学指揮光忠×伴奏者長谷部まとめ

燭へし。全年齢向け
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天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

ある日放課後の音楽室の前を通ると鍵盤の音が聞こえ、そっと中を覗くと、クラスメイトの長谷部くんがたった一人でピアノを弾いていた。気難しい印象の彼が切なげな顔で一心に指を動かし音を奏でる姿が印象的で、それ以来彼のことが何となく気になり始める長船光忠くん(14)の話ください

2017-03-29 18:37:22
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs そうして学校の合唱コンクールが近づいてきた。光忠のクラスは光忠が指揮者をやることになり、ピアノ伴奏の役が光忠狙いの女子達で奪い合いになる。そんな中、光忠はふと長谷部くんの音楽室での姿を思い出して声をあげる。「長谷部くん。伴奏、頼まれてくれないかな」

2017-03-29 18:45:28
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「…俺でいいのか」「君にお願いしたいんだ。…駄目、かな?」長谷部はため息をついてピアノの前に座り、鍵盤の蓋を開けて指を置く。初めは不満げだった女子達も、長谷部の奏でる音を聞いて息を呑むのがわかった。長谷部の腕前はそれだけ頭ひとつ抜きん出ていた。

2017-03-29 18:51:17
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs そうして放課後に時々長谷部と二人きりで自主練習するようになり、二人は徐々に距離を縮めていく。長谷部は時たま気まぐれに曲を弾いて光忠に聞かせてくれるようになったけれど、あの日切なげに弾いていた曲を弾くことはなかった。リクエストしようにも光忠は曲名を知らない。

2017-03-29 19:01:01
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs あの日こっそり聞いていたことを知られるのもなんだか恥ずかしくて、光忠はただ長谷部の奏でる音に耳を傾けるばかりだった。「…好きだなぁ」光忠がぽつりとこぼすと、一瞬ふらりと音がぶれる。「君の音、僕は好きだ」ぷつりと音が途切れた。「…長谷部くん?」

2017-03-29 19:06:58
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「…帰る」そう言って長谷部はさっと身支度を整え音楽室を出て行く。その日以降、長谷部は放課後の自主練習を断るようになった。クラス練習の時は来ているので、伴奏としての役割はきちんと果たしている。果たしているのだが、光忠はなんだか納得がいかなかった。

2017-03-29 19:20:28
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 合唱コンクールまで数日を切ったある日、光忠がテレビを見ていると、聞き覚えのある曲が流れてきた。あの日長谷部が弾いていた曲。ベートーベンが愛する女性の為に作曲し、けれど身分違いから失恋した際の曲。「月光」。それが曲の名前だった。

2017-03-29 19:26:16
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs あの時の長谷部ももしかして誰かを想ってこの曲を弾いていたのだろうか。そう考えるとなんだか胸がむかむかしてきて、光忠は気づく。ああ、そうか。僕は彼が好きなんだ。

2017-03-29 19:28:21
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 翌日、教室に長谷部の姿はなかった。担任に確認すると風邪で欠席だという。放課後、クラスの代表という名目をもぎ取り見舞いに行くと、顔の赤い長谷部がふらふらとドアを開けた。「…何の用だ、長船」「君の見舞いに来たんだよ。ねえ、ご両親は?」「仕事だ。夜まで戻らない」

2017-03-29 19:38:19
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「ちゃんと食べてる?」「…ポ○リなら飲んでいる」「駄目だよ、ちゃんと食べないと!ちょっと上がらせてもらうね」「っ…おい!」強引に長谷部の家の台所でお粥を作り、熱でふらつく長谷部の前に皿を置く。「熱いから、少しずつ冷まして食べるんだよ」「…子供扱いするな」

2017-03-29 19:50:48
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs それでも素直にお粥を食べ始める長谷部を見ながら、光忠はああやっぱり好きだなぁ、とぼんやり思っていると、「…おい」「なんだい」「コンクールまでには必ず治すから、もう帰れ」「君が心配なんだ」「馬鹿。指揮者まで共倒れしたらどうする気だ。俺は大丈夫だから、帰れ」

2017-03-29 19:55:50
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 渋々帰宅の準備をする光忠に、長谷部はぽつりと告げる。「…お粥、美味かった。ありがとう」それを聞き、思わず長谷部の体を抱きしめる光忠。「っ…おい、」長谷部が弱々しく抵抗するのをぎゅうと押さえつける。布越しに伝わる鼓動が速いのは、熱だけのせいではないと思いたい

2017-03-29 20:02:40
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「…もし合唱コンクールで優勝したら、君に伝えたいことがある」「…なに、」「内緒」そう言って笑うと、光忠は長谷部の体を離した。「今言え」「嫌だよ」「どうせ優勝するんだ。言ってしまえ」「やけに自信満々じゃないか」当たり前だろう、と長谷部が口の端を上げる。

2017-03-29 20:09:22
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「俺とおまえのコンビで、優勝できない筈がない」

2017-03-29 20:10:20
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 当日、コンクールは恙無く執り行われ、最優秀賞のクラスが発表された。わあっと歓声が上がる中、光忠は長谷部の手を掴んで体育館から駆け出した。「おい!どこまで行くんだ!」「どこまでも!」「馬鹿、主役が抜け出してどうする!」「君だって抜け出したんだから同罪だ」

2017-03-29 20:16:14
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「それはおまえが、」言いかけて、長谷部は諦めたように項垂れた。「で、何だ」「好きだよ。君が誰を好きでも、僕は君が好きだ」「…音じゃなくて?」「音も君の一部だろう」そう言うと、長谷部は顔を赤くして俯いた。「…実は、君が以前月光を弾いていたのを聞いてたんだ」

2017-03-29 20:21:42
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

@amagi_skhs 「あの時誰を想ってあの曲を弾いていたか、教えてくれる?」長谷部の唇が小さく動く。光忠はそれを聞いた瞬間弾けるような笑顔で長谷部を抱きしめる。そんな二人の姿を、校庭の大銀杏だけが見ていた。 〜HAPPY END〜

2017-03-29 20:26:18