【潤譚】怖がりな私の不思議な体験~延長戦~

https://twishort.com/Lojmc の続き。見切り発車でつらつら書いたもの。深い意味はないです。
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蛇烏創作垢 @hbkrs_s

狩野さんは一つ年下だった。また相談してもいいかって何度もお願いしたら「気が向いたら」となかば諦め気味に言ってくれた。本当は今日のお礼にご飯でもと思ったのだけど、疲れたから帰るそうだ。 ……友達でもないから仕方ないけど、こんな不安定な繋がりでまた会話する日が本当にくるのかな。

2017-06-15 01:56:34
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

そう思っていたのに、私は帰宅早々彼に電話をする羽目になる。私は一人暮らしじゃないけれど両親が不規則な仕事をしてるせいで家では一人でいることも多い。今日はあんなに怖い目にあったのに一人で朝を迎えないと。勿論家中の電気をつけて音楽を流したりした。電気代を気にしてはいられない。

2017-06-15 02:01:04
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

音と光を絶やさなければなんとかなる。寝てしまえば勝ちだ! そうやって過ごしていたら、コツンと、窓を叩くような音が突然した。初めは虫でもぶつかったのだろうかと気にしなかったけど、しばらくするとまた鳴るのだ。コツン、コツンと。何度も鳴られると流石に気になって、仕方なく窓の確認をした。

2017-06-15 02:06:04
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

カーテンがかかった窓。そのままでは外の様子は見れない。恐る恐る窓際に近づこうとしたらーー 『何か』と目があった。カーテンの隙間から何かがこちらを見つめていた。「ひっ」と私は声を漏らした。学校で感じたような恐怖が再び支配する。

2017-06-15 02:11:16
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

あの少年に見詰められたときのような動けない感じはない。私は覚悟を決めて何かから目を逸らして、鞄を取りに走った。鞄の中、ファイルごとそこに入れたお札を抱き締める。コツン。また音がした。きっとあれが窓を叩いているんだ。私はとっくに泣いていた。怖くて声も出ないままボタボタと涙が落ちる。

2017-06-15 02:14:16
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

けど、駄目だ。このままじゃ寝ること処か一生家から出られないかもしれない。私は涙を拭って出来る限り落ち着こうとする。そしてポケットからスマフォを取り出して狩野さんに電話をかけた。数度のコールののち非常に不機嫌そうな『もしもし』という声が聞こえる。

2017-06-15 02:17:40
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

その声に私はどっと安心してしまって、さっき無理矢理止めたはずの涙がまた溢れてきた。突然電話してその上なにも話さず泣くなんて非常識にも程がある。少しでも堪えて、相談をしないと。 『今何時だと思ってる』「ご、ごめんなさ……でも、怖くて……っ」 自覚できるほど涙声なのが隠せていない。

2017-06-15 02:21:16
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

それでも私は話を続ける。 「家に、いたら……窓を叩く音が何度もして、そっちを見たら、カーテンの隙間から、目が……っ」『野良猫じゃないのか。それかストーカー』「私の家、マンションの七階で……あの窓はベランダとかもないから、足場はないの」 『……じゃあ気のせい』

2017-06-15 02:24:24
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

気のせい? 本当に? 怖い怖いと思い続けた結果の私の思い込みだった? 今なら狩野さんと電話で繋がっている……そう言い聞かせて私はもう一度窓の方を見た。カーテンの隙間にはさっき見た何かはおらず、本当に私の気のせいだったのかもしれないーーそう思った瞬間。

2017-06-15 02:27:05
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

バン! 大きく乱暴に窓を叩きつける音がした。ガラス越しの振動も伝わってくる。堪えきれず私は泣きながら狩野さんの名前を呼んだ。電話で繋がっているけど、今私は一人なんだ。ベソベソと泣いていると電話の向こうから『五月蝿い』と叱責の言葉が届く。

2017-06-15 02:29:37
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「狩野さぁん……」『なんだ』「私、霊感なんてなくて、お化けとか怖くて苦手で、なのに、なんで今日こんな目に二回もあうのかなぁ……幽霊なんて見えないはずなのに、どうして」『学校ではあいつの結界内だったから見えただけだ。 ……多分その時の余波が残ってるんだろ』

2017-06-15 02:33:19
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

『……あぁ、そうか。お前に残ったあいつの邪気に引かれでもして何かついてきたんだろう』「そんなぁ……私ずっとこんな目にあうの……?」『一時的なものだ。すぐに消える。だけどまぁ、今窓を叩いてるやつは一晩はいるだろ』 一晩。そんなに私の心が持つだろうか。考えるだけで恐ろしかった。

2017-06-15 02:36:16
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「そんなの無理……」『家の中に入ってこれない程度の雑魚ほっといて大丈夫だ。ただし窓は絶対開けるなよ』 言われなくても開けれる気がしない。近寄ることすら出来そうになかった。 『あと、話しかけられたり手を振ってきたりしても返事はするな』「窓の方、もう見なくていい?」『あぁ』

2017-06-15 02:41:46
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

私は少しほっとする。目を逸らすなとか言われていたらきっと気がおかしくなっていた。 『その手の雑魚なら陽が出てきたらもう動けないはずだから、朝まで頑張れ。じゃあな』「待って待って切らないで! お願い!!」『まさか朝まで付き合えとか言うんじゃないだろうな?』「それは……」

2017-06-15 02:44:22
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「で、でももう少しだけ……お願い。今一人で、怖くて……どうしようもなくて……」 必死で懇願する。狩野さんのため息が聞こえた。 『札やっただろ。あれを肌身離さず持ってれば、例え家の中に入ってきたところでそいつはお前には触れないはずだ。だから安心して懐にでも入れて寝ろ』

2017-06-15 02:48:26
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「ね、寝れるわけないよ」『起きてても怖いだけだぞ』「そうかもしれないけど……」『…………明日、朝早く大学にこれるなら、取り憑いてないか確認してやってもいい』 仕方ない、そんな心の声が聞こえてくるぐらい諦めの口調で狩野さんは言った。けど私にとっては凄く、凄く心強い言葉だった。

2017-06-15 02:53:08
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「ほ、ほんとに?」『お前がうっかり窓開けたりでもしない限りそんなことはないと思うが。 ……何度も電話されても迷惑だ。何もなくても残った邪気ぐらい祓ってやる。だから一晩なんとかしろ』 淡々とした説得は私の心に響いていく。涙を拭いて、私は頷いた。

2017-06-15 02:57:43
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

電話が切れたあともスマフォを握り締めていた。明るい部屋のなかで毛布を頭から被って、ファイルに入ったままのお札を抱える。時折窓はコツンと鳴った。ドンドンと叩かれたときは縮こまって何もないことを祈り続けた。怖かったけれど、何度も狩野さんの大丈夫という言葉を思い出してじっと堪えた。

2017-06-15 03:02:54
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

気が付くと朝だった。カーテンの隙間から光が差し込んでいて、どこからか鳥の声がしていた。私は膝を抱いたままいつの間にか寝てしまっていたらしい。かれど当然ちゃんと寝た気はせず、疲労困憊といった感じだ。狩野さんと待ち合わせしてるんだ、起きないといけない。残った僅かな元気を奮い立たせる。

2017-06-15 03:07:33
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

準備をしながら少しだけ窓の方を見た。逆光でよく見えないが、ただただ明るいばかりで何かと目が合うようなことはない。それでも気は抜けなくて、玄関の扉を開けるのもとても勇気が必要だった。お札を入れた鞄をしっかりと抱えて、私は大学に向かった。

2017-06-15 03:09:51
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

待ち合わせしたのは昨日あんなことがあった六階のあの教室だ。私が行くと狩野さんはもうついていて、座って本を読んでいた。教室に私が入るとこっちを見て露骨に眉を寄せられたのでまるで怒られてるような気分なる。 「酷い顔だな」 パタンと本を閉じて彼は立ち上がった。私はゆっくりと近づく。

2017-06-15 03:13:02
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「夜、電話してごめんなさい……迷惑かけちゃったよね……」「全くだ」 昨日もそうだったけど狩野さんは遠慮とか配慮にかけてると思う。私が悪いのもわかってるけど、あんまりじゃないか。狩野さんはじろじろを私を見たあと、教室の外に目をやった。昨日のこともあったので思わず警戒してしまう。

2017-06-15 03:16:01
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「な、なにかいるの?」「……ついてきてるなぁ、と」「えっ、えぇ!?」 ついてきてる、って夜私の家に来ていた何かが、ここにいるということ? 動揺した私は思わず狩野さんの服の袖を掴んだ。一晩の間に止まった涙が出てきそうだ。狩野さんはそんな私を無視して教室の外を見つめている。

2017-06-15 03:21:05
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

「……三匹か?」「そ、そんなにいるの?」「さぁ」 昨日見た何かは一人じゃなかったの? 狩野さんには何が見えてるの? ほぼパニック状態の私は怖くて振り返ることも出来ない。狩野さんの見ている方向的にきっと教室の外であって、ここにはいないとわかっていてもダメだった。

2017-06-15 03:25:59
蛇烏創作垢 @hbkrs_s

震える私に気づいた狩野さんははっと鼻で笑った。酷い。こんなに怖がってるのに。 「雑魚過ぎて無視してもいいレベルだぞあれ」「怖いものは怖いの!」 めいいっぱいの抗議をすると、わざとらしく服の裾を掴んでいる私の手を握って離した。そのまま振り切るように狩野さんは背を向けてしまう。

2017-06-15 03:33:32