「総員起こし」 「駆逐艦"吹雪"が見当たらない。総員、捜索始め」 真夜中の艦娘母艦。理不尽にも白雪を起こしたのは、そんな艦内マイクだった。
2016-05-08 08:19:05「早く下ろせ! AEDもってこい!!」 「心臓マッサージだ! 手遅れになるぞ!」 「ですが、もう……!」 「良いからやれ! 医務官が来るまで持たせろ!」
2016-05-08 20:57:04「あん、あん、アンパンマン……」 「AED来ました!」 「心臓マッサージ止め、AEDを着けろ!」 『袋を破いて、パッドを取り出してください……』
2016-05-08 21:01:00『…心電図を調べることができません。 体にさわったり、動かしたりしないでください』 「どうして…手順に間違いは……」
2016-05-08 21:06:09「くそ、心臓マッサージを再開しろ」 「嫌です! だって吹雪ちゃんはもう……!」 「良いからやるんだ!」 『心電図を調べることができません。 体にさわったり、動かしたりしないでください……』
2016-05-08 21:06:18**
初雪は一人で、食堂でテレビを見ていた。 電源を入れて、何か見ているという訳ではない。ただ、テレビという家電品を、離れたところから見ていた。
2016-05-21 21:10:20あの晩も、初雪はこうしてテレビを見ていた。 赤灯照らす暗い食堂で。だがあの晩は、テレビの電源は入っていた。食堂に居たのも、一人ではなかった。
2016-05-21 21:16:29あの晩、正しい意味でテレビを見ていたのは吹雪だった。 先客だった。 初雪は一人でお茶でも飲もうと来たのに、既に彼女が一人で盛り上がって居たのだ。
2016-05-21 21:22:12しまったなと思った。 声をかけるのも気まずいが、さりとて注いでしまったお茶を飲まない訳にもいかない。 だから、離れたところから、テレビを見ている吹雪を見ながら、お茶を飲むことにしたのだ。
2016-05-21 21:26:11どうやら吹雪は、プロレスを見ているようだった。 「それっ! いけっ! そこだ!」 小声だったが、とにかく盛り上がっているのは伝わってきた。
2016-05-21 21:31:51彼女からプロレスの話なんて聞いたこともなかったから少々意外だったが、良かったなとも思った。 日々辛そうにしている彼女が、楽しめるものがあって良かったな、と。 「やった!」 初雪がお茶を飲み終わり立ち去る頃、吹雪が応援していたレスラーが勝ったようだった。 そして翌朝……
2016-05-21 21:35:50「なにが、良かったのさ」 初雪はテレビを見ながら、ひとりごちる。 翌朝、ぶら下がり揺れる吹雪を見て、初雪はとんだ勘違いをしていたことを理解した。何もかもを間違えてたと知った。 ではどうすれば良かったのだろう? どうするのが、正しかったのだろう?
2016-05-21 21:41:30あの時、あの晩、声をかけていれば変わったのだろうか? それとももっと早くに、通報していれば? 頭のなかに、期待できる成果と、それを否定する根拠があがっては消えていく。 吹雪がいた頃と同じく、いなくなった今も、どうすれば良いのかわからなかった。
2016-05-21 21:46:13