『スイス・アーミー・マン』についてのあれこれ。話の構造だとか作品で表現されていたものについて
- nnachtwachen
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『スイス・アーミー・マン』見た。遭難した男がたまたま見つけたガスや水の湧き出る不思議な死体の力でサバイバルする話。てっきりテレビゲーム感覚溢れるバカ映画かと思ったら、実際はボーイミーツ死体って感じの青春映画だった。自分の知る限り同ジャンルには他に『スタンド・バイ・ミー』しかない。
2017-10-01 21:43:52『スイス・アーミー・マン』は無人島に漂着した男が首を吊ろうとするシーンから始まる。そこへ流れ着いてくるラドクリフの死骸。男は駆け寄ってこんな事を言う。「走馬燈は見れなかったが代わりに君が来てくれた」思うにこの台詞は大事で、というのも映画全体が今際の走馬燈を思わせる作りになっている
2017-10-01 21:49:16自分は前情報を仕入れていかなかったのでラドクリフは終始だんまりだと思ってたんだけど、この死体が序盤のうちから割によくしゃべる。けれど生前の知識を失っているので主人公がやってきた俗世に疎く、自然会話もAIと喋ってるみたいなどこか噛合わない物になってくる。
2017-10-01 21:54:05そんなラドクリフに外の世界を教えるのが主人公のハンス。メニーと名乗る死体は家庭の概念を覚え、捨ててあったポルノを見て勃起することを覚え、という風に段階を経て知識を吸収していく。
2017-10-01 22:02:05死体がハンスの価値観をそのまま受け継いでいくということはつまり、ハンスの成長の過程をなぞっているということだ。ここで作品の中に死体の成長(=蘇り)を通して主人公のこれまでが提示されるという奇妙な構造が形成される。身元不明の死体とハンスとがさも一体の人間のように描かれるのだ。
2017-10-01 22:07:03もっと言えばだんまりだったラドクリフが突然しゃべりだすのも幼児が言語を取得する過程を示していると言えるかも。メニーが初めて口に出した言葉が、ハンスがその直前に言った言葉の繰り返しだったのもそれっぽい。
2017-10-01 22:12:59『スイス・アーミー・マン』の核をなす要素の一つにメニーの身に起こる様々な怪現象がある。勃起したチンコがコンパスになったり、屁でジェットスキーのように海面を疾走したり。この手のナンセンスなネタにも強いて理屈をつけるとするなら、これらは人に備わっている生命力の象徴なんじゃなかろうか。
2017-10-01 22:20:30これは先ほど述べたハンスとメニーを一体化させた表現にも関わってくる。メニーは自分でも「生命力が湧いて来ればハンスの役に立つ」といったようなことを述べており、その言葉の通り外界の知識が増えるにしたがってどんどん能力もエスカレートしていく。
2017-10-01 22:26:23映画全体がハンスの走馬灯の変奏であるとするなら、メニーが外の世界を思い出せば思い出すほど湧いてくる力とはやはりハンスその人の生命力でもありましょう。人間が死を覚悟した時に、外界との僅かな繋がりを思ってふり絞った火事場の馬鹿力がメニーに伝染した。そういう見方もできるのかなと。
2017-10-01 22:34:14となると表題の『スイス・アーミー・マン』(十徳人間)は誰のことを指しているのかっていう話ですよ。僕はもうここで「俺たちみんなが"スイス・アーミー・マン"だ」くらいのことを言い切りたい。
2017-10-01 22:37:32というわけで『スイス・アーミー・マン』、出オチと思わせてめちゃくちゃ充実の内容でした。パッと見はゲテモノでも普遍的なテーマ性を持ってるし、物語も起伏に富んでいる。あと劇場の笑いがすごかった!おすすめです。
2017-10-01 22:43:26『スイス・アーミー・マン』挿入されるしょぼくれた歌といい脱力モノの展開といい『彼女はパートタイムトラベラー』を彷彿とさせる作品で、見てる最中に「さてはこれ監督が一緒だな」と思ったけど家帰って調べたら全然違ったよね。『彼女~』の人は二作目で『ジュラシック・ワールド』撮ってた。何で?
2017-10-01 22:53:25いやマジで予算もないしゆるゆるでバカが集まって撮ったみたいな良い映画なんですよ『彼女はパートタイムトラベラー』。その監督が二作目で『ジュラシック・ワールド』なの。マジで。
2017-10-01 22:56:35