空と踊る男のツイッター怪談その1:三角公園

ツイッターに投稿したオリジナル怪談です。本文にタイトル入れ忘れてしまってすみません。
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空と踊る男 @dancewithsky

ではでは、#ツイッター怪談 そろそろ始めさせていただきます。 なお、(完)と出るまでは話はまだ終わっていませんので念の為。ごゆりとご笑覧ください。

2019-06-07 22:41:26
空と踊る男 @dancewithsky

知人のOさんが友人のKくんから聞いた話である。なお、筆者とKくんに面識はない。だからこの話が真実なのかはもちろん判らない。 そして、そうは言ってもこれは怪談実話であって、オチらしいオチだとか、納得のいく説明などを求められても困るということをあらかじめお断りしておく。そんなものはない。

2019-06-07 22:47:57
空と踊る男 @dancewithsky

Kくんは「寂れた公園マニア」だった。 大きな公園、有名な公園、心地好い公園、森林公園、そういった類には一切興味がなく、住宅街や辺鄙な土地の片隅/隙間にポツンと点在し、地元の人間以外は誰も知らないような小さな寂れた公園(主に児童公園が多い)をひたすら巡り歩くのを生き甲斐にしていた。

2019-06-07 22:51:46
空と踊る男 @dancewithsky

Kくんの嗜好に合致する寂れた公園は各地に無数にあり、彼は仕事が休みの日にはもっぱらそういった公園を探し歩いて自らの足で訪れることをほぼ唯一の趣味としていた。たまには遠征もするが、ほとんどは自分の住む市の近郊がフィールドである。フィールド内だけでも対象となる公園は数多く存在した。

2019-06-07 22:54:07
空と踊る男 @dancewithsky

しかし、小さな公園であれば全てKくんの好みに合うのかと言えばそうではない。そこには漠然としながらも揺るぎない基準があった。近所の子供たちやママ友たちが定期的に集まり活気と歓声が常に溢れているような公園では駄目なのだ。滅多に人の来ない、そもそもなぜこんな場所に作ったのかと首を傾げて

2019-06-07 22:55:16
空と踊る男 @dancewithsky

しまうような萎んで淀んだ暗い雰囲気の公園でなければならない。高架下の極端に狭いスペースに申し訳程度に作られた殺風景な児童公園。人通りの少ない急な坂道の途中に突如出現する、勾配に沿って斜めに傾いた公園。住宅街のエアポケットめいた空間に何かのついでのように設けられた貧相な公園。

2019-06-07 22:56:35
空と踊る男 @dancewithsky

そういったまるで街そのものから忘れ去られたような公園に、Kくんはなぜだかたまらなく心を惹きつけられた。探訪と言っても、実際にその場所へ行き写真を数枚撮り、あとはベンチに腰掛けしばらくボーッと過ごすだけである。それらの他愛ない活動が、Kくんの生活には決して欠かせないものになっていた。

2019-06-07 22:58:05
空と踊る男 @dancewithsky

そんなKくんが、非常に奇妙な体験をした公園がひとつだけある。 「三角公園」。正式な名称は不明である。 それは三棟の同タイプのマンションの背面がちょうど両端をそれぞれ等角度に接し合って出来た正三角形の空間の中に、同様に正三角形を型どって作られたごく狭い公園である。マンションは三棟とも

2019-06-07 22:59:37
空と踊る男 @dancewithsky

既に築ニ十年近くが経過していて、入居者も大幅に減少し、早くもうら寂れた雰囲気を漂わせ始めている。そもそもなぜ三つのマンションをそのような不可解な配置で建てたのか、詳細は不明である。 三角公園を訪れた時、Kくんが最初に感じたのは強烈な「歪み」だった。三方をマンションの背面で囲まれて

2019-06-07 23:01:52
空と踊る男 @dancewithsky

おり、また建物同士の隙間もごく狭いので極端に視界に抜けがなく、凄まじい圧迫感がある。ぐるりと見渡しても隙間から覗く道路や建物の裏側の無機質な設備等が見えるだけで、しかも取り囲む空間と公園の形状が大小の正三角形として奇妙な対比を成している為、そこにいるだけでどんどん遠近感が狂って

2019-06-07 23:03:38
空と踊る男 @dancewithsky

いく。とてつもなく異様で歪な場所だった。 ここはやばいな、とKくんはすぐに思った。彼はあくまで寂れた公園のマニアであって特にオカルト嗜好など持ち合わせてはいないが、趣味であちこち渡り歩く中で、各々の土地には疑いようもなく「魔所」と呼ぶ他ない空間が実在することを直感的に知っていた。

2019-06-07 23:05:53
空と踊る男 @dancewithsky

この三角公園もその手の魔所に違いない。これは自分の趣味の範疇を完全に逸脱している。 にも関わらず、Kくんはなぜかその場から動けなかった。公園内には三辺それぞれに小さなベンチが一脚ずつ、中央には蛇口台が併設されたこれもまた正三角形の砂場がひとつ設けられているだけで、他には何もない。

2019-06-07 23:07:32
空と踊る男 @dancewithsky

こんな公園で遊ぶ子供がいるはずなどないし、ママ友の交流の場にもお年寄りの憩いの場にもなりようがない。そもそも奇怪な立地のせいで極端に陽当たりが悪く、昼間でも薄暗く常にじめじめと湿気が漂っているのだ。 その陰気で薄気味悪い空間の中で、Kくんはベンチに腰掛けたまま、何を思うでもなく

2019-06-07 23:10:04
空と踊る男 @dancewithsky

ただ茫然としていた。頭のどこかで、ここにいてはいけない、という声が聞こえた気がしたが、頭の別のどこかからは、ここにいなくてはいけない、という声が響いた気もした。 ハッと気づいた時、あたりは既に夜の闇に包まれていた。 ……おかしい。ここに来たのは真昼なのに。いつのまにこれほど時が

2019-06-07 23:12:22
空と踊る男 @dancewithsky

経ったのか。この場所は時間の感覚まで狂わせるのか。いや、そもそもここには他とは違う異形な時間が流れているのか…… ねっとりとした重く濃い闇がKくんの全身にまとわりついてくる。周囲がよく見えない。いや、見たくもない。一刻も早くここから去らなくては。逃げなくては。 Kくんが何とか意志を

2019-06-07 23:15:08
空と踊る男 @dancewithsky

振り絞ってベンチから腰を浮かしかけた時、ふいに金属の擦れるような音が聞こえた。 キィ、キィ ……これは、ブランコの鎖が揺れる時の音だ。 キィ、キィ この公園にはブランコなどありはしないのに。 キィ、キィ 馬鹿な。幻聴に決まっている。この異常な空間が俺の神経をおかしくさせているのだ。

2019-06-07 23:17:45
空と踊る男 @dancewithsky

キィ、キィ だけど俺は知っている。この公園のどこかにブランコがあることを。見えなくても存在していることを。 キィ、キィ そしてそのブランコには誰かが、いや「何か」が乗っていることを。さらにそれが今まさにこちらを、俺を見つめていることを。 キィ、キィ 音が耳を掠めるたび全身が総毛立つ。

2019-06-07 23:21:18
空と踊る男 @dancewithsky

いけない。今すぐ逃げなくては。 キィ、キィキィ ブランコを漕ぐペースが次第に速くなっている。魔所が臨界に達しつつある。恐ろしいことが起きようとしている。 キィ、キィキィキィ 身体が キィ、キィキィキィキィ 動かない キィキィキィキィキィキィキィキィキィ 恐怖で凍りついたまま、Kくんは

2019-06-07 23:24:10
空と踊る男 @dancewithsky

鎖の揺れる音が一瞬止んだのに気づいた。 キィ―― ブランコに乗っていた「何か」が、凄まじい勢いをつけて前方へ跳び、Kくんの目の前に降り立った。目には映らないが肌で判る。 その何かがKくんの顔を覗き込み、同時に彼もそれの顔を「見た」。 激しい苦悶で歪み、両の瞼を針で縫われた子供の顔を。

2019-06-07 23:28:02
空と踊る男 @dancewithsky

Kくんはそのまま意識を失った。 目が覚めると朝だった。三角公園には誰もいない。 Kくんはしばらく自分が置かれた現実を把握できなかったが、ふいに我に返ると、もつれて震える足で這うようにその場を逃げ去った。 Kくんは子供の顔を、両の瞼が針で縫われていたこと以外はよく思い出せないと言う。

2019-06-07 23:30:33
空と踊る男 @dancewithsky

ただ、それが子供だったことは間違いないと断言した。 さらには思い出せないはずなのに、こうも述べた。 どこか見覚えのある顔で、なぜそれほど苦悶に満ちているのかも判る気がした、と。 これで話の本筋はほぼ終わりなのだが、後日譚がある。 KくんはOさんにこう言ったのだそうだ。あと4年ほど経つと

2019-06-07 23:32:48
空と踊る男 @dancewithsky

平成が終わり新しい元号になる、と(Oさんがこの話を聞いたのは平成27年の春頃である)。 そんなことがなぜ判る、と当然Oさんは疑問を呈した。当時まだ天皇の生前退位の話は全く出ていない。 「だって」Kくんはどこか虚ろな笑みを浮かべて言った。 「俺はあの時、目が覚めたら4年前に戻っていたから」

2019-06-07 23:36:14
空と踊る男 @dancewithsky

Oさんはもちろんそんな話を真に受けず、一笑に付した。ならおまえは未来人かよ。その『三角公園』とやらから時空の狭間に落ちたとでも言うのかよ、と。 「多分、そういうことなんじゃないかと思う」とKくんは真顔で答えた。「そしてあの子供に見覚えがあったのも、そのことと関係しているはずだ」と。

2019-06-07 23:38:20
空と踊る男 @dancewithsky

「だから、俺はあれからずっと過去を生きてるんだ。でもそうなれて良かったと思う。だって未来には本当に恐ろしいことが待ってるから。何か少しずつでも変えていければ……」 恐ろしいことって何だよ、とOさんは聞いた。だがKくんは「今は答えられない」と首を振るばかりだった。なら、せめて次の元号

2019-06-07 23:41:06
空と踊る男 @dancewithsky

だけでも教えろよ、とOさんは言った。ホラ話に愛想が尽きた気分で。 Kくんは迷った挙げ句、彼が元々いたという時代の元号を告げた。 筆者がこの話を聞いたのは今年の3月のことである。もちろんKくんが口にしたという新しい元号もOさんから教えてもらった。 「当たりますかね?」とOさんに問うてみた。

2019-06-07 23:44:23