私の好きな井上ゴム

井上ゴム @pipopa072

んで、うまく文章にできる自信はないが、自分の中で本当に衝撃的だったことを書きたいと思う。・・・数日前、親戚の子どもの卒業式に行ってきたんだ。両親が忙しく、俺が代理でいくことになったわけだが。今までも、彼女が悪さをすれば、親代わりに俺が鉄拳をくらわしてた。彼女を仮にＭとする。

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（続き）俺はＭが可愛くて仕方がなかった（と思う）。彼女の引き起こす事件、その後の謝罪、コミュニケーション能力の低さからくる集団への馴染めなさや奇行、頑として揺るがないと自分で思っている青臭いプライド、そのすべてを愛し、また、どこか懐かしさすら感じていた。

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（続き）そんな彼女だから、と言ったら何だが、卒業式に至るまで苦難の道のりだった。彼女はそんなもの何の意味もないといった。「練習？くだらねえよ」「みんなで揃って感動系の言葉いうとか、マジ反吐が出る」と言っては壁に穴をあけた。でも俺は、彼女が卒業証を受け取るところが見たかった。

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（続き）クラスメートっていう存在がこの世で一番価値がなく彼女にとっては意味のない存在であることは聞かされていたので、ならば少しでも彼女を気にかけてくれた数人（おそらく）の学校職員に証書を受け取るところを見せよう。その数人と俺にとっては、その光景だけが代えがたい価値があると話した。

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（続き）不本意だが、俺は彼女が証書を受け取るところは見れなかった。先生から式の最中逃げ出さないよう、外で見張っていてほしいと頼まれたからだ。でもまあ、彼女がそれで壇上に上がってくれるのならと引き受けた。名前を呼ばれたとき、彼女はどんな返事をするのだろう。想像するとおかしかった。

井上ゴム @pipopa072

（続き）説得を続けて、ようやく式の前日。彼女はしぶしぶ納得した。正直。俺は卒業式に関して彼女と全く同じ考えを持っていた。あの形式が死ぬほどくだらないし、泣く意味もわからないから当然一度も泣いたことなどない。高校になってようやく友だちができるまでクラスの奴らを見下し憎んでいた。

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（続き）あ、高校で友だちができたからといって式に感動したわけでもない。いつも帰りたいと思っていた。大学の時は出席さえしなかった。・・・そんな俺の説得だから、たぶん何一つ説得力はなく、彼女は自分なりに自分の力で何かを決めたのだろう。式の当日もまた駄々をこね、1時間ほど説得したが。

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（続き）式は無事に終わった。先生方の話によると、最後まで我慢して座っており貧乏ゆすりも不穏な動きもなかったようだ。すごく大きな声で返事ができていたとも。立派だ。俺は彼女を褒めちぎった。彼女はうれしそうに少し顔を赤らめ、構ってくれた先生にだけ手紙を書いたから渡して回りたいといった。

井上ゴム @pipopa072

（続き）しかし式の直後の先生方の忙しさたるや。しばらくどこかで待っておこうというと、彼女は一瞬で激昂し「じゃあうちは帰るけん、ゴムが渡しといて！」とさっさと靴を履こうとするところを「こういうのは本人の手渡しじゃないと意味がないよ！」と再び説得。

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（続き）先生方に事情を離し、職員トイレの横の説教部屋みたいなところで、ほとぼりが冷めるまで待機させていただけることになった。30分経過。貧乏ゆすりと呪文の言葉が始まった。さらに15分経過。狭い室内を白熊のようにぐるぐる回りだす。「くそが。」「うちは帰りたいんだよ。」「くそが。」

井上ゴム @pipopa072

(続き)ノックの音が鳴った。先生がやっと訪ねてきてくれたのかとドアを開けると、そこにいたのは見たことのない少女たちだった。・・・彼女たちはＭのクラスメートだった。やばい。「くだらないクラスメート」だ。怪訝な顔をするＭ。すると、彼女たちはＭに駆け寄った。・・・え？

井上ゴム @pipopa072

(続き）彼女らはＭの手を取り「ずっと今まで話したかった」「ずっとＭちゃんのこと気になってた」「これ、あたしの携帯番号。電話して。」など口々に言葉をかけた。そしてたくさんの手紙や色紙を渡して帰っていった。・・やばいんじゃないか、これ。Ｍの嫌悪する全てがギュッと詰まったこの数分。

井上ゴム @pipopa072

(続き)ずっとＭの顔が見れなかった。この後何が起きる？何をやらかす？・・・恐る恐る振り返った。すると、

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(続き)Ｍは顔を真っ赤にして笑っていた。必死で笑顔になろうとしているのを食い止めようとしているが、弁解しようもなく笑顔だった。俺は、Ｍの子どもらしい笑顔をその時始めて見た。・・・そうか。

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(続き)その後現れた数人の先生に駆け寄り、笑顔で一人一人に言葉をかけ、手紙を渡すＭ。彼女がいかにその人たちに愛されていたか、またＭが愛していたのかがよく分かった。・・・そうか。そうだったのか。俺は勝手に自分と勝手に彼女を重ね合わせていただけで、初歩的なことに気づいていなかった。

井上ゴム @pipopa072

(続き)なぜ、俺の説得力のない言葉に渋々応じたのか。こんな小汚い何もない部屋でイラつきながらも誰かを待っていたのか。そしてクラスメートに笑顔を見せたのか。彼女は、単純に、追いかけてきてほしいだけの子どもだった。みんなと一緒に卒業式に出たかったし、友だちと手紙の交換をしたかった。

井上ゴム @pipopa072

（続き)彼女にとって、何一つくだらなくなかった。ただ、何一つ上手にできなかった。彼女の中に山田詠美の登場人物のような思想はなかった。少女の頃から式を嫌悪する子どもなど、ひょっとしたらいないのかもしれない。彼女は、俺とは違ったのか。・・・いや待てよ。ふと思い返した。まさか。

井上ゴム @pipopa072

(続き)俺にもはなから思想なんてなかったのだとしたら。ただ追いかけてほしかったのに叶わず、くだらないと自分に言い聞かせたまま大人になったのだとしたら。うわ。うわわわ。そんな安っぽさ、ある？そんな当たり前さ、ある？そんなダサさ、ある？頭の中で「認めたくない」が暴れまくった。

井上ゴム @pipopa072

(続き)残念なことに。経験から、何択かを与えられた大人が「これだけはないわ」と断言することこそが真実である、ということくらいは知っていた。腹の出た中年になって、こんな嫌な真実と向き合うことになろうとは。

井上ゴム @pipopa072

（続き)あえて一番嫌な言い方で宣言したい。俺は、かまってちゃんのままこじれにこじれ、そのまま中年という名の化石になりました。しかも化石は人間のこじれをこれ見よがしに笑っていました。ああ謝りたい。何かに謝りたい。すいませんでした。でもそんなこと他人の方がハナから知ってたりするよね。

井上ゴム @pipopa072

(続き)帰りにＭと最近見つけたおいしいラーメン屋さんに行った。麵をすすりながら「それでもお前は、俺とは違うったいねえ」とつぶやくと、それはもう憎たらしい顔でＭが「ようわからんけど、当たり前やん。そんな不細工やねえし」と吐き捨てた。

井上ゴム @pipopa072

(続き）追いかけられたという喜びをかみしめ、まっすぐな道を歩き始めたＭの未来にどうか幸あれ。

井上ゴム @pipopa072

ああ、長くなった。さあ、今からカルテット見よう。早朝から仕事だが、仕方がない。ぎりぎりまで明日に行きたくない時もあります。