#11 「戦闘訓練②」＜フォビドゥンフォレスト４話「大規模作戦・発動！」＞

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（前回までのあらすじ：俺は片桐。田舎町の風科に住む高１だ。北の森の妖怪共と戦う僚勇会の一員だ。今週の異常事態を受けて佐祐里さんは「砦」敷設計画を立てた。昨日帰った鳩寺の力で川を凍らせて資材を運ぶそうだ。実行は一週間後の土曜。俺も準備…するのは良いが…）

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（…その日は瑠梨の誕生日だ。敷設計画を立てたことで、佐祐里さんは誕生会の予定を自分の手で潰したことになる。佐祐里さんが罪悪感で死にゃあしねぇか、俺は結構マジで心配だった。）

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2017-02-05 01:03:33

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フォビドゥンフォレスト４話「大規模作戦・発動！」 #11 「戦闘訓練②」

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「何でそっち座んだ恵理？」 俺達のいるベンチは４人掛けだ。余裕で空いてんのにそっち座んねぇでも。 「いやだって…」 恵理は訓練用スーツの襟元を掴んだ。スーツは黒いジャージに近い形だ。 「分かるでしょ？」 「いや分かんねぇけど？」 何言ってんだ恵理は？ 1

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「はぁ～」 ラッタが聞こえよがしに溜息を吐く。 「何だよ？」 「あのなぁ、ハル。女の子には色々有るんだぞ。分かんないか？」 「女の子ぉ？」 俺が顔を見ると、恵理は機嫌良さそうに目元を動かした。 「まさかお前、恵理が運動した後の汗の匂いを気にしてるなんて言うんじゃねぇよな？」 2

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「そのまさか一択だよ！」 ラッタが身を乗り出す。 「いやそれはねぇって…良く見ろ」 俺は恵理を指差す。 「大して汗かいてねぇじゃねぇか」 多少は汗が流れてるが、俺らほどびっしょりじゃねぇ。お蔭で体のラインがロクに透けやしねぇ。何故こうなるかと言えば答えは一つだ。 3

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恵理のいた訓練室の扉が開き、朝来の頭が出てきた。ただし腹辺りの高さにだ。次にその高さから床へだらりと伸ばした腕が見える。指先と床の間は１０ｃｍは空いてる。更に瑠梨と互角以上だろう胸、そして胴、脚が出てくる。身体は地面と平行だ。引力球で背を引っ張り腹を斥力球で押し上げている。 4

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宙を浮いて出てきた朝来の印象は、一言でいえば 「ぐったり」 だった。いくら本当にぐったりしてるからって自分で言ったぞこの女。 「あーもしかして」 ラッタもようやく気付いたようだ。 「１０本とも殆ど一撃で決まったんだろ、お互いに」 5

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「そう」 朝来は恵理の横に軟着陸しながら短く肯定する。 「うん、私がやられた時も瞬殺だったわね」 恵理も頷く。 「球の気配を避けた先に別の球があってそれを避けて…ってのに失敗したのが２回ね。流石にアレに捕まったらダメ」 恵理は両手を組み合わせて腕を上に伸ばした。 6

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俺はラッタ相手にスタミナ切れを狙って粘ったから、５本勝負の４本目まででもかなり汗を流す羽目になったが、恵理はそんな風だったから１０本やっても平気な訳だ。朝来だけくたばってんのは複雑な演算の疲れと８回ぶっ倒されたせいだ。ちょっと見づらいが汗自体はそんなにかいてねぇ様に見える。 7

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「大丈夫か朝来？」 「もう死ぬ」 「生きろ」 「生きる」 うつ伏せのままくぐもった声で返事が返ってきた。長文を話さねぇのはいつものことだが、普段より声に力が無い気はする。 「で、恵理はなんで結局そっち座ったんだ？」 「え？あ…それは…」 恵理が言い淀む。 8

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「こっち来て朝来を休みやすくしてやれば？」 ４人掛けのベンチは横になるには少し狭い。恵理が座ってるから下半身はベンチから伸ばして膝下を床に着けた状態だ。 「大丈夫。平気」 朝来はうつ伏せのまま片手をサムズアップさせ…ようとしたんだと思うが途中で手を下に戻した。 9

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いくら疲れてるからって握り拳を途中で解く程かよ。 「だから…大して汗かいてないって言っても気になるんだって。言わせるなよ、もう…」 「ち、違うから。えーと…！ホラ！あれよ男同士の…なんか邪魔しちゃいけないし…ねっ？」 恵理はあれこれ手を振り乱しながらラッタの言葉を否定する。 10

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「ねっ…って言われてもな…まあいいや。ラッタ。違うってよ」 「…うん、いいやもう。そもそも俺達が汗臭いだろうしさ…」 「まあ、それもそうか」 タオルで拭いたり制汗スプレーも使ってるが自分達でも臭うからな朝来も、他のベンチもあるのに自分で恵理の隣に行ったんだから良いのか。 11

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１分ほど経った。時間は７時半過ぎだ。９時までに飯を食って秘密基地に帰っときたい。そろそろ５戦目をやろうと、俺がラッタに声を掛けようとした所で恵里から話し掛けられた。 「そういえばさ、ハル」 「何だ？」 「ハルは川と雪道どっちに行きたい？」 「行きたい？…ってお前…」 12

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来週の敷設作戦の２ルート、東の川と中央の雪道のことを言ってんのは分かる。でもな…。 「あの…良かったらなんだけどさ、私と一緒に川の方に行かない？」 恵里は、まだぐったり中の朝来に水筒の蓋でお茶の２杯目を渡してやっている。 「いや、お前…何言ってんだよ」 「え？」 13

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俺は呆れながらも説明してやった。 「いやだから、誰がどっちに行くかは会長達が振り分けるんだぞ。希望も何もねぇよ」 「えっ、そうだっけ？」 恵里は意外そうに目を見開く。やっぱ聞いてなかったなコイツ…。多分忘れたんじゃねぇだろう。コイツは長い説明だと要点しか聞かねぇんだ。 14

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「で、でも一人か二人なら希望が通るかも…」 「…つうか何で川が良いんだ？鳩寺が心配か？」 アイツは何故か佐祐里さんの次くらいに俺に懐いてる節が有る。戻ってきてからはまだ会話もしてねぇが、会議が解散してすれ違う時に笑いかけられたんで軽く手を降ってやったな。 15

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だから俺も鳩寺の所に連れてこうってんなら話は分かる。 「え、いや…ほら、ハルは子供っぽいから電車好きかと思って」 なんだその理由は。 「大人の鉄道マニアに謝れ。だいたいな、俺の好み…じゃねぇけど好みに合わせてどうすんだよ」 後輩を心配してたのかと思った俺の感心を返せ。 16

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「そもそも多分、俺は雪道のほうだと思うぞ」 「何で？」 「まず鳩寺は前提として、スタミナのねぇラッタや迎撃向きの久浦はトレインだろ」 「そうかもね」 「佐祐里さんも鳩寺についてやるだろうからこっち。で、川の方ばっかに戦力を集めてもバランスわりぃから、中央にも戦力を割くだろ」 17

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「うん」 「で、足場の悪さをフォロー出来る俺や朝来はまず中央だろうな。で、お前と藤宮先輩のどっちかはこっちじゃねぇかな」 「私はどっち！？」 「いやそれは分かんねぇけどよ。強いて言やぁバイクに乗れる藤宮先輩は川の可能性が高ぇんじゃねぇか？」 「じゃあ私はハルと同じほう！？」 18

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「だから分かんねぇって。ここまで全部憶測だし、俺がトレインに乗る可能性もゼロじゃねぇぞ」 つっても大きく外れちゃいねぇ筈だ。俺達以外の大人のメンバー構成次第だが、本当にどっち担当か分かんねぇのは恵里と藤宮先輩くらいだ。先輩も僚勇会も堅実な作戦を立てるからな。 19