コールド・ワールド #7
(あらすじ:グレイハーミットの養女であるゾーイの謎めいた力を奪うべく、過冬のニンジャであるレックメイカーとホワイトアウト率いるヤクザ部隊が迫る。ニンジャスレイヤーはこれを逆に襲い、二人のニンジャを爆発四散せしめた。だが全滅させてはいない!)
2017-12-27 21:38:14(ニンジャスレイヤー、マスラダ・カイは転倒バイクを奪い、シュライン付近の洞穴に避難したゾーイのもとへ取って返す。だが、そこへ一直線に向かう過冬のニンジャ存在はもう一人存在した!)
2017-12-27 21:40:10コーオオオオオオオ!暴走する獣の怒号めいた走行音とともに、ザルニーツァのバイクの走行速度は666キロに迫ろうとしていた。ザルニーツァのニンジャアーマーはミシミシと音をたて、関節から放電を繰り返した。痩せ細ってすら見えるシルエットは、専ら、この外骨格によって生み出されたものだ。 1
2017-12-27 21:43:42その不穏なニンジャアーマーは生物的かつ機械的な鱗(スケイル)を重ねたものであり、頭から爪先までを覆う。フルフェイス・メンポの表面に覗き穴らしきものは無い。美しいが、どこか邪悪な印象をもった鎧だった。鎧はつねにミシミシと音を立てて軋んでいる。故障ではない。「補正」が生ずる音だ。 2
2017-12-27 21:48:56カタナ・オブ・リバプール社の試作品であるイーサライト・アーマー。企業秘密合金のカラテ伝導率は極めて高く、防御時には比類なき剛性を発揮する。重ね合わせた装甲みずからが筋肉めいて力を生み出し、駆動し、使い手を助ける。骨折しようとも、戦闘能力を維持する。 3
2017-12-27 21:53:39ザルニーツァはヨモツ・ニンジャの血の矢めいて、まっすぐにバイクを飛ばす。やがて前方に赤黒のニンジャを発見する。ザルニーツァは追い抜きをかけた。「イヤーッ!」赤黒のニンジャはすれ違いざまに断頭チョップを繰り出した。ザルニーツァは車体側面に思いきり身体を倒して躱し、追い抜いた。 4
2017-12-27 21:56:56馬の体を盾に銃撃を避けるカウボーイめいて身体を倒したザルニーツァの頭の1インチ下に氷がある。動きを誤れば、ザルニーツァの頭はネギトロめいて削り取られるであろう。当然、万に一つもそれはない。「イヤーッ!」ザルニーツァは後方へプラズマ・クナイ・ダートを投擲した。 5
2017-12-27 21:59:15「イヤーッ!」赤黒のニンジャはスリケンを投げ返してクナイを相殺し、余分のスリケンを投げた。ギュイイイ!ザルニーツァは車体を小刻みに蛇行させ、慣性をもちいて車上に復帰。スリケンは当たりはしない。覗き穴の無いフルフェイスの中で冷たい一瞥を残し、ニンジャはバイクを加速。引き離す! 6
2017-12-27 22:02:10……ニンジャスレイヤーは目を見開く。燃える眼光が後ろに流れる。ヤクザバイクが断末魔じみた悲鳴を上げる。フルスロットル。しかし追いつけない。前方に丘……先に到達するのは敵……! 7
2017-12-27 22:04:17ザルニーツァはインテリジェント・モーターサイクルをドリフトさせながら停止し、回転跳躍から石段に着地。一気に駆け上がると、数呼吸のうちに頂の庵に到達した。手練れのニンジャはフスマに手をかけた。……ターン! 9
2017-12-27 22:07:11「……バカな。行き止まりとは」ザルニーツァが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれには雲、バンブー、灯火、フジサンの見事な墨絵が描かれていた。 10
2017-12-27 22:09:35もはや先へ進むためのフスマは見当たらない。そも、それが不自然だ。フスマではなく壁なのだ。「姿を現すがいい。グレイハーミット=サン」この謎を解くべく、ザルニーツァは右手にプラズマ・クナイを握り、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、部屋の中心部へと進んでいった。 11
2017-12-27 22:12:39イーサライト・アーマーの多重装甲が生き物じみて光を脈打たせた。ザルニーツァのカラテが全身を駆け巡り、ニンジャ第六感をブーストする。心臓の鼓動音はザルニーツァ自身のもの。否……そこにノイズを聴く。ドクン。音とともにザルニーツァは虚空にあり、頭上に黄金立方体が輝いた。 12
2017-12-27 22:15:39「グレイハーミット=サン。貴様がそうか」ザルニーツァは無感情に呟いた。バチバチと音が歪み、髭面のニンジャのイメージが視界に膨れ上がる。四方の壁を透かして、銀色の浜辺が透けて見える。「ああ。俺だ。俺がグレイハーミットだ」隠者は答えた。「あの娘の元へは行かせんぞ。ここで殺す」 13
2017-12-27 22:18:13「ドーモ。グレイハーミット=サン。ザルニーツァです」ザルニーツァはアイサツを返した。そして言った。「私を殺す?貴様にそんな余力があるとは思えん。プレッシャーを感じぬぞ」挑発ではなかった。淡々とした確信である。「ホワイトアウト=サンはサンシタではない」 14
2017-12-27 22:21:55隠者の図像が激しく光り輝いた。(((ならば……試してみるがいい!……イヤーッ!)))「イヤーッ!」0010010010101001 15
2017-12-27 22:23:1701001001001 (((グワーッ!)))「……!」ゾーイは洞穴の中でハッと顔をあげた。彼女は逡巡した。出たらいけない。出れば事態は……(((グワーッ!)))シルバーキーの悲鳴がふたたびニューロンに鳴り響いた。ゾーイは深く息を吸った。「ニンジャスレイヤー=サン」祈るように呟く。彼は間に合うか。 16
2017-12-27 22:26:09(((グワーッ!……グワーッ!)))「シルバーキー=サン!」ゾーイは洞穴の出口に立つ。一面の氷。(((来るな……ゾーイ……絶……グワーッ!))) もはや一刻の猶予もなし。彼女は洞穴を飛び出した。……シルバーキーの庵に向かうまでもなかった。 彼女は切り立った崖を振り仰いだ。 17
2017-12-27 22:30:23崖上には丈高いニンジャが逆光になっている。ニンジャはシルバーキーの首を掴み、腕を前に突き出して、吊るしていた。「ゾーイはどこだ。答えろ。私に面倒をかけるか、すぐに終わらせるかだ」「……!」ゾーイは岩陰に引っ込み、口を手で押さえて、そのさまを凝視した。なにか打開策はないか。 18
2017-12-27 22:33:38「何の話かの……最近……ワシはまだらボケで……グワーッ!」「……」ニンジャは首を絞める力を強め、不敵にとぼけた回答をやめさせた。シルバーキーの負傷状態は既にズタズタといっていい。だが、このニンジャの本来のカラテからすれば、それでも容赦はしていたであろう。生かすだけの。 19
2017-12-27 22:37:08「あれを渡せば、この地の安全は保障する」ニンジャは言った。「過冬が貴様のこの領域を犯す事は二度とないと約束しよう」「……」シルバーキーは震えた。血が足を伝い、ポタポタと零れ落ち、ずっと下の氷に赤い点を生じてゆく。ゾーイは震えながら、岩陰から進み出る。「……やめて」 20
2017-12-27 22:40:06「そこか」ニンジャはゾーイを見下ろした。「ドーモ。ゾーイ=サン。ザルニーツァです」「ザルニーツァ=サン……約束を守ってくれる?」「よせ……子供の出る幕じゃない」シルバーキーはかすれ声を出した。ザルニーツァは言った。「子供のほうが話がわかっているようだ」 21
2017-12-27 22:44:06