- yukidatsukiko
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「ね、りりー! わたしとけっこんして!」 息を呑んだ。 まだランドセルも背負っていない、小さな女の子から発せられた言葉に、私は動揺してしまっているのだ。 「……もう、そういう事言うんじゃありません」 「あだっ!?」 言葉を選ぶのには、少し時間がかかった。
2017-07-08 22:30:05胸は確かに高鳴っていて、ああこんなの、オトナであるはずの私が持って良い感情であるはずがなくて。 「だめ、なの? りりー、わたしのこときらいなの?」 でも、目の前のいたいけな少女の好意を無下にすることもできない私は、 「…おとなになったら、ね」 そんなありきたりな言葉を返した。
2017-07-08 22:32:03――だから、 「ねえ、リリー……ううん、梨子さん」 こんなの、 「私と、結婚してくれるって、約束よね」 壁に私を追い詰めてる割には、随分と自信のなさそうな声色だった。どうか拒絶しないでと、縋るようにも聞こえていた。
2017-07-08 22:34:24艶やかなダークブルーの髪、白い肌。背は随分と伸びたみたいだった。顔立ちも、凄くキレイになった。それなのにきらきらと輝く紅藤色の瞳に映る私は随分と情けなく見えて。 「……わたしじゃ、釣り合わないでしょう」 何歳差だと思ってるの?
2017-07-08 22:37:53あなたが着ているのは私が昔着ていた浦の星女学院のセーラー服。 私が来ているのは、沼津の病院のナース服。同じ時間を歩いたわけじゃ、決して無い。 あなたは私のことを若いしキレイだと言ってくれるけど、これでも随分頑張って「キレイ」を保っているわけで。
2017-07-08 22:39:19「女の子同士で、ましてやこれだけ年の差が離れてて。周りから、色々言われちゃうよ? 話が噛み合わない時だって絶対出て来るし、それに――」 「ねえ!」 聞いたこともないくらい、大きな声だった。 はっとなって見れば、目の前には涙を浮かべながら必死の形相を浮かべているよっちゃんがいて
2017-07-08 22:42:22「私、リリーのこと、そんなことで諦めたくない。ううん、諦める気なんて、最初からないんだから!」 だから、さあ。 「リリーも、そういうの抜きにして考えてよ。私の事、好きか嫌いかで、言ってよ」 その顔に、声に、あの日と同じように息を呑んだ。
2017-07-08 22:44:46どうしたって、年の差なんて埋められない。私と彼女の――よっちゃんとの間には、それだけの大きな溝がある。 それでも、彼女は勇気を出してその溝を飛び越えようとしてくれてるんだ。 じゃあ、私はそれに答えなくていいの? あの日から目をそらして逃げ続けてる、桜内梨子の答えはなぁに?
2017-07-08 22:46:07「わた、しは……」 もう、逃げられない。 「よっちゃんの、ことが」 もう、私の想いは、止められない。 「……すき、だよ。ずっと、昔から。きっと、あの日、告白してくれたあの時からずっと」
2017-07-08 22:48:45はらはらと想いは涙になって地面に落ちていく。まだ胸に未練がましく残っていた、よっちゃんの「普通のしあわせ」を殺してしまう醜い思いだった。 ごめん、ごめんねよっちゃん。なんで、好きになってしまったんだろう。何で、突き放してあげられなかったんだろう。
2017-07-08 22:51:00「……何で、謝るのよ」 「だ、って……私が、っ、よっちゃんを、縛っちゃう…っ、どうして、私のことなんて、好きに」 「ちょっと、それ以上私の好きな人の事を悪くいうと、リリーでも許さないわよ」 「っ、でも――!」 「良いのよ。私は、私が一番しあわせになれる人と一緒にいたいんだから」
2017-07-08 22:52:35しあわせになんて、なれるのかな。 勇気も意気地もない私と、こんなに素敵なよっちゃんとで。 「……ね、ねえ、」 「……なぁに?」 「そっ、その…それで、私、まだ返事聞いてないんだけど……」 少し、張り詰めていた空気が緩んだ気がした。 そうだ、そうだった。よっちゃんって、うん。
2017-07-08 22:55:09「……ええと」 「……」 「……こんな、おばさんで良ければ」 「なっ、リリーはおばさんじゃない!」 「女子高生から見れば立派なおばさんだよ?」 「こんな美人で綺麗なリリーの事おばさんだなんて言う人間いないわよ! それに……っ、あ……」 「? それに?」 「ぅあ……え、と……」
2017-07-08 22:57:27「…、たしの、」 「?」 「わ、私の! 世界一の! 恋人なんだから!」 「っ!? な、ちょ、声おおき、っ、そんな恥ずかしいこと言わないで!」 「ぜっ、全然恥ずかしくなんか無いわよ!」 「……かお、あかいよ」 「っ……り、りりーこそ……」
2017-07-08 22:59:20お互いに、顔を真赤にしながら黙り込んだ。視線は少しだけ外していたのに、そろりと相手に視線を向ければぱちりと同時に目があって。 「……ね、え」 「……な、何?」 「わ、わたしたち、つきあって、る? のよね?」 「……う、ん。そういう、ことになるのかな」 「じゃ、じゃあさ」
2017-07-08 23:01:12――キス、してもいい? キスなんて、この歳になって2回しかしたことがなかった。 1回目は、まだ幼稚園の彼女がころんだ時に助けようとして誤って。 2回目は、多分彼女は覚えていないのだろうけど、お昼寝から起きてきて寝ぼけて私にキスをして。 …ああ、なんだ。
2017-07-08 23:02:56答えなんて、もうとっくに出てたんじゃない。 きゅっと目を閉じて、彼女からのそれを待つ。 握られた両手から微かに彼女の手の震えが伝わって、ああ同じように緊張しているんだなって思って。
2017-07-08 23:04:52それからその後、 はじめてのキスでまさか、その……舌を、その。そういう、深いやつをしようとしたよっちゃんにビンタしちゃったのは、正当防衛っていうか、その……不可抗力だと思うんです。
2017-07-08 23:05:21