから、来ただけですけど？｣ ｢お前、可愛くないな。ブスッてして。じゃあ、行くか｣

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19 ｢え？行くってどこに……？｣ ｢部室。やっぱり、顧問やからな。1回行っておかんとあかんやろ｣ ｢お言葉ですが、先生。今日行っても、誰もいませんよ。始業式だし。それに、もともとうち、毎日やるような部活でもないですしね。流星が流れるってなったら、集まったり。そんな感じですから｣

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20 ｢そうなんや。勿体ないな……。確かうちの学校、設備はいいはずやのにって、もう、十数年前やあんまりでもないか｣ うちの天文部の設備は古いけど確かに結構、揃ってる方だと思う……。何で知って……？ ｢何で知ってるって思った？｣ ｢はい｣ ｢だって、俺……卒業生やもん。ここの……｣

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21 ｢ほら、雛……学年主任の……村上先生やってそうやろ？俺、アイツの同級生。ほんで、俺、天文部｣ 部室に向かう廊下、先生の話を聞く。 ｢でも、先生、理系の先生じゃないじゃん。音楽……｣ ｢今は知らんけど、俺のいた頃は音楽言うたら、吹奏楽部だけやってん。やから、適当に選んだんよ｣

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22 ｢適当って酷くないですか？｣ ｢お前もちゃうん？理系の成績ヤバいやろ？｣ ｢成績はともかく、私は星を見るのが好きなんです。キラキラしてる物が昔から好きで……｣ ｢だから、雑誌買ってたんか。芸能人もキラキラしとるもんな｣ ｢先生、うるさい｣ 部室のドアに手を掛けると開いてる？

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23 ｢あれ？亮ちゃん……と｣ 確か1年生の子？えーっと、名前なんだったっけ？ ｢何か、お取り込み中やったか？｣ 私の後から顔を出す先生。 1年生の子はキッと私を睨んで私達2人の脇を早足で通り過ぎて行った。 ｢別にそういう訳じゃないっすよ｣ そう言って、亮ちゃんはヘラって笑った。

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24 ｢もしかして、告白とかされとったん？もしくは、えぇことしてた……とか｣ って、ニヤニヤする渋谷先生。 ｢は？え？何でイキナリそうなるんすか！｣ 焦る亮ちゃん。 ｢いや、ここな、離れやん？人気も少ないから、たまに居んねん。盛りのついた奴らが。俺のファーストキス、ここやったし｣

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25 ｢え？そうなんすか？｣ って、妙にノリノリの亮ちゃん。多分、顔が引き攣ってた私…… ｢って冗談や。冗談。ただ、そういう奴もおったって話｣ そう、言い直して、渋谷先生は私の方を見て笑った。また、からかわれた？ だけど、亮ちゃんはモテる。だから、私は勘違いしないようにしないと。