帽子を拾ったらワカサギ釣りの響に出会った話

愛ってなんだろうね
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たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

厳冬、そう呼ぶのにふさわしい寒空の下、彼女に会った。 風上から飛んできた帽子に見覚えがある。電の帽子によく似ていた。あいつは帽子は被らないが、四姉妹を繋ぐ大切なものだと保管していた。 持ち主は銀色に輝く髪をたなびかせて、ワカサギ釣りをしていた。

2017-10-30 15:25:03
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ああ、ありがとう。」 透き通る髪に、透き通る声。冬が似合う彼女の名は「響」 俺は彼女を知っている。 電の姉で、不死鳥の異名を持つ少女。 「きみが響か。話は聞いているよ。」 「電の司令官だね、こうして会うのは初めてかな。」

2017-10-30 15:31:00
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ここでワカサギ釣りかい?」 「そんなところだね、貴方はなにしにここへ?」 「帽子が飛んできたものでね、大切なものなんだろう?」 「帽子…か、形ある思い出を風に攫われてしまうとは、うっかりしてたな…」 やや哲学的に語る響は静かに思い出を被り直した。

2017-10-30 15:33:59
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

風が吹く中で一人ワカサギ釣りに勤しむ少女、積もった新雪を巻き上げ、たなびく銀髪は輝きを帯びていた。 僅かに長いまつげには粉雪を纏い、また彼女を神秘的にさせていた。 「一人なのか」 「同志が来るはずなんだが、飲みすぎて二日酔いなんだ。せっかくだから座って話そう。」

2017-10-30 15:38:04
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ただ帽子を届けに来たわけではなさそうだね、こんな所に来るなんて、何か理由があるのだろう?」 たしかに山奥の、凍った湖に来る用事なんてそうそう無い。そういうと彼女もそうだが。 「うちの鎮守府の奴らがスキーに行きたいと言い出してな、俺はスキーやスノボに不得手だから散歩といった所だ」

2017-10-30 15:52:26
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「なるほど、電もいるのかい?」 「電は長期休暇中だ、君の所に遊びに行くと聞いていたが」 「一昨日に帰ったよ。寝れば身長が伸びるから牛乳を飲んで寝るって言ってたかな。」 なるほど、電らしい発想だ。だが今の鎮守府には加賀と新任の子しかいない。電はおちおち寝ていられないだろうな。

2017-10-30 15:57:52
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「響も長期休暇かい?」 「ああ、この時期は大体ワカサギ釣りのために休暇をとるよ」 ワカサギ釣りのために休暇を取るとはなかなかの趣味だなと思ったが、俺みたいな無趣味よりは断然良いだろうと思った。

2017-10-30 16:08:14
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彼女は、見れば見るほど冬が似合う。 双眸は透き通るような水色、たなびく髪は雪のような白銀、軍服なのだろうか、雪原仕様の迷彩ジャケットもよく似合う。 「どうかしたのかい?」 見惚れていると心配しているような表情で問いかけて来た。

2017-10-30 16:15:36
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ああ、いや、なんだかよく似合うなと思ってな」 「…そう言われるのはあまり慣れていないんだ」 照れ隠しなのか、彼女帽子を深く被り直して少し俯いてしまった。 「…しかし、中々釣れないな、ワカサギ」 「そのうち釣れるさ…」

2017-10-30 16:18:30
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「そういや、ワカサギ釣ったらどうすんだ?」 ふと疑問に思ったことをぶつけてみる。この辺りで釣ったとしても調理場があるとは思えない。 「近くの宿で天ぷらにしてくれるところがあるんだ。私は食べないけど」 「食べないのに釣るのか?」

2017-10-30 16:21:10
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「…誰にだって一人でいたい時はあるものさ、私も、貴方も」 彼女は何か、悩んでいることがあるようだった。 「なにか、悩みでもあるのか」 思わず聞いてしまった。悩む人がいると、聞いてしまういつもの癖で。 彼女は少し、流し目で俺を見つめた。

2017-10-30 16:24:54
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「話したくないなら良いんだ、どうせ」 「私は」 言おうとしたことを遮るように、彼女は静かに語り始めた。 「私は今の司令官に、必要とされているのか。たまに迷うことがあるんだ。秘書艦として、旗艦として、共に長い道を歩んで」

2017-10-30 16:27:42
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

僅かながらに饒舌になって行くのを感じた。彼女の悩みはかなり深く、彼女自身を縛り付けているようだった。 「でも、私は駆逐艦だから、艦隊の旗艦を担うには脆すぎる。だからなのかな、司令官は私を秘書艦から外した。ケッコンも、戦艦の人とした。なぜなのだろうって」

2017-10-30 16:31:59
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「愛と戦争は、別のものなのかな。今の司令官と上手くやれていると思うし、駆逐艦としての功績はそこそこ挙げているとは思う。それは司令官も知っているし褒めてくれている。でも、ケッコンは私ではなく戦艦の人を選んだ。」 彼女の声に熱が帯びて来た。気を紛らわす為の趣味も意味をなしていない。

2017-10-30 16:37:18
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「貴方なら、どう考える?」 そう彼女は問いかけた。俺ならどうするか、俺自身曖昧な答えしか出せないと感じている。 「俺なら…同じことをするかもしれない。」 「…それは何故だい?」 彼女はじっと、私を見つめて問いかけてくる。彼女は真意を求めている。そう感じた。

2017-10-30 16:40:06
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ケッコンは、結局のところ、愛を確かめるものじゃない。絆を深めるものだ。そこに愛は全くないといえば嘘になるが、軍拡のための手段でしかない。ケッコンしたとして正式なものではないし、個人の意思の強さが高まるものでしかない。君の司令官は君を失いたくないのだろう。だから君を遠ざけた。」

2017-10-30 16:42:41
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「全てが終わった時、ケッコンではなく、正式な祝言を挙げようとしてるのではないかと、俺は思う。」 「全てが終わった時か…それはいつくるんだろうね…」 俺はその問いに返せる答えを持ち合わせていない。誰も持ち合わせていないだろう。それが残酷な現実であることは明白だった。

2017-10-30 16:44:51
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ん…」 突然響は竿を上げた。そこには少し大ぶりなワカサギが4匹かかっていた。 「釣れたな、ワカサギ」 「釣れたね…ありがとう、電の司令官」 何のことかは、あえて聞かなかった。彼女には一つの道を示しただけだ、俺自身どうこうする気はない。

2017-10-30 16:47:52
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「…そろそろ撤収する頃合いだね」 気がつくと日が傾き始めていた。冬の山は早めに暗くなる。早々に撤収準備を行った。 「今日の収穫は、23匹か、多めに釣れたね」 「よく釣れるもんだな」 話の後は入れ食い状態だった。結構な数を釣り上げたので、響自身も少し嬉しそうだ。

2017-10-30 16:50:52
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「ワカサギ、いるかい?」 「そいつは嬉しいが、うちの宿が作ってくれるかどうか」 「ここいらにある宿は一つしかないから調理してくれると思うよ、泊まる宿もおそらく一緒だ」 「だったら、晩酌にも付き合ってもらおうかな」

2017-10-30 16:54:36
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

冗談交じりに晩酌に誘ってみるが、他の鎮守府の艦娘だ。むやみに手を出すべきではないし、流すだろうと思ったが 「私はお酒に強いよ、潰れないようにしてほしいな」 乗って来た。今日の夜は長そうだ。 そう思いながら、二人で宿へ向かった。

2017-10-30 16:56:46