そりゃあ海上物流が限定的とは言え復活した今、陸揚げ港を擁するハマとは比べ物にならないが、軍港と言う巨大な顧客に漁港と言う産業を抱えているだけあって、その賑わいは他所ではなかなか見られない。
2018-03-17 21:10:40護衛総隊が音頭を取っている沿岸防衛の恩恵を受けて、沿岸漁業の安定感は平時のようだ。 特に軍港近辺ともなれば艦隊の影響も強く、辺境のようにハラスメント部隊の襲撃を受けることもまずない。
2018-03-17 21:11:44更に海洋群と協力して行われている近海漁業は、帝国では現状他で行うことはできず、漁獲高とその内訳を特色あるものにしている。
2018-03-17 21:12:32だからなのだろう。 いつだってこの街の雰囲気は海軍に、艦娘に対して歓迎ムードで。 ……皐月はそれが、たまらなく苦手だった。
2018-03-17 21:14:38商店街に近づくと、スピーカーから軍艦マーチが流れているのがわかった。 艤装の操る異界の力は常に研究の対象だが、その中から何故、どうやって、広報室が軍艦マーチの情報を抜き出して、あまつさえ大々的に使うようになったのか、それはよく知らない。知ったことではない。
2018-03-17 21:15:31そう、艦娘の為の軍歌だ。その活躍を、称えるための。 商店街の人達はそのつもりで流している。私達艦娘の今までの活躍を称え、これからの活躍を期待して。 それが、どうしようもなく重い。
2018-03-17 21:16:20「艦娘さんありがとう」「いつも助かってる」「これおまけしとくね」「倅の船を守ってくれたんだ」「今日は大漁だった」「艦娘さんのおかげだ」「深海棲艦をやっつけてくれよ」「ありがとう」「がんばれ」「頑張って」「頼んだよ!」
2018-03-17 21:16:46誰も、誰も、誰もが! 彼等の期待が、彼等の希望が、彼等の未来が! 全て、全て、全て! 私達の、私の背中に載っている。
2018-03-17 21:17:27載せられたものと、実態の落差。 それを実感しては、もうそこには立っていられなかった。 皐月は商店街を飛び出した。いや、飛び出したかった。
2018-03-17 21:22:27無難な返事を返しながら、見かけた人が不安にならないように、急いでる様子を気取られないようにしながら。 そうしてゆっくり街を離れて、鎮守府の営門をくぐって、誰もいない海洋群寮に戻り、便所の個室に籠ってから。
2018-03-17 21:25:44