フリージング・フジサン #7

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ゾーイをさらったシンウインターの大アジトがエッジカム火山である事を掴んだニンジャスレイヤーとサツバツナイトは突入し、ワイズマンのサイグナスとカークィウスを極限のカラテで打ち破り、さらには氷の大広間を守る二人の古代ローマカラテニンジャを撃破した)

2018-11-05 22:11:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(港湾地区では過冬の要であるシトカ港湾取引管理ビルが、スーサイドとオールドストーンの率いる怒れる市民の手に落ちた。しかしシンウインターがそうした騒ぎよりも重要視していたのは異邦人の約束であった。捕らえたゾーイを異邦人に差し出すと、黒いトリイと荒地の光景が出現し、事は成った)

2018-11-05 22:15:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ゾーイの抵抗虚しく、その存在は異邦人に取り込まれ、消滅した。キンカク・テンプルの強大な光を受けたかのごとき威容を得たサツガイは広間を去り、そしてそののち、ニンジャスレイヤーとサツバツナイトがついにシンウインターとまみえたのである。シンウインターはリアルニンジャとなっていた)

2018-11-05 22:17:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「音がしました」「私も聞こえました」二人組の寒冷地クローンヤクザ兵は言葉をかわし、油断なくアサルトライフルを構えて回廊を直進した。その背後に影が降り立つ。コキ、コキキ。一秒後、そこには首が逆向きになって緑色の血を吐いた死体ふたつが転がっていた。ガーランドは部屋にエントリーする。1

2018-11-05 22:21:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」彼が目にしたのは、スイートルームめいて広い、だが簡素な、ひとつながりの部屋のありさまだ。私物は殆どない。しかし彼の視線はまず、部屋の一角に設置された木人に注がれた。彼はほとんど愕然としていた。「……ニンジャ……!」 2

2018-11-05 22:27:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

木人には激しい打ち込みの跡がある。決してそれは酔狂なアンティーク趣味、カラテ趣味の産物ではなかった。そこには実践の跡があり……木目に染み込むニンジャソウルの痕跡があった。この部屋の持ち主はニンジャだ。そしてその持ち主というのは……!「……!」ガーランドは棚に向かった。  3

2018-11-05 22:29:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

陶製の食器類が幾つか。ちぐはぐな趣味だ。与えられ、あてがわれたものか。さもありなん。ガーランドは推測を積み重ねてゆく。棚には逆向きの写真立てがあった。当然手に取り、あらためた。「……」親子めいた二人。シンウインターと、無表情の娘。多弁な無表情だ。「オリガ」ガーランドは呟いた。 4

2018-11-05 22:33:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼のニューロンを様々な思考が駆けた。オリガはニンジャとなっていた。ニンジャが子を成す事はない。ラオモト・チバの懸念、「鷲の一族」の血が拡散する事態は恐らく防げたと言える。ではオリガ自身をどうする。彼は振り向き……床に奇妙な存在感を感じ取る。拾い上げると、それはスリケンだ。 5

2018-11-05 22:38:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

八つの刃がランダムに飛び出したスリケンには異様なアトモスフィアがあった。つい先程、彼が見た幻視……黒いトリイと荒地の光景と、なにか繋がるものがあった。あの光景は何のジツだ?スーサイドに確かめなかったが、恐らく同様のものを見ていた筈。彼は沈思黙考ののち、スリケンを懐にしまった。 6

2018-11-05 22:40:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」次に彼は姿見をずらし、後ろの壁を確かめた。手の甲で二度叩き、その後、指で穴を穿った。棚状の空洞が隠されていた。オリガが隠したのだろうか?彼は拳大の、黄変した紙包みを取り出した。躊躇なく開いた。それは銀のロケットだった。 7

2018-11-05 22:45:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ディアンタ」彼は呟いた。美しい女と、その傍らに憮然と立つ少年……然り、オリガではない。それは、ガーランドが嫌というほど日頃から目にしている大いなるボス、ラオモト・チバその人の、幼少の姿であった。もはや疑いようもなし。 8

2018-11-05 22:48:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これを隠したのはオリガか。シンウインターに奪われぬよう、気取られぬよう。母に思いを馳せ、そして、名も知らぬ兄弟に……ラオモト・チバに思いを馳せたのか。「フン……」ガーランドはあらためて部屋全体に注意を走らせる。流石に、ボスに通信で指示を仰ぎたいところではある。だが不可能だ。 9

2018-11-05 22:51:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この部屋に残った本人のニンジャソウル痕跡はまだそう古くない。オリガは恐らくこの大アジトの中に居る。ニンジャとして。見つけ出し、そして……(殺すのか?)彼は足早に部屋を出てゆく。 10

2018-11-05 22:53:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暗黒メガコーポ同士の激しい戦争にアドリアンが生活を奪われたのは、五歳かそこらの時の事だった。一家は海を越え、シトカに逃れた。過酷な旅だった。母はもとから病弱で、その旅が決定打となった。父は母を愛していた。子供たちの事は、どうだったろう。 12

2018-11-05 23:02:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前らは子で、俺は親だ。わかるな」暴力が父の言葉だった。「言葉」をふるうとき、父は繰り返した。「子は親を生めない。だからお前達は俺の為に尽くさねばならないんだ。家族を守る為に」アドリアンは父を憎んだ。しかし父の暴力は過酷な外の世界に対しては二倍の苛烈さでふるわれた。 13

2018-11-05 23:06:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シトカの暮らしは過酷だった。移住者の立場は弱く、弱さの果てには暗黒メガコーポの捕獲ネットが待ち構えている。彼らは市民に債務を負わせ、最終的には「プロジェクト」という名の奴隷身分に落としてしまう。だが父は黙ってそんな屈辱を呑むような人間ではなかった。 14

2018-11-05 23:09:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暴力が一家を守った。暴力の中でアドリアンは育った。兄も妹も。やがて父はボロクズのように死んだ。母親の命日の夜、浴びるように酒を飲み、押し入り強盗をして、その果てに、氷のように冷たくなった。アドリアンは父が何故死んだのかよくわかっていた。弱く、甘くなったからだ。希望を見たからだ。15

2018-11-05 23:13:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少しでも甘さを見せれば、弱みにつけこまれ、家族の所有物や命さえも奪われてゆく。むしろ奪い取らねばならない。父はヘマをした。自分はうまくやる。この荒れ果てた世界では、暴力による秩序こそが必要だ。兄も妹もいつしか居なくなったが、いつしか隣には仲間がいた。彼はヤクザになっていた。 16

2018-11-05 23:14:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アドリアンは使い捨てのテッポダマに過ぎなかった。すべきことはシンプルだった。敵を絶望させ、二度と歯向かえないようにし、搾り取る。彼は徹底的にやった。暴力は常に彼に道を示してくれた。敵は二倍に、四倍に、十六倍に増えていった。だがカネもそれだけ派手に飛び交った。 17

2018-11-05 23:19:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「歯剥がし」は彼が作った敵の中でも特に執拗で、怨恨も深く、気づけば少年時代からの仲間は皆、殺されていたし、彼自身も腎臓を一つ失うに至った。最終的には全員分の苦痛を乗算して返してやったが、そのデイリで彼は死の淵まで降りた。凍った川から彼を引き揚げ、助けてくれた女がいた。 18

2018-11-05 23:23:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ソフィアという名の、情の厚い女だった。その時のアドリアンにはカネも仲間の力も無かったが、ソフィアはアドリアンを捨てなかった。「他人のような気がしない」、よくソフィアはそう言っていた。日当たりの悪い部屋だった。やがてアドリアンがソフィアを捨てた。 19

2018-11-05 23:27:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そう長い暮らしでもなかったが、そのときソフィアは彼の子を宿していたのである。当時その事を知っていれば、何か行動も違っただろうか。それはわからない。アドリアンはソフィアの事を忘れていった。やがて月は砕け、エメツ資源に光が当たり、シトカの有様は変わった。「過冬」は伸長した。 20

2018-11-05 23:30:27