人形少女

おぼえがきですよ。
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虎bot @tora404_bot

少女は考え感じる事はできたけれど動く事、喋る事は出来なかった。自転車に取り付けられた小さなリアカー。そこには小さな精巧に作られたでもとても古い舞台が取り付けられていた。2体の人形を操るのはよぼよぼの老人。老人は人形劇をやる事で得た少ないお金で日々生活していた。子供達にお菓子やジュ

2011-03-04 19:19:57
虎bot @tora404_bot

ースを売り人形劇をやる。朝から晩まで2体の人形をせっせと器用に動かし必死で子供達の為、自分の生活の為に働いた。夜。2体の人形は小さな部屋の物置きの小さな木箱の中に仕舞われる。おじいさんが物置きの戸を閉めると真っ暗になってしまうけれど今日は戸の隙間から月の光が差し込んでいた。おじい

2011-03-04 19:20:24
虎bot @tora404_bot

さんがいなくなると少女は色々な事に思いを馳せる。今日の子供達は良く笑ってくれた、今日はちょっと右腕の動きが悪かった、今日は少しおじいさんの元気が無かった。そして最後に少女はいつも同じ事を考えていた。いつも考えているけれど答えは多分一生みつからない。なんで私は考える事ができるのだろ

2011-03-04 19:20:40
虎bot @tora404_bot

うか?感じる事が出来るのだろうか?動けないそして喋れないのではこの感情は不要なのではないのだろうか?なぜ考える事のみ出来て喋る事を許してくれなかったのだろうか?考えても考えても少女には分からなかった。悲しい、嬉しい、楽しい、寂しい。一通りの感情を持ち合わせている。そして最近新しい

2011-03-04 19:21:00
虎bot @tora404_bot

感情が芽生えて来た。いや、前からあった物なのかも知れないけれど気付いたのは最近だった。いつも行動を共にする少年の人形の事が気になってしかたのいのだ。少年も私と同じように考える事が出来るのだろうか?少年は何を感じているのだろうか?いつしか少女は少年の事ばかりを考えるようになった。こ

2011-03-04 19:21:18
虎bot @tora404_bot

の気持ちを伝えたい。話したい、色々な事を一緒に感じ取りたい。日に日にその思いは強くなって行くけれど少女にはどうする事も出来なかった。手段がないのだから。そしていつしか少女は少年のことしか考えられないようになった。毎日毎日考えるのは少年の事ばかり。しかし、いくら頑張って気持ちが通じ

2011-03-04 19:21:33
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ない事を少女は分かっていた。それから少女は毎日祈るようになった。どうかお願いします。私に思いを伝える手段を下さい。お願いします助けて下さい。ある日少女の前に見た事もないお爺さんが現れた。「あなたの願いを叶えてあげましょう。」おじいさんは優しい口調でそういった。「本当ですか!私を人

2011-03-04 19:21:51
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間にしてくれるのですか?」「いいえ、違います。あなたに一度だけ使える能力を与えます。」「能力?」「そうです。あなたはこれからいつでも一度だけ何かと自分の魂を交換する事が出来ます。交換ですから物や植物ではダメです。人や動物、虫なんかも大丈夫な物もいます。それでどうですか?」「はい!

2011-03-04 19:22:06
虎bot @tora404_bot

ありがとうございます!」少女は心のなかで嬉しさをいっぱいに表現した。とその次の瞬間少女の顔が曇った。「交換って言う事は、例えば私が人間の少女と魂を交換したら少女の魂はこの人形の中に入ってしまうのですか?今の私と同じになってしまうのですか?」「はい。すです。それでも宜しければこの能

2011-03-04 19:22:19
虎bot @tora404_bot

力をあなたにあげましょう。」少女は考えた、悩んで悩んで結局はその能力を貰う事にした。いつでも使える。使わなくてもいい能力。少女が魂を交換出来る能力を得て十数年がたったある日おじいさんが亡くなった。2体の人形を操っていた、唯一少女をまるで生きているかのように操ってくれたおじいさん。

2011-03-04 19:22:31
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おじいさんの家族という人達が沢山来ていそいそと部屋の片付けをしている。少女はそれを見て無性に悲しくなった。こんなにも沢山の身内がいるのにおじいさんが亡くなるまで誰一人としておじいさんに会いに来たものがいなかったからだ。とても楽な生活とはいえないおじいさんは毎日毎日たった一人で人形

2011-03-04 19:22:44
虎bot @tora404_bot

を持ってその日の生活ギリギリのお金を稼いでいた。多分悲しい時もあっただろう、寂しい時、辛い時もあっただろうにいつもおじいさんは一人でいた。だからなのかも知れない無条件で自分を受け入れてくれる子供達に会いたいが為に人形劇を毎日毎日少ない報酬で続けられていたのは。そこで少女ははっとし

2011-03-04 19:22:58
虎bot @tora404_bot

た。そう私と同じだ考えて、感じる事しか出来ない自分と同じだと。厳密にはおじいさんは喋れるし自分で思うように自由に動ける。しかし本質的には何ら自分と変わらなかったのではないか。そう考えると少女の胸はキリキリと押しつぶされるような悲しい気持ちで溢れた。そして程なくしておじいさんに怒り

2011-03-04 19:23:09
虎bot @tora404_bot

にも似た感情が溢れて来た。おじいさんは動けた、そして喋れた。なのに毎日毎日同じ事を繰り返し自分から人と関わりを持とうとしなかったからだ。せっかく自由な体があるのになぜ!少女の体の中に様々な感情が湧き消えて混ざっていった。少女と少年の人形は家の前に「ご自由にどうぞ」という貼り紙と共

2011-03-04 19:23:22
虎bot @tora404_bot

に古いテーブルの上に置かれた。このまま貰い手が見つからなかったら2人とも捨てられるのかなあ。もし私だけ貰われて行ったら少年と離ればなれになってしまう。それなら二人で捨てられた方がましだなあ。少女はぼんやりと考えた。そこへ一人の小さな女の子が現れ「お母さんこの人形欲しい!」と満面の

2011-03-04 19:23:33
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笑みを浮かべお母さんに言った。「あぁ!そうだ!この子と魂の交換をして少年の人形を貰って帰ればいいんだわ!」と同時にこの少女がこれからの人生がどうなるかを想像してしまったけれど私は今まで何十年も苦しんで来た。ここでチャンスを逃したら永遠とこのままかも知れない!とその考えを押し殺した

2011-03-04 19:23:48
虎bot @tora404_bot

。気がつくと少女は先ほどの女の子になっていた。動ける!「お母さんやっぱりこっちの男の子の…」そう言いかけた時「お父さん!この人形欲しい!」と小さな男の子が少年の人形を指差した。少女ははっとした。ダメこの人形は。この人形だけは譲れない。「待って!」少女が叫ぶよりも早く男の子が少年の

2011-03-04 19:23:59
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人形を抱きかかえお父さんの元に走って行った。あぁダメ!体がうまく動かない。声が上手く出せない。少女は泣きそうになったが男の子がピタリと立ち止まり「やっぱりあっちの人形にする!」と言って少女の人形を持ってお父さんの方に駆けていった。その瞬間少女は少年の人形を力一杯抱き締めて涙を流し

2011-03-04 19:24:11
虎bot @tora404_bot

た。今までのように自分の意志も伝わらずに思い続ける事はなくなるずっとずっと自分の思いを、片側通行だけれど伝えて生きている。「これからもずっと一緒だね。」少女は小さな声で初めて自分の声で自分の気持ちを伝えた。「なぁそんな女の子の人形でよかったのか?」お父さんが男の子にいった。「うん

2011-03-04 19:24:22
虎bot @tora404_bot

。良く見たらこっちの方がよかったよ!」元気に答えた。「変な趣味に走らなきゃいいけど。」お父さんは少し呆れたようにいった。男の子は少女の人形をぎゅっと抱き締め小さな声で言った。「これからもずっと一緒だね。」

2011-03-04 19:24:35