孔雀荘へようこそ とある冬の一日

twitter上の創作企画「空想の街」参加作品、孔雀荘へようこそのまとめです。
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十浦 圭 @ueto_rika

@Ne2_co 「…………。それは、なんだ……占いか何かかい?」突然喉につめたい針でも刺されたかのような心地で、それでも努めて軽く、シズクは尋ねた。5クルークなら手持ちはある。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り 凍った海面から聞こえるはずのない、波音が耳奥に響く。

2020-01-24 14:52:19
こみや@空想の街 @Ne2_co

@ueto_rika 「恋歌、を。思うことがあるなら……そのこころの、しるべにでも、どうとでも」 要領を得ない言葉に相手は困惑している。けれど、それだけではない。 「要らないならば、それでも。それだけのもの、ですから」 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 14:58:03
十浦 圭 @ueto_rika

@Ne2_co 「いや貰う」咄嗟に言えば、語気の強さに相手は少し怯んだようだった。様子がおかしいことも気取られているだろう。申し訳ないが、それもどうでもいい。数年前、あの人魚に砕かれてから戻らない彼女の幻想。ずっとシズクを苛むそれをどうすべきか標が欲しい。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:04:06
こみや@空想の街 @Ne2_co

@ueto_rika 「……それでは、お好きなのを」 差し出す枝に咲く、色紙の色々。金銀砂子。雲母引きの。紅に藍、鬱金に常盤緑。これは刷り模様。これは押し型。 ……いつも、どれを選ぶか、知っているような、知らないような、そんな気がする。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:15:12
十浦 圭 @ueto_rika

@Ne2_co 差し出された枝の、いくつもの文をシズクは緊張して見下ろす。緊張?馬鹿な、たかが縁起物なんかに、何故緊張する必要があるのだろう。そうは思っても、回る心は自分では止められない。迷った指がやがて一つを選び出す。「この朱の色のを」ヨウの髪色によく似た。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:19:16
こみや@空想の街 @Ne2_co

@ueto_rika では、と差し出し、開かれる内に。 しらたまも波も砕けて散るものをただ老松に冬の陽ぞ添ふ 「……あなたの……心の。穏やかでありますよう」 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:24:37
十浦 圭 @ueto_rika

@Ne2_co 「ああ……ありがとう」干上がった喉からなんとか声を出して、シズクはそれを受け取った。砕けた波は海へ戻り、また砕けて散る。繰り返すだけだ、繰り返すことしか出来ない。死ねないのだから。「……大事に、しよう」礼を言えば目の前のフードが小さく頷いた。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:32:28
こみや@空想の街 @Ne2_co

@ueto_rika 頷いて、ゆっくり口を開く。 「冬にも、陽は照っています」 相手の表情の中にあるものを、推し量ることはしない。それはこのひとだけのものだ。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:43:28
十浦 圭 @ueto_rika

@Ne2_co 「ずっと添うというのなら陽なんかじゃ意味がない!」思わず口をついて出て、シズクは狼狽した。ただ自分の生業を果たしただけの相手に、ぶつけていいような感情ではない。「……悪い、変なことを言った」忘れてくれ、とだけ言いおいてシズクは身を翻した。 #空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:49:34
こみや@空想の街 @Ne2_co

@ueto_rika 相手を追うことなどできるはずもない。自分はただ、示すだけのものだ。けれど、目前に閃いた相手の感情の熱量を思う。何ら摩耗していない感情だったと――ひとりだけになった海辺に、ただ薄日が差している。#空想の街 #孔雀荘 #けさう文売り

2020-01-24 15:55:44
十浦 圭 @ueto_rika

文がくしゃりと音を立てて、ああ皺になってしまった、とシズクは悔やむ。けれど手の力を抜くのは到底無理な話だった。 #空想の街 #孔雀荘 忘れることが出来れば良かった。実際上手くいっていたのだ。ヨウはもう二度と自分の前に姿を見せないだろうと、妖怪としての生をここで過ごすのも悪くないと。

2020-01-24 16:04:50
十浦 圭 @ueto_rika

熱病だった。罹った者は助からないと。朦朧とする意識の中自分が誰を呼んだのか、もうシズクは覚えていない。病床からいつの間にか海辺へと移動していたのも、自分の足で行ったのか。それとも。 #空想の街 #孔雀荘 そこで自分が何を口にした、のか。覚えてはいなくとも不老不死の肉体が答えだった。

2020-01-24 16:09:46
十浦 圭 @ueto_rika

得たくて得た不死ではない。かつての恋人の姿を、百年余りを費やしてもシズクは見つけることが出来なかった。死んでしまったのかと、頼ってきたこの街の死者の祭りでさえ、彼女を見せてはくれなかった。 #空想の街 #孔雀荘 だからもう、いいかと。ヨウの残してくれたものを愛せればと思ったのに。

2020-01-24 16:15:50
十浦 圭 @ueto_rika

あの人魚が。 #空想の街 #孔雀荘 なあ、ヨウ、おまえはおれを愛してくれていたんだろう。決して、どうでもいいと、その身を投げ出したんじゃなかったんだろう。ここでおまえを思いながら待ったっていいって、一度は思いかけたのに。 奪うなら、どうして。 傍にいてくれないのだ。

2020-01-24 16:23:25
十浦 圭 @ueto_rika

空はすっかり暗くなっている。ふらり、と身を揺らしてシズクは起き上がった。ここはどこだろう。激情が身を襲った後特有の虚脱に苛まれ、力なく辺りを見回す。とにかく帰らなくては。ベンチについた手がひどく冷え切っていた。 #空想の街 #孔雀荘

2020-01-24 20:35:11
空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

とある冬の一日。空想の街の参加、ありがとうございました!今回の企画はここで終わりですが、空想の街が消える訳ではありません。いつでも、だれでも訪れることの出来る街。街は夢の中に、夢はあなたの中に、あなたは現実の中に。 #空想の街 これにて、閉幕!

2020-01-25 00:19:29

後書き

十浦 圭 @ueto_rika

出そうか出すまいか迷っていたのですが、時間が取れそうだったのでつい書いちゃいました。悲壮な人って書いてて楽しい。 どかこで今のシズクさんの心情を明らかにしておきたかったで、書けてよかったです。相当キャラが立ってきたし、別所で短編にしてもいいかも。 #空想の街後書き #孔雀荘

2020-01-25 23:01:51