#ちんじふ劇場　【18年8月分まとめ】

青葉⚓C103土曜ユ29b@鎮守府新聞ワレアオバ @_Ware_Aoba

吹雪「……」 受話器を置く龍司を吹雪がじっと観察するような視線を向けていた。 龍司「ん？どうかしたかい？」 吹雪「いえ」 そういえばと、彼女を司令部に置いた意味は要員としてではないと思い出す。 吹雪を託されるときに教える余裕があるならそうしてとは言われたが。 #ちんじふ劇場

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なるほど教える余裕なんてありはしない。 だが彼女は自分自身の役割というものを理解している。ならばそれに配慮することがしてあげられることだろう。 龍司「必要な時に呼ぶから、そばで控えていてくれるかい？」 吹雪「はい！了解です」 #ちんじふ劇場

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トラ「ワテがいうのもなんやけど。猫の手も借りたいときにええんですの？」 当の猫が耳打ちしてくる。 龍司「彼女が必要とされるのは今じゃない。教えることはできないけど。学ぶ機会を奪いたくはない」 トラ「……」 龍司「オレはそう決めた。それを汲んでくれるとありがたいな」 #ちんじふ劇場

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虎男は大きく息を吐きだす。無理やり飲み込んだのだ。 トラ「なんやろなあ……やっぱりワテは凡人なんやねえ」 龍司「オレだってそうだよ。だけど仕事はしなきゃならないし、そのためにトラが必要だ」 トラ「……そこまで言われちゃあ、この難波虎男も一肌脱ぐしかありまへんな」 #ちんじふ劇場

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龍司「ありがとな。付き合ってくれて」 トラ「それがワテの仕事やさかい。そのためなら地獄の果てまでお付き合いしまっせ」 龍司が笑う。 龍司「頼りにしてるよ」 #ちんじふ劇場

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同時刻。 太平洋・小笠原沖。 同海域展開中のAcnos艦隊は、中部海域より敵勢力の侵攻を確認。 刀古「燃料は？」 不知火「各艦規定量まで」 刀古「弾丸は？」 不知火「補充完了。補給用の弾薬も準備万端です」 刀古「艦載機は？」 不知火「各空母飛行隊には慣熟した航空兵が」 #ちんじふ劇場

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刀古「士気は？」 不知火「旺盛に」 刀古「あなた、優秀な子よね」 不知火「観月司令のご指導・ご鞭撻のお陰です」 刀古「よし。始めますか」 不知火「はい」 #ちんじふ劇場

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択捉島・単冠湾泊地。 同泊地停泊中の大湊・舞鶴聯合艦隊は北方海域からの敵勢力の侵攻を確認。 樽埼「予想的中じゃな」 総司「うれしくない事態ですけどね」 赤城「じゃあ、行ってきますね」 総司「気を付けて」 司令部を出ていく赤城が見えなくなるまで目で追う。 #ちんじふ劇場

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樽埼「あっさりしたもんじゃのう」 総司「ことさら気を負わせる事もありませんので」 樽埼「いつぞやの本土強襲よりも状況としては悪いと思うが」 総司「……そうですね。慣れてしまったんですよ。我々も」 樽埼「やれやれ、じゃわい」 #ちんじふ劇場

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６時間後。沖縄本島沖、大演習艦隊。 発見より２時間後、敵艦隊は大演習艦隊の約1.5倍の兵力で襲来。 元より実弾を装備していた予備艦隊を前面に展開させ、実弾への換装を終えた演習艦隊を加えて攻勢を仕掛けるも数で押し負け、戦線を後退させながら組織的戦力の維持に努めていた。 #ちんじふ劇場

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母艦のCICに置かれた演習艦隊司令部には続々と損害報告が舞い込む。 その中で龍司は自席で腕を組みながら状況を示すモニターをじっと見続けていた。 そしてポツリとつぶやく。 龍司「負けたな」 時が止まったかのような静寂。ただ電子音だけが時を刻む。 龍司は席を立ちあがった。 #ちんじふ劇場

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龍司「本艦隊は戦術的敗北を喫した。だが戦略的にはまだ負けちゃあいない。これより退却戦に移行する。トラ」 トラ「なんでっしゃろ？」 龍司「損害を受けている艦娘と、横須賀・大湊・舞鶴から来ている艦隊、お前の艦隊を取りまとめて佐世保まで退かせる。その指揮を頼む」 #ちんじふ劇場

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トラ「龍司はんは？呉艦隊はどないするんで？」 龍司「お前たちが追いかけられないように時間を稼いで、沖縄に退く」 トラ「沖縄……孤立してまいまっせ」 龍司「言ったろ。オレたちは何が何でも沖縄を守らないとならない」 トラ「せやけど」 龍司「まあ聞いてくれ」 #ちんじふ劇場

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龍司「敵の攻勢は長くは持たない。そもそも奴らも短期決戦で来てるんだ」 トラ「なんでわかりますの？」 龍司「偵察機から上がってくる補給艦の量が少ない。だから艦隊を維持できる期間は短い」 トラ「それはあくまで推測でっしゃろ？」 #ちんじふ劇場

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龍司「お前が選択出来るのは２つ。オレを信じるか。自分自身を信じるか。だ」 トラ「ああ、それなら了解ですわ。すぐに撤退の準備を始めますねん」 吹雪「難波司令は不破司令の事を信頼されてるんですね」 トラ「それはちゃいます」 虎男は首を横に振る。 #ちんじふ劇場

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トラ「ワテは自分の考えしか信じまへん。せやから『龍司はんに賭けた自分の判断を』信じますねん」 それを聞き吹雪は自身の中で気持ちが決めた。 吹雪「不破司令。私は残ってもよろしいでしょうか」 龍司「いや、君はトラと一緒に……」 トラ「さすが刀古さんとこの秘蔵っ子やね」 #ちんじふ劇場

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トラ「じっくり見せてもらうとええですよ。負け戦（いくさ）のときの龍司はんの指揮ぶりを」 龍司「トラ……」 トラ「意趣返しじゃありまへん。この子に本当に見せなあかんのは、そこでっしゃろ？」 龍司「……わかった。オレは死ぬつもりはない。だけど決死の覚悟は必要だよ？」 #ちんじふ劇場

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吹雪「そのように私は決めました」 思いとどまらせることは出来なさそうだ。 龍司「トラ、戻す艦隊の方は頼む」 トラ「任せておくんなはれ。それとどうかご武運を。あんさんたちにはまだやってもらわなあかんことが山程ありますから」 龍司「わかってるよ。また会おう」 #ちんじふ劇場

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難波虎男提督は損傷艦を含め演習艦隊の約七割を率いて転進。 呉艦隊の支援により、脱落者を出さずに佐世保へと戻ることが出来た。 残留した呉艦隊の様子はケーブルを通じて沖縄から伝えられていたものの、海底ケーブルが敵に切断され、それも途絶えることとなる。 #ちんじふ劇場

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各地での奮戦により、本土への被害は皆無だったものの、海軍はわずか2日にしてそれまで手にしていた制海権のほとんどを失った。 8月17日。 反撃はここから始まった。 #ちんじふ劇場