突発現パロSS、第十話

ジャンルは恋愛です
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

ある朝。大井はいつもより早く起きて身支度を念入りに済ませた。 いつでも出社できる状態でベッドに座り、スマホを操作する手は忙しない。 「はぁ、やっと北上さんに会える」 北上と居ると大井の落ち着きが無くなるからと球磨に措置をとられてから早数ヶ月。二人はたまにしか会う事ができなくなった。

2018-06-07 20:50:16
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昨夜北上と交わしたチャットでは、朝には自分の席で報告書をつくっているかもとの事だった。 朝から北上の事で頭がいっぱいで、気づけば既に会社に着いていた。 時間を確認すると、普段より一時間は早く来ていた。落ち着きが無くなるとはこういう部分の事だろうかと思うが、大井にはあまり自覚が無い。

2018-06-07 20:56:49
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「あ、大井っち久しぶりー」 部屋に入ると、真っ先に北上が目に入る。 「北上さんっ、お疲れ様です!」 始業までまだまだ余裕のある時間、ほぼ二人きり。大井はまっすぐ北上の元へ駆け寄った。 「もうちょっとで報告書できるよ」 「頑張ってください北上さん!」 「ていうか大井っち来るの早いねぇ」

2018-06-07 21:04:02
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大井は横でにこにこしながら北上が報告書を仕上げるのを見守っている。 やりづらいなぁと言われると、一歩下がってそれでも傍から離れようとはしなかった。 「よし、あとは印刷」 「私が持って来ます」 「じゃあよろしく」 北上は複合印刷機にデータを送り、椅子の背にもたれ掛かった。

2018-06-07 21:16:22
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大井が印刷した報告書を北上のもとへ持っていく頃には始業時間も近づいていて、出入りする人数も増えていた。 「どうぞ北上さん」 「ありがとねー」 北上は文字を検めながら、これで良いか、と席を立った。 「あたしはこれ出してうちに帰るけど、大井っちも一日頑張ってね」 「はい!」

2018-06-07 21:26:17
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北上は大井の肩をぽんと叩く。 「うち着いたらメールか何かするね」 「はい、その後はしっかり休んでください」 「うん、またね〜」 報告書をひらひらさせて北上は部屋の外へ出ていった。 残された大井は寂しそうに席へつく。始めから二人を見守っていた龍田が、励ますように大井に飴を差し入れた。

2018-06-07 21:35:29
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まだ時間に余裕はあるなと思いながら鹿島は廊下を進む。 なんとなく髪を繕いながら歩くと、向かいから三つ編みの見慣れない人物が歩いて来る。 「おはようございます」 「んー、おはよう......ん?」 北上は立ち止まって鹿島を振り返る。 「あ、新しいヒト?」 「はい、鹿島と申します。あなたは」

2018-06-07 22:46:22
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「あたしは北上、今から帰るとこなんだー。よろしくね」 北上、最近どこかで聞いた名前だ。 「あっ、もしかして多摩さんの妹さんですか?」 「そだよ、多摩姉に会ったんだね」 「ということは大井さんのお姉さん......?」 「うん。大井っちから研修うけてるの?」 「はい、色々とご指導頂いてます」

2018-06-07 22:52:43
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「そっかー大井っちも先輩だもんねぇ。鹿島、大井っちの事先輩って呼んであげなよ」 鹿島に話しながら、北上はあくびをかみ殺す。 「あーごめん、遠征疲れが出てきた......艤装の機能で疲労も溜まらないようにしてほしいもんだよ......またねぇ」 鹿島は心配そうにふらふらと歩く北上を見送った。

2018-06-07 22:58:48
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北上さん無事に帰れるのかなと考えながら、鹿島は大井の横に配置された席に座る。 「おはようございます大井......先輩」 「おはよ......先輩?」 鹿島は先程廊下で北上と会った事を話した。 「それで、北上さんが大井さんを先輩と呼んであげてと仰って」 「なるほど北上さんが......」

2018-06-07 23:04:49
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鹿島が北上の名を出す度、大井はムッとしたような、だがどこか嬉しそうな複雑な顔をする。鹿島はその表情の変化に目を惹かれた。 「あと、すごく疲れているように見えましたが」 鹿島が言い終わらないうちに、大井はさっと立ち上がる。 「すぐに戻るわ」 そう言って大井は駆け出した。

2018-06-07 23:13:41
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結局大井は始業ギリギリに戻ってきた。 「北上さん、仮眠室で寝てたわ」 よほど安堵したのか、大井は柔和な笑みをこぼす。それに気づいたか、すぐに表情を引き締めて普段の大井に戻った。 「さて、仕事の時間ね」 「は、はい」 次々と今までに見た事の無い顔をする大井が、鹿島の頭から離れなかった。

2018-06-07 23:23:18