アニメ『ケムリクサ』の主人公は誰だったのか? 「自己犠牲」から繋がる作品テーマについても考察(ネタバレ有り)
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ストーリー構造と「主人公」
まず、三幕構成として考えた場合の『ケムリクサ』本編全体のストーリー構造から (丸数字が話数) 第一幕:①② 第二幕前半:③④⑤⑥ ミッドポイント:⑦ 第二幕後半:⑧⑨⑩ 第三幕:⑪⑫
2020-11-10 03:11:01この構成は、各話ごとのオープニングとエンディング映像の変化を見ることで、かなりはっきりと判別することができる 第一幕では ①:OPなし・EDなし ②:OPなし・EDに(本来の)オープニング映像 となっており、この2話を通してストーリー全体の「オープニング」としての役割が与えられている
2020-11-10 03:15:30第二幕では ⑦話までは通常のオープニング、⑧話からオープニング映像にいくつかの変化が見られる(進行方向、登場人物のカット) ⑦話における、水場とその危機的状況の発見によって物語の方向性がはっきりと変化している
2020-11-10 03:19:26⑪話ではオープニング映像の位置が10分過ぎとなり、この時点から第三幕と考えることもできるだろう 以降、⑪話のエンディング映像、⑫話のオープニングとエンディング映像にはともに小さな変化が加えられている pic.twitter.com/xzzOSI4xYy
2020-11-10 03:30:19ストーリーにおける各幕の要点は以下の通り 第一幕:わかばの合流、旅立ちの準備 第二幕前半:水場に至る旅 第二幕後半:赤い木に至る旅 第三幕:りりの記憶、赤い木との対決
2020-11-10 03:32:27ミッドポイントで、主人公一行の当初の目的である「水の入手」は達成されるが、そこで同時に新たな問題である「赤い木の脅威」が設定され、旅の目的自体が変化する この構成はたつき監督の前作である『けものフレンズ』1期でも用いられていたものだ(図書館→海)
2020-11-10 03:35:38以上のストーリー構造をふまえたうえで、『ケムリクサ』の主人公は誰だったのかを考察する 結論から言うと「物語の主人公」は りん であるが、「視点の主人公」としての多くの役割が わかば に与えられており、この観点からすると「ダブル主人公」の物語として解釈することも可能だろう
2020-11-10 03:41:56「物語の主人公」が女性、「視点の主人公」が男性という同じ構造の作品としては『タイタニック』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が挙げられる これらはいずれも、物語序盤は男性主人公からの視点で構成されつつ、ストーリーが進行するにしたがって女性主人公の内面へ興味が掘り下げられていく pic.twitter.com/yaGhHPIbKC
2020-11-10 03:46:11『ケムリクサ』が『タイタニック』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と共通なのは、男性主人公が「まれびと(客人)」として登場する点だ 「まれびと」は作品の舞台となるコミュニティ外からやって来る来訪者であり、異人だ この立ち位置は視聴者に作品舞台の状況を納得させるのに利用される
2020-11-10 03:50:22序盤3話における わかば はその好奇心と探究心を遺憾なく発揮し、姉妹に対し常に質問を続ける(名前、場所、ムシとは、ケムリクサとは etc) 彼は現況についてだけでなく、姉妹の過去についても無知であり、これは視聴者の置かれた状況とぴったりと重なり、作品とキャラクターへの感情移入を誘う
2020-11-10 03:57:14つまり作品序盤において、わかば は意図的に本作の主人公であると視聴者に思わせるような誘導がなされているということだ しかし『ケムリクサ』では物語が進行するにつれ、視聴者は りん が本作の真の主人公であることを自然に納得するようになっている どのような仕掛けが施されているのか?
2020-11-10 04:04:30まず物語の主人公の基本的な条件として「決断し続ける」ということが挙げられる 特殊なテーマを持つ作品を除き、現代の物語作品における主人公は常に主体的であることが要求されている 『ケムリクサ』において決断をするキャラクターは常に りん であることに注目してほしい
2020-11-10 04:10:52③話における旅立ちの決意、⑦話における「赤い木」討伐への決断、⑩話における「赤い木」の幹へ登る判断、そのすべてが りん に委ねられていた これらは幕の切り替えとなる重要な決断であり、わかば はそのきっかけでこそあれ、主体的な判断の主は常に りん である
2020-11-10 04:14:48もう一つの大きな傍証としては、「モノローグ」の有無が挙げられるだろう ここでの「モノローグ」はいわゆる「心の声」のことであり、これが作中で視聴者に聞こえるように発せられているのは、実は りん のみである わかば は独り言こそ多いが、「モノローグ」として心情を語るのは皆無だ
2020-11-10 04:20:19りん の「モノローグ」は序盤(特に②話)に非常に多く配置され、その後も随所で発せられている (④話のヌシ戦後、⑦話の わかば への感謝など) 序盤から内面に葛藤を抱えていたのは りん であり、わかば はそれを外側から視聴者とともに見つめていたという構図になっている
2020-11-10 04:29:15「視点の主人公」としての わかば は第二幕前半において、コミュニティ内(実際には りん の心中)での地位を向上させていく ③話での位牌のキャッチ、④話でのヌシ撃破に関わる機転、⑤話でのミドリの使用などがその向上イベントであると言えるが、⑥話における りく との遭遇で心理的な逆転が起こる
2020-11-10 04:38:27死んだはずの りく が生きていたという、りん たちの知り得ない情報が わかば にもたらされ、それは秘密として視聴者と共有されることになる ここから わかば はケムリクサの操作、手記の解読、壁の通り抜けなどの特殊能力を身につけることで成長を遂げ、他キャラへの優位性を明確なものとする
2020-11-10 04:44:08そしてこの逆転した りん と わかば の関係は、⑩話における「記憶の葉」を覗く場面(驚くべきことに、たつき監督はこれを「ラブシーン」として描いている)で再逆転する 明確な視点で「記憶の葉」を覗くのは りん 一人だけであり、視聴者の感情移入先はこの時点で りん へと移行する
2020-11-10 04:50:19「赤い木」との対決を通じて、「記憶の葉」の中での姉たちの生存に関する情報は りん へと共有される また、りり が成し遂げられなかった「ワカバの救出」は、「わかばの救出」という形で達成される この時点でふたりの情報のギャップは解消され、ぴったりと心情が(視聴者も含めて)重なっている
2020-11-10 04:59:04この瞬間に(一時的にしろ)りつ や りな たちが排除されているのは、まさに本作が「ラブストーリー」であることを示してもいる 視聴者は「ふたりの主人公」の間で視点を行き来しつつ、最後には彼らに心地よく寄り添うことができる、美しいエンディングを迎えることとなる
2020-11-10 05:02:53「自己犠牲」、「分割と成長」
『ケムリクサ』の主題(=テーマ)を探るうえで、注目するべきモチーフに「自己犠牲」がある 物語における「自己犠牲」は問題解決のための一つの手段であり、多くの場合クライマックスに配置されることとなるが、『ケムリクサ』におけるその描かれ方は、ある意味で執拗とさえ思えるほどだ
2020-11-16 23:05:39『ケムリクサ』作中での「自己犠牲」は、まずその1話目からふんだんに描写される 物語のオープニングは りん と りなこ が一島に残った最後の水を発見する場面であり、りなこ はこの水を守るため大型のアカムシと単独で戦闘し、相打ちとなって消滅する pic.twitter.com/DRxCTS63aX
2020-11-16 23:12:39