燭へし同棲botログ:光忠と!

2017/1-4:光忠に絡まれる宗三および日本号
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【光忠と!】 「──だからあ、長谷部くんのこともっと教えてくださいよぉ」 「……」 「……」 カウンターにもたれかかってふわふわ笑う燭台切を見つめながら、僕と日本号は同時に溜め息をついた。

2017-04-01 22:10:47
燭へし同棲bot @dousei_skhs

格好よく決めたいよねと口癖のように言う。そして実際嫌味ったらしいほどに、けれどあくまでもスマートに(同性の目から見ても)格好よく装ってみせる。それが燭台切光忠という男だと思っていた。それなのに。 「宗三、これどうする」 「知りません。潰れたらあなたが運んでください」 「いやだ」

2017-04-01 22:12:32
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ロックのグラスをマイペースに傾けながら、日本号は眉を顰めた。けれどおそらくこの人は、本当に燭台切が潰れてしまったらまず間違いなく介抱してやるのだろう。──天邪鬼なのは誰かさんにそっくりだ。縁があると似てくるものなのだろうか?

2017-04-01 22:13:07
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「宗三くん、日本号さーん」 「なんですか」 「なんだよ」 「長谷部くんのこと教えてくださいってば」 「……そんなの、あなた十分知ってるでしょう」 「そーだぞ。俺らなんてただ昔馴染みってだけなんだから」 「でも、むかしの長谷部くんのことはぼくより知ってるでしょ」 「……」 「……」

2017-04-01 22:14:45
燭へし同棲bot @dousei_skhs

──面倒くさい。とても。 僕と日本号の顔にははっきりそう書かれていたことだろう。けれど燭台切のふわふわした、けれど真剣な瞳はそんなことまで読み取ってくれないようだ。僕たちのどちらかが長谷部の話をするのを待つつもりでいる。……普段の格好いい燭台切はどこへ行ったんでしょう。

2017-04-01 22:15:47
燭へし同棲bot @dousei_skhs

そもそも何故こんなちぐはぐな面子で、仕事終わりに飲みに来ているのか。それは数日前、燭台切から珍しく「飲みに行かない?」という連絡が入ったことがきっかけだった。候補の日にはどれも用事がなかったし、それに燭台切はいい店を知っている。だから付き合うのも悪くないと、僕は了承した。

2017-04-01 22:18:49
燭へし同棲bot @dousei_skhs

実を言うと、燭台切が来るのなら当然長谷部も来るものだと思っていた。僕と長谷部の二人で飲みに行くことは何度もあったけれど、燭台切と二人ということは今までなかったし、今回も声を掛ける係が燭台切だっただけで、長谷部も当たり前にセットだろうと考えていた。

2017-04-01 22:19:31
燭へし同棲bot @dousei_skhs

なのに指定された店に行ってみると、そこにいたのは燭台切と──日本号だった。驚いたのは向こうも同じだったらしく、燭台切を挟んでカウンターについてからしばらくは、少し気まずい空気が漂った。平気なのは燭台切ばかりで、その涼しい顔を叩いてやろうかと思った。

2017-04-01 22:20:34
燭へし同棲bot @dousei_skhs

日本号は僕と同じく、長谷部の昔馴染みの男だった。けれど僕と日本号はあまり親しいわけではない。長谷部というつながりがなければただの顔見知り程度だ。それは燭台切もわかっているはずなのに、何故この面子──と思っていたら、飲んでいるうちに燭台切の目論みがわかった。

2017-04-01 22:21:21
燭へし同棲bot @dousei_skhs

要は、「僕の知らない時期の長谷部くんを知っている宗三くんと日本号さんに僕の知らない時期の長谷部くんのことを教えてもらいたい」ということだった。このうつけ者。

2017-04-01 22:22:02
燭へし同棲bot @dousei_skhs

けれど日本号と僕との気まずい空気は、そんな燭台切自身のフォローでそのうち解けていったのも事実だった。誰にでも温かく接して朗らかな雰囲気を生み出せるのはこの男の強みだし、あの長谷部もこんなところに惚れたのだろうと思う。

2017-04-01 22:23:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

元々長谷部という繋がりがある者同士だし、それを抜きにしても、この年になって親しく話せる相手が増えるのは嬉しいことだ。長谷部のことを知りたいという下心を隠していたことはいただけないけれど、日本号と話す、こういう場を整えてくれた燭台切には感謝をしてもいいかと思っていた。のに。

2017-04-01 22:24:44
燭へし同棲bot @dousei_skhs

空気を和やかにするために、僕たちの気付かない間に随分と酒を入れていたらしい。ふつりと糸が切れたように、十分ほど前から燭台切は僕たちに絡み始めた。 「長谷部くんに会いたい」 「じゃあ帰れ」 「帰っても出張で留守です」 「だから僕たちを誘ったんですね」 「うん」 「張り倒しますよ」

2017-04-01 22:27:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

長谷部くん長谷部くんと絡み倒す燭台切に、普段の格好よさは微塵も見られなかった。こんなところを長谷部が見たら引──、……いや、引いたりしないか、あの男は。「仕方ないな」とでも言って笑って終いだろう。

2017-04-01 22:28:48
燭へし同棲bot @dousei_skhs

日本号をちらりと見ると、僕と同じことを思っているようで、ふっと溜め息をついて苦笑しているだけだった。仕方がないのはどちらも同じか。燭台切越しに目線が合うと、同時に小さくふき出してしまう。

2017-04-01 22:29:07
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……燭台切」 「なあに?」 「教えてあげますよ。昔の長谷部のこと」 「! ほんと」 「長谷部はねえ、あなたと会ってからまん丸になりました」 「……まんまる?」 「……そうだな、俺もそう思う」 「えっ」

2017-04-01 22:29:49
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕の意図を汲んでか、それとも気まぐれか。動きを止めた燭台切に追い打ちをかけるように、隣の日本号も口を開く。 「俺の知ってる長谷部はいつもつんとしててよ、誰も頼りませんみたいな感じで」 「へえ。僕のよく知っている長谷部と同じですね」

2017-04-01 22:30:30
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「尖ってたわけじゃねえけど、確かに昔に比べりゃ今の長谷部がまん丸ってのは言い得て妙かもな」 「でしょう」 「若造の世話を焼くことはあっても焼かれることなんてなかったし」 「ええ。いつも気を張っている感じでしたね」 「気ィ抜いたとこなんて滅多に見たことなかったな」 「本当に」

2017-04-01 22:31:39
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……」 「……燭台切?」 いつの間にか、僕たちに挟まれた燭台切が沈黙していた。俯いていて表情が読めないけれど、肩の落とし方から見て、しょぼんと効果音がつくほど落ち込んでいるようだ。日本号と再び視線が合うと、彼は「計算通り」とでも言うようににやりと笑った。

2017-04-01 22:33:20
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……長谷部くん、ぼくには、そんなこと……」 「だーかーら、甘えてんだろ」 「は……?」 「長谷部は甘えてんだよ。あいつなりに、お前に、精一杯」 「……え」 「昔馴染みですら見たことない、丸くなった姿をお前には見せてんだろうが。なあ。それって特別なことだと思わねえか」

2017-04-01 22:34:43
燭へし同棲bot @dousei_skhs

日本号の言葉を、燭台切はぽかんと間の抜けた表情で聞いていた。伊達男はどういう反応を返すのか。意地悪く楽しみに待っていると、──その顔が、耳が、みるみるうちに赤くなった。

2017-04-01 22:35:24
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「え、あ、長谷部くん、が……?」 「……あなた、さすがにわかりやすすぎません?」 「だって、え、お義父さんにそんなこと言われたら」 「誰がお義父さんだよ」

2017-04-01 22:36:20
燭へし同棲bot @dousei_skhs

珍しく本気で照れた様子の燭台切に、こちらも少しだけ狼狽してしまった。うっかり日本号をお義父さんなんて呼びだす始末は長谷部が見たらふき出すだろう。──そして存分に笑った後、いつものように愛しくてたまらないという目で、彼を、燭台切を見つめるのだろう。

2017-04-01 22:36:54
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「──ふふ。いい人が婿に来てくれてよかったですね。“お義父さん”?」 「宗三、マジでやめてくれ」 「いいじゃないですか」 「……長谷部の馴染みで俺が義父なら、お前は義兄か義弟だからな」 「え、嫌です。ふざけないでください」 「ふざけてんのはお前だろ!」

2017-04-01 22:39:00
燭へし同棲bot @dousei_skhs

お義父さんお義父さんと急激に懐き出す燭台切と、彼に妙な絡まれ方をして困惑する日本号。長谷部が広げた不思議な縁。これを本人が見たらどうするだろう。 (笑うか困るか……もしかしたら妬くかも) 出張から戻ったらこの妙な“家族”を見せてやろうと、僕はスマホのムービーを立ち上げた。 【了】

2017-04-01 22:39:54