【完結】ノース・アメリカン・エディション ＃５

劉度 @arther456

19分47秒、勝者、グレート・ムタ。決まり手はシャイニング・ウィザード。22

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「……待て、待て待て待て！」兵士たちは慌てふためいてムタを取り囲んだ。「おい逃がすなよ、絶対逃すなよ！？」「とにかくキーを奪わせるな！」「え、核撃つの？」「艦長の命令だろうが！」兵士たちは大混乱に陥っているが、それでもムタを逃がす気は無さそうだ。23

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ムタは既に限界だった。立っているのがやっとの状態だ。「あったぞ、キーだ！」兵士の１人が、ホーガンのズボンから核ミサイル発射キーを取り出した。彼はそれを持ってコンソールに向かおうとする。「待て」しかし、その鍵を一人の男が取り上げた。レフェリー、否、この艦の副長だ。24

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「副長！？どいてください、早く撃たないと……」「そいつは勝者の物だ。ミスター・ムタに渡せ」思わぬ発言に、兵士たちがどよめいた。「副長！？」「艦長の無念を晴らす気は無いんですか！？」「お前らこそ、漢と漢の一騎討ちにケチをつけるつもりか？」25

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「漢とか言ってる場合じゃないでしょう！？これは戦争……」「お前の意見など関係無し！」副長は兵士の反論を切って捨てる。「やろうと思えば、艦長はミスター・ムタを銃殺することもできた！だが、しなかった！お前らのような腰抜けのクズどもとは違って、艦長は漢だからだ！」26

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「そしてそれに真っ向から立ち向かったミスター・ムタも漢だ！そんな２人の漢の生き様を、放射能で汚すつもりか、この軟弱者共！せめて潔く負けを認めろ！」兵士たちは顔を見合わせる。「それでも納得行かない奴は、前に出ろ。俺様直々に、スマックダウンホテルにブチ込んでやる！」27

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副長は拳を握りしめた。人一人軽く殴り殺せそうな拳だ。そんな拳に襲われる勇気のある兵士はいなかった。副長はキーをムタに渡す。「いいのか？」「当然だ。これはアンタのベルトだからな」ムタはキーを受け取ると、副長に向かって小さく会釈をした。そして、司令室を飛び出していった。28

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――30

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片付けが終わったリングでは、ベルトの授与式が行われていた。「はい、どうぞ」「もっ！」第１回ALチャンピオンのいもちゃんに、豪華なチャンピオンベルトが渡される。勝利の証だ。「勝った！勝ったどー！」いもちゃんがベルトを掲げると、客席から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。31

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「いもちゃん、優勝おめでとうございます！一言お願いします！」早速、青葉がインタビューする。「今日の戦いはどうでしたか？」「大変だった。次は、打撃とか、特訓すゆ！」「おお、次の試合に向けてやる気満々ですね！」「チャンピオン！えっへん！この島もジムにすゆ！」32

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「……提督、これはまずいのでは？」不知火は提督をみやった。このままでは北方棲妹がこの島にジムを立てて居座ってしまう。そうなれば、わざわざプロレス興行をやった意味がない。しかし、提督は落ち着き払っていた。「大丈夫だ、こんなこともあろうかと、助っ人を呼んである」33

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「おい、なんだありゃあ？」不意に観客がざわついた。見ると、階段を登ってリングインする影があった。人間ではない、丸っこいフォルム。観客たちの多くは、ついさっきまでそれを見ていた。「ボクカワウソ……？」「なんで……？」ボクカワウソ、緊急リングイン。34

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「もっ。ボクカワウソ！」思わぬ乱入者に、のっぽちゃんは大喜びだ。何といってもまだまだ子供。こういうぬいぐるみは大好きである。ボクカワウソは青葉のマイクを指差した。「マイクですか？どうぞどうぞ」青葉からマイクを受け取ると、ボクカワウソは叫んだ。35

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「元気ですかーっ！」36

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Inoki Bom-Ba-Ye (Theme of Antonio Inoki) アントニオ猪木 youtu.be/BvmqYM1xpZA @YouTubeさんから

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「！？」「なっ……！」顔に似合わぬ野太い声に、ギャラリーは騒然とする。「元気があれば、なんでもできる！」ボクカワウソは観客の反応など露ほど気にせず、話し続ける。「そう、このいもちゃんのように！」「もっ……！」いもちゃんは何故か感動しているようだった。37

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「いもちゃん！」「もっ！」「君はまだ、マット界の第一歩を踏み出したばかりだ！世界にはまだまだ強いレスラーがたくさんいる！」「むむっ」「そう、チャンピオンになった君が次にやるべきなのは、遠征だ！日本各地の強豪レスラーと戦うんだ！」「え、遠征……！」38

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「いもちゃん、遠征、やれんのか！」「や……やる！」「声が小さい！やれんのか！」「やりゅ！」「バカヤローッ！」突然、ボクカワウソはいもちゃんにビンタを食らわせた。「ッ！」思わず不知火は身構える。「とーこん！とーこん！」だが、いもちゃんは何故か喜んでいるようだった。39

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「最後に、私から皆様にメッセージを贈りたいと思います」ボクカワウソは観客に向き直り話し始めた。「いもちゃんは、新たな世界に向けて歩き出しました。人は歩みを止めた時に、そして挑戦を諦めた時に年老いていくのだと思います」40

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「この道をゆけばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる」ボクカワウソの言葉に、なぜか観客の熱気が盛り上がっていく。「迷わず行けよ、行けばわかるさ！行くぞーっ！イーチ！ニー！サーン！」「「「ダーッ！」」」41

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「ありがとーっ！」割れんばかりの拍手を背に、ボクカワウソはリングを降りていった。こうして、AL海域ベルト争奪戦は終わった。しかし、いもちゃんの闘いはまだ始まったばかりである。次に彼女が戦うのは、一体どんな相手なのだろうか――。42

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提督はプロジェクターの映像を止め、話を聞いていた元帥たちに向き直った。「というわけで、いもちゃんがトレーニングするリングを建てるための予算をください」「待って、最後のボクカワウソの中の人って、まさか……？」「企業秘密です」「いや、どう見ても」「企業秘密です！」44

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【ノース・アメリカン・エディション】おわり