アニメ『けものフレンズ』1期 完成されたエピソード構成と作品テーマを分析&解説(ネタバレ有り)

アニメ『けものフレンズ』1期についてのレビューです。 衝撃的なまでに「優しい世界」を描ききった物語を、エピソードをピックアップして詳細な分析を試みます。 多くの人の心を捉えた「優しさ」の裏側には、意外なほどに力強いテーマが流れていました。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
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狂猫病 @kyobyobyo2

『けものフレンズ』1期は全体的なシリーズ構成もさることながら、各エピソードについても非常に完成度が高い 1話につき実質約20分という時間的制約の中で、各話で舞台を変えつつ、ストーリーを盛り上げ、オチをしっかりつけて次話へと繋ぎきっている エピソードをピックアップして解説してみよう

2020-03-12 01:07:55

狂猫病 @kyobyobyo2

まずは第1話『さばんなちほー』からだ このエピソードは作品の幕開けということで、視聴者へ伝えなければならない複数の「必須項目」がある つまり ・世界観、舞台設定 ・主人公のキャラクター、目的 ・「相棒」との関係性 といった、シリーズ第1話に必ず要求される要素だ

2020-03-12 01:15:00
狂猫病 @kyobyobyo2

『さばんなちほー』ではこうした伝達事項をしっかりとクリアしながら、ストーリーの盛り上げにも成功している 各シーンを細かく分割し、約20分間でどのように物語が構築されていたのかを確認してみよう

2020-03-12 01:18:28
狂猫病 @kyobyobyo2

中盤に挿入される動物解説、エンディングでのOP曲、次話への繋ぎを兼ねたアライグマ一行とPPPのパートを除くと、『さばんなちほー』は21分10秒のエピソードだ シーンは以下の10個の場面で構成されている ①草原 出会い(0:00 - 4:33) ②草原 旅への出発(4:34 - 5:39)

2020-03-12 01:25:50
狂猫病 @kyobyobyo2

③岩場・小川 セルリアン(5:40 - 7:54) ④木陰 休憩(7:55 - 9:22) ・解説(9:23 - 9:52) ⑤木登り(9:53 - 10:46) ⑥坂道~池(10:47 - 14:17) ⑦案内板(14:18 - 14:59) ⑧ゲート 大セルリアン(15:00 - 18:00) ⑨ゲート 別れ(18:01 - 20:00) ⑩道 夜(20:01 - 21:41)

2020-03-12 01:30:39
狂猫病 @kyobyobyo2

三幕構成として考えると 第一幕:① 第二幕:② ~ ⑧ 第三幕:⑨⑩ という分割が有力だろう ミッドポイントは池でカバと出会うシーン(12分10秒ごろ)と思われる

2020-03-12 01:35:23
狂猫病 @kyobyobyo2

第一幕での設定の提示は非常に端的だ 自分が何のフレンズであるかわからない主人公「かばん」は、サーバルに勧められ、「図書館」へと向かうことにする つまり作品の大目標として 「図書館へ向かう」 「自分の素性を調べる」 ということが真っ先にはっきりと設定される

2020-03-12 01:43:26
狂猫病 @kyobyobyo2

第二幕はこの「さばんなちほー」における、かばんとサーバルの旅を主軸として描くものだが、重要な要素に「主人公の成長」がある 第一幕の出会いでも「食べないでください!」という言葉によって明示されているが、主人公かばんは、その肉体的な弱さをエピソード前半で強調される

2020-03-12 01:46:43
狂猫病 @kyobyobyo2

③の場面で失敗を繰り返し落ち込むかばんを、サーバルは励ます 続く④でもサーバルはかばんの長所を発見しようとする この、「主人公劣位」とでも言うべき関係性が、本エピソード、さらには『けものフレンズ』という物語全体で重要な要素になっている

2020-03-12 01:55:11
狂猫病 @kyobyobyo2

「主人公劣位」で始まった物語は、終盤において必ず「主人公優位」を示さねばならない それこそが物語における「逆転」の爽快感であり、視聴者が物語を観る理由だからだ 問題は、「逆転」の布石がどのように配置されるのかだろう 決して「デウス・エクスマキナ」、つまり唐突なものであってはならない

2020-03-12 02:08:39
狂猫病 @kyobyobyo2

本エピソードではサーバルとの関係性の中に、逆転の種が蒔かれている サーバルはまず、失敗するかばんへ笑顔で手を差し伸べて引っ張り上げ、敵を倒し、励まし、尻を押して木の上へと持ち上げる 視聴者にもわかりやすい、頼りになる「相棒」からの無償の奉仕だ

2020-03-12 02:12:59
狂猫病 @kyobyobyo2

木登りのシーンに続く⑥の坂道で、サーバルの個性、そしてこの作品全体を貫くメッセージが明確になる 坂で足を滑らせ膝をついたたかばんの気配に、サーバルが振り向き心配そうな声を上げる 視聴者の誰もが、再び手が差し伸べられることを期待するシーンだ

2020-03-12 02:16:46
狂猫病 @kyobyobyo2

ところがかばんは一人で立ち上がり、わずかな微笑みを浮かべて歩き始める サーバルも無言で、どこか嬉しそうにそれを見つめている 手が差し伸べられることはない サーバルはかばんの保護者ではなく、かばんもまたサーバルに依存する関係を望んでいない

2020-03-12 02:20:35
狂猫病 @kyobyobyo2

一人で克服できる困難に対し、もう片方がお節介を焼いたりすることはないのだ 身体能力の優劣があったとしても、ふたりの関係が対等なものであることが、このほんの数秒の、ほぼ無言のシーンで見事に描かれている わずかな口元の笑み、優しげな視線の表現力が素晴らしい

2020-03-12 02:23:44
狂猫病 @kyobyobyo2

ミッドポイントにおけるカバの言葉によって、こうした思想は視聴者に対してもはっきりと示される 曰く「パークの掟は自分の力で生きること」だ サーバルがいかに肉体的に優れていたとしても、かばんは独力で困難を克服する力を身につける必要がある それが物語の、真の要点でもある

2020-03-12 02:29:58
狂猫病 @kyobyobyo2

エピソードのクライマックスの前に、もう一つ「種」が蒔かれる ⑦の、かばんが案内板の小箱から地図を取り出すシーンだ 長年ここに暮らしていたサーバルはその存在にすら気づいておらず、箱の開け方もわからない それは他のフレンズも同様だったことだろう 主人公の特異性が見えてくる

2020-03-12 02:33:14
狂猫病 @kyobyobyo2

かばんの知能の高さと手先の器用さは、紙飛行機という形になってサーバルの窮地を救う 独力で生きていくことを基本にしつつ、必要な状況では互いの欠点を補うために協力し合う 理想的なパートナーシップが示されたところで、視聴者は主人公の成長を喜び、素直な驚きを見せるサーバルへの愛着を深める

2020-03-12 02:43:29
狂猫病 @kyobyobyo2

ユニークなのは第三幕で、サーバルは一度かばんとの別れを経て、再びついて来る これは最終話のラストシーンにおいても繰り返されており、その意図について様々な解釈が可能だろう 解釈の一つは、今後のエピソードを通じて出会い別れるフレンズたちと、サーバルとの差異を示すというものだろうか

2020-03-12 02:48:17
狂猫病 @kyobyobyo2

別の解釈としては、やはり「独力で生きていく」という思想に基づくものだろう かばんとサーバルは、なんとなくの成り行きで一緒にいるのではなく、あくまで彼女たちの自由意志による選択の結果として共に旅をしているのだ

2020-03-12 02:53:54
狂猫病 @kyobyobyo2

孤独であることを認めつつも、自分以外の誰かのために何かを尽くし、それによってより強く他者と結びついていく 第一話の時点で、作品を貫くテーマがはっきりと示されていたことが理解できることだろう 表面的な印象とは逆に、『けものフレンズ』1期は非常に力強い思想をもった物語なのだ

2020-03-12 03:00:52
狂猫病 @kyobyobyo2

「パーク」では誰もが、自分の力で生きていかなくてはならない pic.twitter.com/tgNL2HGyRJ

2020-03-12 03:08:09
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狂猫病 @kyobyobyo2

『けものフレンズ』第3話『こうざん』における、かばんたち一行の目的は「山頂でのバッテリー充電」だ しかしこれはまさに「行って帰る”だけ”」の物語であり、エピソードの主題としては成立していない 傑出したエピソードだと多くの視聴者が認めたこの物語の構造を、細かく分解して観察してみよう

2020-03-14 01:08:36
狂猫病 @kyobyobyo2

まずは前回の解説と同様に、シーンごとに分けて物語の流れを掴む 途中の解説、OP・ED、アライグマ一行とPPPによる予告を除くと、実質21分28秒のエピソードである ①ジャングル(0:00 - 0:28) ②ロープウェイ駅 トキ(0:29 - 2:39) ・オープニング(2:40 - 4:09)

2020-03-14 01:15:39
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コメント

酸素喰う一文a.k.a.袖ビーム @kdfm1mon 2020年3月12日
【けものフレンズ2】シンボルの持つ力についての考察【ゆっくり解説】 https://nico.ms/sm34930794?cp_webto=share_others_iosapp この辺も一緒に見ると面白い
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☘️🌱えるびい🌿🍀 @ladybird0426 2020年3月12日
どこまでも作品に対する愛を感じますね
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uso800 @cD2A9zcGJM5iDfk 2020年3月12日
ところで全人類はけもフレ3をプレイすべきと考える
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両棲装〇戦闘車太郎 @d2N5Q4GciZtsa2e 2020年3月12日
第1話の完成度が高いのは間違いないんだけど、けど。 あの初見オブ初見の「なに・・・あれ・・・?」という困惑は、ソレはソレで決して忘れてはいけないモノだと思うが
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nanasiyzyz @aabyyz_ 2020年3月13日
けもフレ全体は完成度高いけど、1話は最も重要な「引きを強くする」能力が弱いのでそこまで完成度高くないと思う。ついでにいうと、物語も何の話か1話だけだと相当説明不足だし、何を楽しむ噺家もみえてこない。 これは売れた後のあとづけ解説に見える。けもフレが、どう愉しめばいい話かわかるのは3話ぐらいから。
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でー@でとこーだ @detcoder 2020年3月13日
「けものフレンズ」を1話切りしなかったフレンズが何を考えていたか(https://www.nicovideo.jp/watch/sm30672809)という動画を思い出した。3話が話題になった頃に1話を見返した勢なので私にはバイアスがかっているとは思うけど、似た感想を抱いた。キャラに惹かれるのもあるけど、「獣耳の少女が出る」程度の視聴前情報から話の方向性を見せるくらいの内容はあったと思う
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ナナシ @nanashist 2020年3月13日
けもふれ1期最後まで見たとき管理ディストピアをそれと気付かず幸せに生きてるフレンズみたいな感じですごくモヤモヤしたまま終わったんだけどあんまりそういう意見持ってる人居なかったので自分がどこで間違えたのかこういう人に教えてもらいたい。
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sake @sake_ne_ku 2020年3月13日
もし記憶をリセットできるなら、みんなが騒ぎ始める前に1話を見たい 今となっては、どのカットも台詞も大好きなんだけど、バイアスのかかってない状態で感動できたかを検証したい
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RGB000 @19666_61 2020年3月13日
記憶を消してみたいアニメ(前情報ない状態で自分がどう受け取るのか気になるの意味で)
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酔うかい?ウオッチ @midalixyseba 2020年3月13日
nanashist サファリパークのケモノ少女版なんだな、と思ったけど、経営中じゃなく滅んで人間も居ないっぽいからディストピア状態からは抜けて野生化してるんだなーと。ゲーム版漫画版等の元々の世界設定だと、いくら人間がフレンドリーでもフレンズが強くても「飼育研究する者とされる者」の関係は消えないから、アニメ版の滅んだ設定はそういう部分をよく消してくれたなーと思った
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草方 @kusakatakaito01 2020年3月13日
aabyyz_ 自分語りになるが、けもフレ一期の最大の欠点は一話だと思っている。ブーム真っ最中で、ニコニコで振り返り放送やってた時も、一話が見てられなくて断念した。12話は普通に楽しめたのに一話だけが何故かきつく感じる。
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まあちゃん02 @eK0SV72lWxlYb8L 2020年3月13日
あの"忌まわしい"騒動が無くても伝説になった作品だよなぁ。でもこの第一話が神作かというと疑問で↑のコメ欄にも述べていたけど3話から面白さが加速する作品だと思っている(動物の生態に詳しく人は1話で「これは…!」と思ったらしいが)
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狂猫病 @kyobyobyo2 2020年3月14日
まとめを更新しました。 『けものフレンズ』1期、第3話『こうざん』についての解説です。
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☘️🌱えるびい🌿🍀 @ladybird0426 2020年3月14日
kyobyobyo2 お疲れ様です、わたしも3話が特に好きなのでこうして解説されるとなるほどなーってなります
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むつぎはじめ @Six_D 2020年3月16日
第一話は後から考えて分析すると完璧なのだが、あまりに完璧な構成と画面の奇抜さ、あと言われてるようにヒキの弱さで初見どころか慣れてても「なんやこれ…」となっちゃうんだな
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むつぎはじめ @Six_D 2020年3月16日
あるいはより高度なメタとして「三話まではレビュー界隈が見てくれるから三話までに仕上げれば勝てる」という戦略だったんかなあと
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狂猫病 @kyobyobyo2 2020年3月19日
まとめを更新しました。 第11話『せるりあん』の構成と、1期シリーズ全体についての解説になります。
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狂猫病 @kyobyobyo2 2020年3月19日
文中「カピパラ」とあるのは「カピバラ」の誤りです。 指摘してくださった、カピパラやカビパラをカピバラに訂正するカピバラさん(@I_am_Capybara)ありがとうございました。
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de2007 @de20072 2020年3月19日
レビューとても面白かったです。1話は作品のロードムービー的なテンポに視聴者の身体を慣らすことも主目的の一つだったのではないかと思った。初見の感想が「最近あまり見ないのんびり加減だなぁ…」だったので。1話中に起承転結謎の提示までをやり切っているにも関わらず。そしてサーバルとの別れの淋しさ・心細さ、一緒に行くと決めたことを知った時の嬉しさ・喜びの感情を自然と視聴者にも喚起させることが最大の「引き」だったのかなと
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ころろ @zW9CLXUyu8cq5id 2020年3月19日
やはりやりよる者であったか、完遂ご苦労様でした。
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ころろ @zW9CLXUyu8cq5id 2020年3月19日
けもフレの成果の一つに、たつき監督という才人が世に認知されたという点があるんですが、実際には途中でクレジットから外れた脚本家、及び吉崎版プロット(https://togetter.com/li/1325641)が存在し、特に物語前半部やストーリーの大枠については影響が濃くあるだろうと思われるんですね。そう言った観点から、何かの際にはケムリクサお願いしたいな~と強く思っています。
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狂猫病 @kyobyobyo2 2020年3月21日
まとめを更新しました。 解説に取り上げなかった各エピソードについて、簡単に一言ずつコメントしています。
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