今日は嘘をついても良い日だと言って、部活メンバーは皆それぞれに趣向を凝らし、しかし笑って済ませられる他愛もない作り話をして一日多いに楽しんだ。気付けば春休みも半分が終わり、あと一週間もすれば新学期である。 日は随分と長くなり、もうじき夕餉の時刻だというのに、空はまだ青い。
2011-04-01 19:26:46それでも、毎日そう遅くまでつるんでいるわけにも行かずメンバーは解散した。 「うぉー。あとちょっとお!!」 圭一は気合を入れて折れ曲がったパイプを廃棄物の山の中から引っ張っていた。どうもその先に付いている〈猪出没突進注意〉の看板が「かぁいい」らしく、レナにねだられて肉体労働している
2011-04-01 19:27:26ところなのだった。 「圭一くん、がんばってーっ」 そばで見守るレナも握る拳に力が入る。すぽーんっというより、現実はガシャガシャゴロンガランという感じだったが、見事に標識付きのパイプはすっぽ抜けて、勢い余った圭一と共にガラクタの山の下へと転がり落ちていった。
2011-04-01 19:27:53「大丈夫!?」 大した高さではなかったが打ち所が悪かったり、そうでなくても危険物でいっぱいのゴミ山である。レナは驚いて駆け下り、丸まったままぐったりしている圭一を助け起こした。 名を呼びながら頭を自分の膝に載せ、閉じられた目を見つめた。
2011-04-01 19:29:37「どうしたのかな? もしかして頭打っちゃったのかな、かな!?」おろおろするレナが涙目になった頃、ようやく圭一がゆっくりと目蓋を上げた。 「ってぇ~…」 「圭一くんっ。怪我は!?」勢い込んで尋ねるレナだったが、圭一はぱちぱちと瞬きしてじっとレナを見つめ
2011-04-01 19:30:31「あー」とか「うー」とか唸りながら、ぽりぽりと頭をかいている。 「…圭一くん??」 やっぱり打ち所が悪かったんじゃあと焦り始めたところで、圭一がそっと手を握ってきた。「多分ダイジョブ」 「はうっ」そそそそうなんだそれは良かったんだよ、だよ、とどもりながら
2011-04-01 19:31:56真っ赤になったレナから、不意に圭一は視線を逸らせた。 「レナ、あのさ」 珍しくはっきりしない物言いに僅かに不安になった。「俺、引っ越すことになった」 レナの手を握ったまま、圭一は体を起こした。いつもだったらどつかれるまで太腿を堪能するくせに、あっさりと離れていく姿に
2011-04-01 19:33:29レナの胸が締め付けられた。 「え…っ。うそっ」 圭一は無言で空を仰いだ。いつの間にか夕暮れが迫っている。まだまだ時間は掛かりそうだったが、山の端は茜色に沈んでいる。頭上真上はまだ真っ青。不思議な時間帯だった。 「だって、だって雛見沢に永住するつもりで来たって言ってたのにっ」
2011-04-01 19:34:13そんなのないようと、途方に暮れた表情で呟く。その大きな瞳にじわりと浮かんだもの。それが滴り落ちる寸前に圭一の押し殺した笑い声が漏れ聞こえた。 不可解気に首を傾げた後、みるみるレナの顔が真っ赤に染まった。 「あーっっ!! だましたんだねっ、だね!? 圭一くん!」
2011-04-01 19:34:57怒りの鉄拳を受けるために顔をガードした圭一だったが、いつまで経ってもレナのパンチが飛んでくる様子はない。恐る恐る視線をやると、唇をかみ締めて涙を堪えている姿が目に入った。 「ご、こめん! やりすぎた俺。悪かったよ、レナ。だから泣くな?」
2011-04-01 19:35:26「そうなんだよ、ついていい嘘とよくない嘘があるんだからねっ」 「ま、まぁまだエイプリルフールなのに気を抜いたレナも悪いんだぜ?」 「確かにそうなんだけど~」 もう、とほっぺを膨らませているレナは相当の可愛らしさだ。これ以上混ぜっ返すのはやめて、圭一は
2011-04-01 19:36:22今までずっと片手で握り締めていた標識のポールを差し出した。 「はい」 「あ…ありがとう」 レナが反対側を握っても圭一が離す様子はなかった。目をぱちくりさせてこちらを伺うレナに向けて、圭一は真面目に頷いて見せた。
2011-04-01 19:37:04「俺、ずっとここにいるから。もしも親が出てくって言っても、なんとかしてここに残れるようにするし。 だから…だからさ」 、瞬間、雲間から夕日が二人の周りを照らし出した。まるでスポットライトのように。 「だから、そばにいさせて?」
2011-04-01 19:37:33