更新 2020年6月24日作成 2020年6月14日

北朝鮮漁船概説

例年多くの報道がなされる隣国北朝鮮の漁船だが、その詳細については殆ど知られてはいない。

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例年冬になると日本海側に多数漂着する北朝鮮の木造船たち。日本では木造船が漁船の主力の座を退いてから久しいため、「木造船＝北朝鮮」の漁船という印象を抱く方も少なからずいるのではないだろうか。また、総じて古く、黒く、国家間の交流が希薄で工作船事件もあったことから不可解で怪しい印象を抱く人もいるのではないだろうか。今回はそんな北朝鮮の漁船について、まとめてみた。

退去警告をうけて航行を開始する北朝鮮漁船 (海上保安レポート2018　より)

造船史

　日本からの解放（勝利）を果たして独立した朝鮮民主主義人民共和国の造船史は、日本の残していった木造船の建造設備と小型鋼船の修繕設備から始まった。独立直後に始まった朝鮮戦争（北：祖国解放戦争/南：韓国戦争）（1950-1953）によって港湾設備とともに破壊されたが、チェコやソ連の支援によって復旧されて次第に能力を向上させていく。
　1950年代に15t、30tの漁船(標準船)を、1960年には450tの冷凍運搬船を建造した。そして1960年代後半から1970年代にかけては全溶接ブロック工法を導入し3000tを超すトロール漁船や冷凍運搬船を建造した。その後も着々と造船能力を向上させてゆき1980年代には遂に20000t級の貨物船を建造する能力を持つまでに至った。また、軍事面では潜水艦やミサイル艇などの建造も果たしている。しかしその後はソ連の崩壊による支援途絶や経済状況の悪化のために、造船業は停滞している。

参考文献

「北朝鮮造船工業の概況(その1)」
2008年、黄宗屹・金龍煥・一色浩
「北朝鮮造船工業の概況(その2)」
2008年、黄宗屹・金龍煥・一色浩

北朝鮮漁船を取り締まる海上保安庁の巡視船＝海上保安庁提供

船の種類(用途による分類)

　漁船はその役割から「漁猟船」と「母船(工船)」、「運搬船」、その他に分類ができる。北朝鮮の漁船も日本やその他の国と同様に複数の船種がみとめられる。但し、外見からは判断することが難しい場合が多いため、以下には存在が記録にあるものを中心に列挙する。中には日本では存在しない（呼称が異なる）船種もある。ハングル表記の判明しているものは記載している。

漁猟船(ぎょろうせん)

魚をとるための船。一般的に漁船とよばれるものはこれにあたる。

万能漁船（만능어선/マンヌンオソン）
/万能船（만능선/マンヌンソン）
例：「黄金海（ファングムヘ）」級漁船
　　（2015年～建造、出力300PS）

北朝鮮で頻出の船種名が万能漁船(万能船)。詳細の用途は不明だが、多目的漁船あるいは汎用漁船といった意味合いの船種であろうか。新しい船では「万能漁船」として「黄金海」級、古いものでは1965年の5チョン切手に描かれている「만(マン)-2-220」に「万能船」の記載がみられる。

底曳網（そこびきあみ）漁船
トロール（뜨랄/トゥラル）漁船
例：「龍岳山（リョンアムサン）1」
　　「龍岳山2」号（1969年建造、3750t）

底曳網漁船の一種であるトロール船は3000トンを超えるような大型船も建造された。船尾に網を繰り出すランプ(スロープ)が備えられているのが外見上の特徴。冷蔵設備や加工設備をそなえたものは工船や母船に分類される場合もある。北朝鮮から遠く離れたアフリカ、モザンビークのマプト港で操業するSUSAN(水山/スサン)1・2号(モザンビーク船籍)は外貨稼ぎ目的での操業が指摘されている。

モザンビークで操業する船尾トロール漁船「水山(スサン)1」号(左)と「水山 2」号(右)（ともにモザンビーク船籍）。（CNNより）

リンク CNN.co.jp 北朝鮮、モザンビークで制裁違反の外貨稼ぎ CNN EXCLUSIVE 北朝鮮がアフリカ南部モザンビークで漁業ベンチャーや軍事協力を通し、国連制裁などに違反する取引を続けて外貨を稼いでいる現状が、ＣＮＮの独自取材で浮かび上がってきた。 - (1/2) 12 users 141

鮟鱇（あんこう）網漁船
例：「朝鮮労働党の娘-青年女性英雄号
（《조선로동당의딸-청년녀성영웅》호/チョソンロドンダンウイタル-チョンニョンニョソンウンヨンホ）」
(2015年建造、60トン級)
イカ釣り漁船
例：2017年11月、秋田県由利本荘市に漂着した木造船
イカ釣り漁船はイカを集める「集魚灯」が船上に取付けられているのが特徴。

　日本海中央に広がる海嶺(かいれい：海底山脈)である大和堆(やまとたい/日本領)は甘エビやスルメイカの好漁場として知られ、操業する北朝鮮船舶が多い。これに対し、日本の巡視船は船上で干されているイカを放水銃で台無しにする方法での対処を行っている。北朝鮮本土から離れた日本海中央における不十分な装備の小型木船での操業は、相次ぐ遭難事故を引き起こしているとみられており、毎年冬頃になると多数の木船が日本海沿岸に漂着している。