ハロウィンの恋人

レオナ @leo_msk_tdys

1. 「ふう…」 ため息とも言えない程の微かな息を、玄関のドアに向かって吐く。 月末の仕事を終え、ハロウィンの夜の喧騒を抜け、帰り道の公園で見上げた月は綺麗だった。 冷蔵庫で冷えているビールで、今宵は癒されよう。 一気に喉の渇きを覚え、鍵を回す。 #ハロウィンの恋人

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2. と、リビングから細く光が漏れているのが見えた。 「あれ、私消し忘れたっけ？」 ひとりパタパタとスリッパを鳴らしながら、ドアノブに手を掛ける。 「…え、」 ドアを開けて目に入ったものに、思わず絶句した。 「…信、ちゃん…？」 #ハロウィンの恋人

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3. 「よおー、元気やったか？」 八重歯が覗く屈託のない笑顔がそこにあった。 「…信ちゃん⁈どうして？」 それにその格好といったら、赤や黄色の葉っぱにまみれて、いったいどこに寝っ転がってきたのか。 「あー、友達の外国人にムリヤリ引っ張り出されてな」 #ハロウィンの恋人

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4. 変わらない口調に、じわりと視界が滲む。 「髪、伸びたな」 と私の頭に大きな手をポン、と乗せる。 久しぶりに感じるその温かさに溶かされて、涙が止まらなくなった。 「明日には帰らなあかんけどな」 そう言って抱き寄せられた先には、覚えのある匂いがした。 #ハロウィンの恋人

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5. 「かーっ！美味いなあ」 満面の笑みで喉を鳴らす。 その顔を見ると、自然に私も笑顔になれた。 ウチの冷蔵庫には、信ちゃんの好きな銘柄のビールがいつも冷えている。 「って、なんで煮付けやねん。ハロウィンでカボチャ言うたら、スイーツとかなんちゃうん」 #ハロウィンの恋人

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6. 「信ちゃん、こっちの方が好きかと思って」 2人での食事も久しぶりだ。 明日も仕事だけど、何本も缶を開けた。 「だいぶ酔うたんちゃう？風呂、明日にしてもう寝るか？」 「ん…」 ソファでウトウトする私をひょいと抱き上げ、音もなくベッドに運ぶ。 #ハロウィンの恋人

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7. 「…手、握ってて…」 「…しゃあないな」 眠りに落ちる寸前に願った。 明日もこのまま繋いでいてほしいと。 でもそれは、叶わぬ願い。 ひとときの温もりを、手のひらに刻み付ける。 #ハロウィンの恋人

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8. 翌朝、肌寒さに目を覚ますと、信ちゃんはもういなかった。 ブルーグレーのカーディガンを羽織り、リビングのドアを開ける。 「…あ、」 モスグリーンのソファに、黄色い葉っぱがひとつ。 「…信ちゃん、ゴメンね」 それを右手で拾い上げ、手のひらに乗せた。 #ハロウィンの恋人

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9. 心配かけてゴメンね。 私がいつも泣いてるからだよね。 ちゃんと前を見るよ。 あの日から伸ばしっぱなしの、この髪も切るよ。 だから、もう心配しないで。 …でも、来年も会えたら嬉しいな。 #ハロウィンの恋人

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10. 「ありがとう、信ちゃん」 眩しい朝の光が入り込む部屋、彼の写真の前に黄色い葉っぱを飾り、2人分の熱いコーヒーを淹れた。 終 #ハロウィンの恋人 pic.twitter.com/zq8tu03QZI

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